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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
二章 ブラッド・バケーション

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第45話

「んはははは!!あのクソマズい透明草とやらを食べてシャチホコの裏に潜んでいたんだ。まったく気づかなかっただろ~!?」


 クロはこの10分間、透明草を食べつつひたすら大助を待ち続けていたのだ。大助が女をホテル内部に蹴り飛ばしたあの瞬間、大助がクロに指示した内容がこれだ。


「マスターから「熱海城の屋上で透明草を食べつつ待機。女が転移してきたら拘束しろ」なんて言われた時は意味が分からなかったが、こういう事だったのか」


「ぐ…クソガキが……放せ!!」


 女がクロの巨大化した腕から逃れようと足掻く。


「おお…マ…マスター、殺す気で拘束してるのにこいつ生きてるぞ……何者なんだこの人間は…?」


「よくやったクロ。そのまま全力で抑え込んどいてくれ」


 大助が素早く女に近づいていく。そして腰元に装備していたポーチと拳銃を奪い取った。


「こういう「仕事」をしてる連中はみんな切り札を隠し持ってやがるからな。…悪いが使わせねえよ?」


「クソ野郎が…!!」


 殺し屋の口から発せられる罵声を意にも介さず手早くポーチに収納されていたアイテムを処分していく大助。


(…ん?これは……)


 大助がポーチに仕舞われていた黒いスマートフォンを発見する。それをわざとらしく手に持ちながら大助は殺し屋の瞳をじっと覗き込んだ。


「…っ!?貴様っ……」


「…ふ~ん…なるほどなるほど……」


 大助が殺し屋の瞳を覗き込みつつタイミングを見計らいある言葉を呟く。


「依頼人」


「…?」


 呟きの真意が分からず殺し屋がつい大助の瞳を見返してしまう。いや、見返してしまったのだ。その濁り切った暗い瞳を。それを待っていた大助が素早く単語を口に出していく。


「不動産…瞳孔が動いたな。年上…年下……なるほど、年上だな。友人…いや違うな。元同僚とか…ああ、そっちの可能性が高いか。となると候補は……」


「なっ…!?」


 誘導尋問。それに気が付いた殺し屋が慌てて両目を閉じる。


「ん…?ああ…まあ、大体誰かは絞れたし後はサプライズとでも思っておくか」


(これはまた、面白くなりそうだな)


 黒いスマートフォンを自身のポケットに仕舞いつつその顔にわずかな笑みを浮かべる大助。その様子を見てついに気でも狂ったのかと心配したクロが慌てて大助へと疑問を投げかける。


「なあマスター?…その、右腕が無くなってるけど大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫大丈夫。こういう時のためのアイテムはちゃんと用意してある」


 大助が懐から最上級のポーション「エリクシール」を取り出し飲み干す。


「ん~…?なんか苦くとも甘い変な味がするな」


(これ1つで1000万コインだ。調整中の武装や未実験のアイテムまで使うような事態になるのは想定外だったが、それ以上に得た情報には価値があった)


 そして数秒で大助の欠損していた右腕が完全に復元される。その光景を唖然とした顔で見つめる女。


「…お前らは…一体…何なんだ?」


 その言葉と表情に嬉しそうな表情を浮かべる大助。


「俺達はただの「人間」だよ。自分の幸福を最優先にして生きるだけのただの人間だ。そのために他人がどうなろうが知った事じゃない。あんたもそうだろ?」


「……違う」


 女ははっきりと金本大助の正体を口にする。


「お前は人間じゃない。「化け物」だ。人と同じ言葉を喋り、人と同じような感情を持っているかのように振る舞っているだけの「化け物」だ」


「……」


 大助は否定も肯定もせず視線を逸らす。


「…やっぱ、あんたはまだ人間だな……」


「…?」


「それでマスター?こいつをどうすればいいんだ~」


「そうだな。…クロ。適当に海にでも投げ捨てといてくれ」


「了解だ!」


 いくぞ~という掛け声と共にクロが投擲の姿勢に入る。


「ぐっ…!ちくしょうが…!!」


 大助との戦闘で極限まで体力を消耗した女。それでも限界を超えてクロの拘束から逃れようと足掻く。その姿を大助は眩しそうに見つめていた。


(まだ動けるのか。まだ諦めないのか。…いいね。いいよ。最高だ。素敵だ。…この人間にはまだまだ可能性が残されている。ここで詰むのは余りにももったいない)


「さてと。…殺し屋協会副会長マリー・ブラウン。あんたなら海に投げ捨てられても生還できるだろ。だから言っておく。あんたは「依頼」に失敗した。ここを切り抜けても次に待っているのは「組織」からの粛清か他の同業者に「懸賞金」を掛けられて潰されるのかのどっちかだろ。この手の噂ってやつは直ぐに広がるからな」


「……っ!!」


「だけどな。俺はあんたを高く評価している。あんたは優秀な人材だ。もし今後「道」に迷う事があれば俺を訪ねてくれ。あんたからの相談なら俺はいつでも大歓迎だ」


「……」


 大助の言葉に腸が煮えくり返ったかのような表情を見せる女。だが大助はその表情に隠された確かな不安を見抜いていた。


(また近い内に会う事になりそうだな。その時が楽しみだ)


「…というわけでクロ。そいつを海に向かってぶん投げろ」


「よし!うおおおおりゃああああ!!」


 クロが全力で女を投擲する。右腕だけを竜形態に変化させたクロの全力の投擲が女を海の彼方へと吹き飛ばす。それからしばらくして海面に大きな水柱が立ち上がった。


「よし。よくやったクロ」


「ふふん!どうだマスター!これが私の力だ!!」


 パシパシと両者共にハイタッチを決める。


「それにしてもマスター。あの女の事を最初から知っていたのか?それならそうと最初から教えてくれればよかったじゃないか」


「…ん?ああ…まあ確証は無かったからな。サンビーチに向かう途中にクラリアから情報が届いてな。それで何となくそうじゃないかと確認したらビンゴだっただけだ」


「おお~…マスターは色々と考えているんだな」


「…いや、俺が考えてる事なんて1つしかない」


「んお?」


 大助が少しだけクロから視線を逸らしつつ答える。


「今を楽しむこと。俺の目的なんてそれだけだ」


「……ん?」


 ドカドカドカドカ!!と物凄い速度で花火が打ち上がる。


「そういえば花火大会の最中だったな」


(結構な物音を立ててたと思うが、それでも続行するとか人間って凄えよな)


 夜空には色鮮やかな花が次々と咲き乱れ海面を眩しく照らし出す。


「おお~やっぱりこの爆発物は綺麗だな~」


「ああ。本当にな」


 夜の天守閣。仄かに血の匂いを漂わせ、真っ赤な返り血に染まった金本大助とクロ。その姿とは裏腹に表情は穏やかなものだ。心地よい疲労感と共に、二人はのんびりと終わりに向って咲き狂う夜空の花を眺めていた。

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