第44話「金本大助VSラビ 2」
「ハァ…ハァ…ハァ……」
フラフラと体を揺らしつつも気合で踏みとどまるラビ。魔力切れの症状に耐えつつもラビは油断してはいなかった。自分の切り札程度で金本大助が倒れるわけが無い。そこにはある種の確信めいた言葉がラビの脳内に渦巻いていた。
「……」
黒い砂煙の中。大量の壊れた剣が散乱する中、ラビのその姿を大助は興味深そうに観察していた。
「いいね……」
大助は非常に嬉しそうにそう呟く。生き物のように独立して動く自立式の魔法。剣を雨のように飛ばす魔法。そのどれもが興味深い技ばかりだったからだ。
(ラビが最後に使った魔法。あれはまだ使い慣れてないって感じだったな。多対一や「格上」の相手を想定した切り札ってところか)
「ふむ…」
ラビの戦闘理論。戦いのクセ。好んで使う魔法などを脳内でまとめつつ今後の育成方針を大助は考える。
(粗削りだが近距離にも遠距離にも一応は対応出来てるな。…緊急時の動きも悪くは無い。悪くは無いが…まだまだ改善点が多いな。まあこれに関してはゆっくりと段階を踏ませて鍛えていくのがベストか。短時間で急激に成長させる方法もあるが…ぶっ壊れて使い物にならなくなると興醒めだしなぁ……)
「さてと……」
「…っ!?」
砂煙の中から無傷の大助が何事も無かったかのように姿を現す。
「良い魔法だった。だが、未完成だ。その魔法にはまだまだ可能性が残されているぞラビ」
「……」
上機嫌な大助の言葉をラビもまた嬉しそうに聞き入れる。
(褒めて伸ばすとは良く言ったもんだ。成功体験を積み重ねさせ、自信を持たせる。そして適度に壁を設けて挑戦させる。自らの意思で「やってみたい」と思わせる事が重要だ。その為ならいくらでも甘言を口にするさ)
「正直に言うとだな。最初の一撃でサクッと仕留めるつもりだったんだ。だが、お前はここまで俺を楽しませてくれた。であるならば、俺もそれ相応の返礼をしないといけないわけだ」
「…っ!?…それは…つまり……」
「ああ。今回だけのスペシャル大サービスだ。お前が目指すべき方向をちょっとだけ教えてやる」
「___‘魔操術‘」
その言葉と共に大助が持つ十手に魔力が流れ始める。そして眩い蒼色に変化した十手を地面へと打ち立てる。
「まああれだ。目で見て盗めってやつだ。お前にはこの技を習得できる可能性がある」
「…っ!?」
そして大助を中心に色とりどりの半透明な花が周囲の空間一帯に咲き乱れる。床も、天井も、その全てが花で覆われた。
「……綺麗」
幻想的な光景に一瞬だけ心を奪われるラビ。そしてそれが命取りとなった。
「___‘紫陽花‘」
___極彩色の閃光。
___そして轟音。
___その全てがラビを襲った。
「……はっ!?」
がばっ!という音と共にラビが飛び上がる。
「……」
混乱は一瞬。自身の頭上に戦闘不能の文字を確認したラビががっくりと地面に倒れ伏した。
「…うう。負けてしまいました」
ちらりと右側に座り込んでいた大助の表情を伺うラビ。その視線を見た大助は何度も満足そうに頷いていた。
「負けて良いんだよ。練習試合ってのはそういうもんだ。重要なのは「何」を「得た」のかだ」
「…はい」
「ふむ…」
ラビの様子が落ちついた事を確認した大助がゆっくりとラビの問題点を指摘していく。
「お前はちょっと真面目過ぎるな。ああいや、それも美点ではあるんだけどな。…釣り針の裏には返しってのが付いてるだろ?これは一度刺さった魚を逃さない為の凶悪な仕組みなわけだ。刺さった時には気が付かない。だが、針を抜こうとしたときには大きな障害になる。それと同じ事だよラビ」
「…なるほど……」
大助からやや遠回しながらも具体的なアドバイスを受けたラビが次々と知識を吸収していく。
「まあ、なんだ?今回の「実験」で何か得る物があったのなら嬉しいかな」
「はい。とても参考になりました!」
「…そうか」
上機嫌なラビをジッと観察する大助。
(進むべき方向は示した。あとは全てお前次第だ)
敗北に喜ぶラビの姿。それを楽し気に大助は観察していた。




