表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: リバー
PR
5/6

咀嚼音

賢治がスタジオから姿を消した翌日、そのスタジオに入ったのは、彼の先輩であるベテランミキサーの達也だった。

賢治の私物や機材はそのまま残されていたが、本人の姿だけが消えていた。 

達也は賢治のパソコンの画面に残された音声データを不審に思い、再生ボタンを押した。

スピーカーから流れてきたのは、これまで行方不明になった若者たちの声ではなかった。


「クチャ、クチャ。 じゅるり」


と何かをすするような音。骨が噛み砕かれる


「バキ、ボキ」


という鈍い音。

それは、紛れもない


「何かが肉を貪り喰う音」だった。


「なんだ、この悪趣味な音源は……」 


達也は眉をひそめ、再生を停止しようとした。

しかし、マウスが反応しない。キーボードの強制終了も効かない。

大音量の咀嚼音が、スタジオの高性能スピーカーから容赦なく吐き出され、壁を振動させる。

 

「クチャ、チャプ、バキィ」 


その音は、あまりにも生々しかった。生肉を引き千切り、骨の髄まで吸い尽くすような、飢えた獣、あるいはそれ以上の怪物の食事風景が、音だけで鮮明に脳裏に浮かび上がる。 


達也は不快感のあまり、スピーカーの電源ケーブルを直接引き抜いた。 

ブツン、と音が消え、スタジオに静寂が戻る。達也はふぅ、と深くため息をついた。 

しかし、その静寂は長くは続かなかった。 

「クチャ……クチャ……」 

また聞こえる。今度はスピーカーからではない。達也のポケットの中からだった。 

達也は恐る恐るスマートフォンを取り出した。

画面を見ると、勝手に「録音アプリ」が起動しており、現在進行形で音を拾い、それをリアルタイムで再生していた。

画面の波形が、達也のすぐ近くにある「音」に反応して大きく揺れている。

(まさか、この部屋の中に誰かいるのか?) 達也はスタジオ内を見渡した。

防音扉は閉まっており、鍵もかかっている。隠れられるような場所はない。 

スマートフォンの画面を見る。波形は、達也が動くのを止めても、激しく動き続けている。

それどころか、スマートフォンのマイクは、達也の「すぐ足元」の音を捉えているようだった。 

達也はゆっくりと視線を下ろした。 スマートフォンの画面に映る波形と完全に同期して、達也自身の「影」が、床の上で不自然にのたうち回っていた。

そして、影の頭部にあたる部分が大きく裂け、そこから白い歯が覗き、達也の足を「クチャ、クチャ」と音を立てて喰らい始めていた。達也が痛みに気づくよりも早く、彼の身体は音の中に溶けるように消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ