ノイズ音
4つ目 ノイズ
真由の部屋から見つかったスマートフォンには、一つの奇妙な音声ファイルが残されていた。
それを解析することになったのが、音響エンジニアの賢治だった。
警察からの非公式な依頼を受け、賢治は深夜のスタジオで一人、スピーカーに向き合っていた。
真由が失踪した夜に録音されたと思われるそのファイルは、大半が激しいノイズに覆われていた。
「ザザザ、ザーー」
という、テレビの砂嵐のような不快な音が延々と続いている。
「ただの環境ノイズか……?」
賢治はヘッドフォンを装着し、音声の周波数を調整した。
不要な高音と低音を削り、ノイズの奥に隠された音を抽出しようと試みる。
すると、ザーという砂嵐の隙間から、かすかな「声」が浮き上がってきた。
『……んじ……けん……じ……』
賢治は息を呑んだ。ノイズの向こうで自分の名前が呼ばれている。
声の主は、間違いなく真由だった。いや、真由だけではない。
その背後から、大介や、最初に行方不明になった和也の声までもが混ざり合って聞こえてくる。
『賢治、助けて』
『苦しいよ』
『ここはすごく狭いんだ』
三人の声が、代わる代わる、あるいは同時に賢治の耳に飛び込んでくる。
賢治は鳥肌が立つのを感じながらも、プロとしての使命感からボリュームを上げた。
彼らがどこにいるのか、手がかりを掴まなければならない。
「和也、大介、真由、君たちは今どこにいるんだ?」
賢治は思わず、マイクに向かって話しかけるようにスピーカーへ問いかけた。
もちろん、これは過去に録音されたデータだ。返事があるはずがない。
しかし、ノイズが急に静まった。
完全な無音。
オーディオメーターの針がピタリと中央で止まる。
そして、これまでとは比較にならないほどクリアな音声が、ヘッドフォンを通じて賢治の脳内に響き渡った。それは、三人の声が完全に一つに融合した、不気味な合成音声のようだった。
『ねえ、賢治。そっちの居心地はどう?』
「なっ……」
『ここはね、音が全部集まる場所なんだ。お前の声も、ずっと聞こえていたよ』
賢治は慌ててヘッドフォンを外そうとした。
しかし、手が動かない。
ヘッドフォンがまるで耳に張り付いたかのように、強力な磁力で頭部に固定されている。
『賢治、お前が一番いい音を出しているよ。ほら、心臓の音がこっちまで丸聞こえだ』
ヘッドフォンから流れるノイズは、いつしか賢治自身の「ドクン、ドクン」という心臓の鼓動音に変わっていた。
そしてその鼓動に合わせて、ヘッドフォンのコードが生き物のように蠢き、賢治の首へと巻き付き始めた。




