足音
3つ目 足音
大介もまた、忽然と姿を消した。
二人の友人を立て続けに失った女子大生の真由は、底知れぬ恐怖と孤独の中にいた。
警察の捜査は一向に進まず、周囲では「神隠し」や「集団自殺」といった不吉な噂が飛び交っていた。
その日の夜、真由は大学の図書館で遅くまで資料を探していた。
気がつくと時計の針は午後十時を回っており、周囲に人の気配はなかった。
急いで荷物をまとめ、街灯のまばらな夜道を駅へと向かう。
「コツ、コツ、コツ」
静まり返ったアスファルトに、真由の履くローファーの音が響く。
早く家に帰りたい一心で、自然と歩調が速くなる。
「コツ、コツ、コツ、コツ」
ふと、真由は違和感を覚えた。
自分の歩くリズムに対して、聞こえてくる足音の数が、わずかに多い気がしたのだ。
(気のせいよ。きっとそうよ。) 自分に言い聞かせ、真由はわざと一歩、大きく踏み出して足を止めてみた。
ピタリ。
真由の動きに合わせて、背後の音も止まった。
やはり気のせいだったのかと胸を撫で下ろした瞬間、真由が次の足を出す前に、背後で「コツ」と、一歩分の足音が遅れて響いた。
誰かが、自分の後ろを歩いている。
それも、真由が立ち止まると同時に足を止め、気配を隠そうとしているのだ。
恐怖が一気に冷気となって背中を駆け上がった。
真由は振り返ることなく、歩く速度を上げた。早歩きから、軽いジョギングへ。
それに合わせるように、背後の足音も「タタタタ」と速度を上げてついてくる。
距離は確実に縮まっていた。「いや……!」
真由はついに全力で走り出した。夜の住宅街を、駅の明かりを目指して必死に駆ける。
しかし、背後の音は尋常ではなかった。
「トトトトトトトトトトトトトトトト!」
それは、人間の二本の足が出せる音ではなかった。
まるで、無数の細い足が、凄まじい回転数で地面を引っ掻きながら追いかけてくるような、おぞましい駆動音だった。
百足か、あるいはそれ以上の巨大な何かが、猛スピードで迫ってくる。
真由は自宅のアパートへと逃げ込んだ。
オートロックのドアを滑り込みながら閉め、鍵がかかるのを確認する。
エントランスのガラス越しに外を見るが、そこには誰もいなかった。
激しく呼吸を乱しながら、真由は自分の部屋がある三階へと階段を駆け上がった。
一段飛ばしで階段を上る真由の足音。
そのとき、一階の階段の踊り場から、あの音が聞こえた。
「トトトトトトトトトトトトトト!」
それは、壁や天井を垂直に這い上がってくるかのような音だった。真由が自分の部屋の前にたどり着き、震える手で鍵を閉めるためドアノブに鍵を差し込もうとした瞬間、階段の暗闇から、無数の「人間の手足」を不自然な角度で結合させたような異形の塊が、音を立てて踊り場に姿を現した。




