第8章 それぞれの目的、そして旅立ち
サイリンはついに、イザウたちの隠れ場所を突き止めた。
その瞬間——トロマン老人が即座に動く。
地面から無数の棘を持つ植物が生え、サイリンの身体に絡みついた。
「今じゃ、早く行け! こやつが動けぬうちに……仲間が来れば終わりじゃ! 頼む、イザウ……孫を連れて行け!」
わずかな猶予しかない。
イザウは歯を食いしばり、ルシを抱き上げた。
「行くぞ!」
「おじいちゃん……やだ……置いていかないでぇ……!」
ルシの泣き叫ぶ声が背中に突き刺さる。
だが、立ち止まることはできなかった。
彼らは地下水路を駆け抜け、ロベルの街を離れる。
やがて境界へと辿り着いたとき、進むべき道に迷うイザウへ、ソラが口を開いた。
「一度……私の家の跡に行こう」
「何を取りに行くんだ?」とイノリア。
「父の手記よ。この世界の地図も載ってる……これからの旅に必要になる」
「でも……あの家、バルクに壊されたんだろ?」とイザウ。
「大丈夫。地下の研究室にあるの。きっと無事よ」
彼らは森の縁を回り込みながら進んだ。
イザウの腕の中で、ルシは泣き疲れて眠っている。
その寝顔が、せめてもの救いだった。
やがて辿り着いたのは、崩れ落ちたソラの家。
瓦礫をかき分け、地下への入口を探す。
「……あった!」
「本当!? それ、階段よ!」
二人は地下へ降りていく。
外ではイノリアが、ルシを膝に抱きながら見張っていた。
やがて——
「見つけた!」
ソラの手に握られていたのは、父の手記。
さらにイザウも一冊の本を掲げる。
「こっちも見ろ。伝説の武器についての研究書だ」
「……これで、道が開ける」
二人は地上へ戻り、入口を再び瓦礫で覆い隠した。
「本当にそれで間違いないの?」とイノリア。
「ええ。間違いないわ」
ソラは鍵のついた首飾りで手記を開いた。
そこには——メシラ神殿、悪魔、そして数々の研究記録。
静寂の中、イザウが口を開く。
「決めた」
その声には、迷いがなかった。
「俺たちはチームだ。伝説の武器を集めて、悪魔を倒す。それがトロマン爺さんの願いだ」
そして——
「ソラの父親も助ける。きっと、悪魔と関係がある」
さらに続ける。
「メシラ神殿……そこが鍵だ。次元の穴にも関係してるはずだ。俺とイノリアも、元の世界に帰る方法が見つかるかもしれない」
イノリアが頷く。
「うん……帰れるかもしれない」
ソラの瞳が揺れる。
「……ありがとう。私のために……」
「違うよ」
イノリアは優しく抱きしめた。
「私たちは仲間でしょ」
イザウは眠るルシを抱き直す。
「行こう。旅の始まりだ」
だがソラが呼び止める。
「その前に……ミユのお墓に行きたい」
誰も反対しなかった。
彼らは山へ向かう。
途中——振り返ると、ロベルの街が炎に包まれていた。
「……爺さん、無事でいてくれ」
その願いは、風に消えていった。
ミユの墓の前。
ソラは静かに頭を下げる。
そして顔を上げた。
「行こう。絶対に……辿り着く」
「最初の目的地は?」とイザウ。
「決まってる」
ソラは手記を閉じた。
「西にはすぐ行かない。途中で寄る場所がある。でも最終的には——最西の谷、“闇の谷”。そこにメシラ神殿がある」
「頼もしいな、案内役」
「案内役じゃない!」
頬を膨らませるソラ。
イザウは苦笑する。
「悪い悪い」
「まずは南西の街よ。そこで休む。それからコンパスを手に入れる」
彼らは歩き出した。
夜の森を、イザウの青い炎が照らす。
数時間後——
遠くに灯りが見えた。
「見えたぞ!」
「あれが目的の街よ」
夜明けが近づいていた。
「やっとだ……ルシ重かった……」
「文句言うな。男でしょ?」とイノリア。
「厳しいな……」
「だらしないだけ」
「可愛げゼロだな」
「何ですって?」
耳を引っ張られる。
「痛っ!」
ソラが笑う。
「ほんと仲いいよね、二人とも」
「ち、違う!」
イノリアは真っ赤になる。
やがて辿り着いたのは——
ライルの街 (Rair City) 。
水路が張り巡らされた、美しい運河都市。
「すげえ……」
「観光気分じゃないでしょ」とイノリア。
「冗談だよ」
しかし、違和感があった。
「……言葉が分からない」
「ほんとだ……」
ソラが説明する。
「この星の共通語よ。他の次元から来た人のために作られたの」
「……お前、何者だよ」
「七つの言語は話せるわ」
「天才かよ」
「勉強が好きなだけ」
やがて宿を見つけ、部屋へ。
イザウは床に倒れ込むように眠った。
ソラとイノリアはベッドへ。
だが夜明け前——
イノリアはそっと起き上がり、毛布をイザウにかけた。
翌日。
最初に目を覚ましたのはルシだった。
「ここ……どこ?」
「ライルの宿よ」
ソラも目を覚ます。
「……ごめんね」
「ううん。おじいちゃんが決めたことだよ」
ルシは強くなっていた。
「私も手伝う」
イノリアは抱きしめる。
「ありがとう」
そこへ——
「ぐえっ!?」
床のイザウが踏まれる。
「起きろ」
「雑すぎだろ!?」
笑いが戻る。
やがて支度を整え、外へ。
道中——
イザウが立ち止まる。
「……あれ、いいな」
美しいコンパス。
店主が声をかける。
「何かお探しかい?」
ソラが答える。
「そのコンパスを」
「いい目してるね。最後の一つだよ」
イザウが口を挟む。
「俺たち、伝説の武器探しててさ——」
ゴンッ!!
イノリアの拳が炸裂する。
「バカなの!?」
「痛ってぇ!!」
店主は苦笑しながら言った。
「……なら、いい話がある。ホトヤの街に、伝説の武器があるって噂だ」
その名に、ルシが反応する。
「そこ……私の生まれた街……」
空気が変わる。
イザウは拳を握る。
「決まりだな」
新たな目的地が——定まった。
イザウはさらに意気込みを強めていた。ルシの過去についても知りたいと思っていたからだ。もしかすると、ホトヤの街(Hotoya)には彼女の親族がまだいるかもしれないのだから。




