第7章 黒星の悪魔、現る
夜が明けたその朝、激しい雨が大地を叩きつけていた。だがそれでも、イザウ、イノリア、ソラ、そしてトロマン老人とその孫は、ミユを埋葬するために広場へと向かった。
葬儀の最中、ソラは地面に膝をついたまま、ずっと泣き続けていた。妹の死を、どうしても受け入れることができなかったのだ。ミユは、彼女にとって唯一、いつも傍にいてくれた家族だった。
イノリアはそんなソラを必死に慰めようとする。しかし、彼女もまた、ソラの悲しみに胸を締めつけられ、やがて抱きしめながら共に涙を流した。
やがて埋葬が終わると、トロマン老人が静かに声をかける。
「さあ、戻ろう……雨も止む気配がない。それに、あの子はもう向こうで安らかに眠っている……しばらくは、皆わしの家にいなさい」
しかしソラは、墓にしがみついたまま動こうとしない。
トロマン老人はそっと肩に手を置き、優しく立ち上がらせた。
「さあ、行こう」
そうして一行は、彼の家へと戻ることになった。
街道を歩く途中、彼らは町の人々の視線を一身に浴びることになる。ひそひそと囁かれる声、そして露骨に距離を取る者たち。
彼らはすでに、「町の長を殺した者たち」として見られていた。
「人殺しめ! もうすぐ王国の兵が来て、お前たちは処刑されるぞ! 逃げられると思うな!」
通りすがりの男がそう叫んだ瞬間、イザウの表情が険しくなる。
だがトロマン老人がそれを制した。
「挑発に乗るな。今はただ、わしの家へ戻ることだけを考えろ」
「でも……本当に王国の兵が来たらどうするんですか?」とイノリアが不安げに問う。
「心配はいらん。この町は王都から遠い。遠征隊でも到着には二、三日はかかる。それに、ヒューゴを倒した相手と知れば、半端な兵は送ってこんだろう……おそらく、その報告もまだ届いたばかりじゃ」
老人は一度言葉を切り、ソラの方を見た。
「まずは休め。特に……あの子の状態が心配じゃ」
家に着くと、トロマン老人は薬草を使って彼らの治療を始めた。特にイザウは深い刺し傷をいくつも負っており、念入りな手当てが必要だった。
治療の最中、イザウは自分とイノリアが第十次元の惑星インカから来たこと、次元の穴に吸い込まれた経緯、そしてヒューゴとの戦いのすべてを語った。
やがて昼食が用意され、皆で食卓を囲む。
だが、ソラは俯いたまま、ほとんど食べようとしない。
その様子を見かねて、トロマン老人の孫が声をかけた。
「ねえ、お姉ちゃん……そんなに悲しまないで。わたしも両親を失ったとき、すごく悲しかった。でも、おじいちゃんがずっと一緒にいてくれたの」
小さな手が、そっとソラに伸びる。
「お姉ちゃんには、友達がたくさんいるよ。もしよかったら……わたしも友達になりたいな。わたし、ルシアナ(Lusiana)。ルシって呼んで。お姉ちゃんの名前は?」
ソラはゆっくりと顔を上げ、かすかに微笑んだ。
「ソラ……アルナ・ソラ」
「わあ、きれいな名前! よろしくね、ソラお姉ちゃん! 今日から友達だよ。だから、もうそんなに悲しまないで」
ソラは優しくルシの頭を撫でた。
その光景に、イザウとイノリアは安堵の息を漏らす。
「さあ、冷めないうちに食べなさい」とトロマン老人が促した。
「……おいしい」
「ほんと? これ、ほとんどわたしが作ったんだよ! おじいちゃんの手伝いだけど!」
食卓には、久しぶりにわずかな温もりが戻っていた。
食事を終えると、トロマン老人は三人に休息を取るよう命じた。
部屋は狭く、ベッドは二つしかない。イザウは床に毛布を敷いて寝ることにした。
やがて夜は更け、深夜近く。
イノリアは眠れず、天井を見つめていた。
「ねえ、イザウ……もう寝た?」
「いや……眠れない」
「……そっか」
しばらく沈黙が続く。
「ソラは?」
イノリアは横を見る。
「ぐっすり寝てるよ」
「そうか……よかった」
「ねえ、イザウ……床じゃ寒くない?」
「平気だよ。それに、隣で寝たら……迷惑だろ?」
イノリアは少し頬を赤らめ、視線を逸らす。
「……別に、嫌じゃないけど」
だがイザウは、その意味を理解できず、ただ困惑するばかりだった。
そのとき——
ドォォォンッ!!
激しい爆音が家中を揺らした。
「な、何!?」
次の瞬間、階段を駆け上がる音。扉が勢いよく開かれる。
現れたのは、息を切らしたトロマン老人だった。
「今すぐ逃げろ! この場所は襲撃されておる!」
「逃げません」
即座にイザウが立ち上がる。
「迎え撃ちます」
「馬鹿者! 外の連中は……ヒューゴ以上のヴァークを持っておる!」
しかしイザウは引かない。
「それでも、守ります」
「私も戦う!」イノリアが続く。
「私も……ミユの仇を討つ!」ソラも決意を固めた。
彼らは外へ飛び出す。
そこにいたのは、三人の黒いローブの人物。
額には星の紋章。
その姿は——明らかに異質だった。
縫い閉じられた目の女、口を縫われた男、顔を縦に裂くような縫い目を持つ男。
「……やはり、ザトラックスの手下か」
イザウが呟く。
中央の男がフードを外す。
「面白いヴァークだな……自然系か」
そして名乗る。
「俺はハルス(Haruth)。こっちは弟のダルス(Daruth)。そして——サイリン(Sairin)。我らは黒星の五悪魔」
「ヒューゴを殺した者を処分しに来た」
イザウは一歩前に出る。
「それ、俺だ」
「イザウ、挑発しないで!」イノリアが制止する。
しかし次の瞬間、イザウは青い炎を纏い、サイリンへ突撃した。
だが——
「甘い」
片手で止められる。
「第三段階の炎か……悪くない」
フードが外れ、縫われた目が露わになる。
「……どうやって見てるんだよ」
「子供ね」
サイリンの手に、紫の光を帯びた雷球が生まれる。
それが放たれる直前——
巨大な木の壁が出現し、攻撃を防いだ。
「今じゃ! 逃げろ!」
トロマン老人の叫び。
彼らは走った。
その背後で、家が爆発する。
「おじいちゃあああん!!」
ルシが叫ぶ。
イザウは彼女を抱き上げ、そのまま走り続けた。
やがて廃墟に身を潜める。
泣き続けるルシ。
だが——
瓦礫の上から、トロマン老人が現れた。
「無事じゃ……」
その言葉に、皆が安堵する。
だが状況は最悪だった。
「奴らは……ヴォイド (Void) を使っておる」
「ヴォイド……?」
「悪魔特有の力じゃ。ヴァークと融合し、力を増幅させる」
勝ち目は薄い。
だからこそ、老人は提案する。
「お前たちは逃げろ」
だが——
「断ります」
イザウは迷わなかった。
「騎士として、逃げるくらいなら死ぬ」
「私も守る!」ソラ。
「私も戦う!」イノリア。
トロマン老人は歯を食いしばる。
そして、口を開いた。
「……ならば、別の道がある」
それは——
「六つの伝説の武器を集めること」
空気が変わる。
「古の契約に関わる武器……」
ソラが呟く。
だがその瞬間——
天井が崩壊した。
煙の中から、ゆっくりと姿が現れる。
そして——
「見ーつけた♡」
サイリンの不気味な声が、地下に響いた。




