第6章 隠された真実
イザウは地面に倒れ伏し、もはや戦える状態ではなかった。ヒューゴはゆっくりと近づき、その頭を何度も殴りつける。鈍い音とともに血が激しく流れ出した。
やがてヒューゴの腕に形成されていた結晶の拳は形を変え、鋭い槍のように変質する。
そのまま――イザウの頭を貫こうとした瞬間。
閃光のようにソラが飛び込んだ。
強烈な蹴りがヒューゴの頭部を打ち抜き、彼の巨体を吹き飛ばす。
続いてイノリアが駆け込み、倒れたヒューゴに無数の氷の礫を降り注がせる。さらに水流を叩きつけ、それは触れた瞬間に凍りついた。
氷に封じられたヒューゴへ――
ソラが高電圧の雷撃を叩き込む。
轟音とともに氷が砕け散った。
巻き上がる粉塵が視界を覆う。
だが煙が晴れたとき――
ヒューゴは、わずかな傷を負っただけで立っていた。
結晶の盾で守っていたのだ。
彼は軽く身体を払う。
まるで今の攻撃など、最初から存在しなかったかのように。
ソラとイノリアはすぐにイザウの元へ駆け寄る。
息はある――だが酷い。
頭部からは大量の出血、肋骨は数本折れ、全身に深い傷。
それでも――
二人は立ち上がる。
自分たちも満身創痍でありながら。
戦わなければ、全員死ぬ。
「ずいぶんと粘るな……運命に抗うつもりか。ならば、その死を少し早めてやろう」
ソラとイノリアは全力でヒューゴに挑む。
だが――
まったく通じない。
氷も、雷も。
すべてが無意味だった。
「遊びは終わりだ。次はお前たちも、あの小僧のようにしてやる」
ヒューゴは倒れたイザウを指差す。
次の瞬間――
一撃。
それだけで、ソラとイノリアは吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられ、傷はさらに深まる。
ヒューゴは動けないイノリアに近づき、腹部を殴りつけた。
血を吐くイノリア。
そしてヒューゴの腕は、再び結晶の剣へと変わる。
とどめを刺そうと振り下ろした、その瞬間――
間に割って入った影。
イザウだった。
剣は彼の体を貫き、血が噴き出す。
そのまま崩れ落ち、イノリアの上に倒れ込んだ。
「なんで……私をかばうのよ……バカ……」
震える声。
イザウはかすかに笑った。
「……約束したからだ……アリシア(Alicia)姉さんに……お前を……生きて連れて帰るって……」
「俺は……騎士だからな……」
ヒューゴは再び剣を振り上げる。
二人まとめて貫こうとした、その時――
結晶の刃が砕け散った。
ヒューゴの体が吹き飛ぶ。
遠距離から放たれた雷撃。
ソラだった。
彼女の身体には――緑色の雷が奔っている。
第三段階のヴァーク。
「それ……」
「第三段階か……俺に追いついたな……」
イザウがかすれた声で呟く。
「そんなことより自分の心配しなさいよ!……あと重いのよ、どきなさい!」
ソラの怒りは頂点に達していた。
緑の雷を纏い、ヒューゴへと突撃する。
圧倒的な速度で連撃を叩き込む。
イノリアはイザウの傷を氷で凍結し、止血する。
「動くな……傷が開く……私は援護に行く」
イノリアも戦線へ復帰する。
氷でヒューゴの足を封じ、動きを鈍らせる。
その隙にソラが攻め続ける。
雷撃が次々と直撃し、ヒューゴは追い詰められていく。
苛立ちの表情。
そして反撃に転じようとした瞬間――
上空から降り注ぐ、青い火球。
イザウだった。
巨大な爆発がヒューゴを飲み込む。
「バカ……動くなって言ったでしょ……」
「……騎士はな……約束のためなら……死ぬ覚悟くらいある」
炎が収まる。
ヒューゴはふらつきながら立っていた。
だが、その目には明らかな怒りが宿る。
両手を地面に突き刺す。
大地が震えた。
「なに……地震……?」
次の瞬間――
無数の結晶が地中から噴き出し、ヒューゴを包み込む。
やがてそれは一つの巨大な形となる。
――結晶の巨人。
内部でヒューゴが操る、ダイヤモンドの怪物。
イザウ、イノリア、ソラは同時に飛び出す。
三方向からの総攻撃。
だが――
破壊しても、瞬時に再生する。
終わりのない再生。
それでも攻撃を続ける三人。
巨人の攻撃は遅い。
回避は可能だ。
(胸だ……そこに本体がいる)
イザウは見抜いた。
三人で胸部を狙う。
だが、貫けない。
決定打が足りない。
それでも諦めない。
三方向からの連携で動きを封じる。
そして――
イザウが胸部を砕く。
続いてソラ。
さらにイノリア。
ついに内部に届く。
ヒューゴの体から血が滲む。
だが――
次の瞬間、再生。
巨人は反撃し、三人を吹き飛ばした。
倒れたソラに、巨人の足が迫る。
踏み潰される――その直前。
空からの一撃。
巨人の脚が砕け散る。
さらに追撃。
腕も破壊され、巨人は倒れた。
上を見る。
観客席に、フードの人物。
「……誰だ?」
だが巨人は再生し、再び立ち上がる。
「邪魔をするな……!」
その瞬間――
フードの人物は一瞬で目の前に現れた。
地面から無数の根が伸び、巨人を拘束。
そして――粉砕。
ヒューゴの本体が引きずり出され、根に絡め取られる。
ヒューゴは結晶で反撃するが――
すべて回避される。
その衝撃でフードが外れた。
姿を現したのは――
トロマン(Toroman)じいさん。
ソラの店の主だった。
ヒューゴが突撃する。
だが根が四肢を絡め取り――
骨を砕く。
「ぐああああああ!!」
さらに鋭い根が地面から突き出る。
とどめを刺そうとした瞬間――
「やめろ……殺すな」
イザウの声。
根が止まる。
「なんで止めるのよ!!ミユを殺したのよ!!」
ソラが涙を流して叫ぶ。
「……その前に聞くことがある」
イザウはヒューゴに近づく。
「次元の封印……何が起きた……全部話せ」
ヒューゴは笑う。
「ガキが……」
次の瞬間――
イザウはヒューゴの右目を引き抜いた。
握り潰す。
絶叫。
「次は命だ」
冷たい声。
ヒューゴはようやく口を開いた。
――20年前、最北の都市トリーで始まった出来事。
ダルクシ族。
アトロクス(Atrox)とザトラックス(Zatrax)を崇める魔族。
封印から解き放たれたザトラックス。
魂のヴァークを操る悪魔。
彼は兄アトロクスを解放するため、次元封印を破った。
世界各地に潜伏する配下。
その一人が――ヒューゴ。
「つまり……お前もか」
「ああ……俺がアキラズの研究を報告していた」
「どこだ……アキラズは」
「生きている……だがザトラックスに囚われている」
「場所は!?」
「知らん……それ以上はな……」
イザウは静かに頷いた。
「……ありがとう」
次の瞬間――
青い炎が灯る。
「時間だ」
「ふざけるな!!約束は――」
言葉は最後まで続かなかった。
イザウの拳が、何度も叩き込まれる。
そして――
両手で頭を掴み。
「さよならだ」
青炎が燃え上がる。
ヒューゴの絶叫が、やがて途絶えた。
完全な沈黙。
トロマンはその光景を見つめながら、心の中で呟く。
(……この少年……恐ろしいほどの憎しみを抱えている)




