第5章 無垢なる魂の消失
イザウ、イノリア、ソラ、ミユは、街の兵士たちに取り囲まれていた。彼らに突きつけられた罪は、街の支配者の子を殺したというものだった。
四人は手足に枷をはめられ、そのまま街中を引き回される。民衆の怒号と憎悪が渦巻く中、野菜やゴミ、さらには石まで投げつけられた。
やがて彼らは牢獄へと放り込まれる。
冷たい鉄格子の中、ミユは怯えきった声で、自分の姉であるソラにしがみついた。
「お姉ちゃん……怖いよ……出たいよ……」
ソラは震える妹を抱きしめながら、必死に落ち着かせようとする。
数時間後、再び現れた看守に連れられ、四人は裁判の場へと引き出された。
厳かな空気の中、最高裁判官の問いかけに対し、イノリアたちは答える。しかし――
イザウだけは、一言も発さなかった。
それは諦めではない。
胸の奥で燃え上がる怒りを押し殺しながら、彼はただ機を待っていた。
時折、その鋭い視線が街の支配者――ヒューゴ(Hugo)へと向けられる。
そして裁きは下された。
四人全員、公開処刑。
ロベルの住民すべての前で、その命は断たれることが決定した。
やがて彼らは円形闘技場へと連行される。
ミユは恐怖に耐えきれず、涙を流し続けていた。
中央に据えられた処刑台。四人は首を落とされる姿勢に固定される。
ミユは泣き続け、ソラは必死に慰める。
イノリアは拘束されながらも暴れ、兵士たちに向かって叫んだ。
「全員ぶっ殺してやる!!」
だが――
イザウは、なお沈黙していた。
その沈黙の裏で、彼は決めていた。
処刑の瞬間、力を解放し、全てを焼き払うと。
その時――
ヒューゴがゆっくりと四人の前に歩み寄る。
「泣くのはやめろ、小娘。死ぬ前に涙など無意味だ」
ミユにそう言い放つと、今度はイノリアへと視線を向けた。
「そして貴様は黙れ。うるさくて耳が痛い」
次に、イザウの前で足を止める。
「おい、無口な男……怖いのか?死ぬのが。ははは」
ヒューゴは笑いながら、イザウの髪を乱暴に掴んだ。
その瞬間――
イザウが、低く呟く。
「……何言ってんだクソ野郎。お前の言葉なんて分かるかよ、バカが」
「ほう……その言語か。第十次元の者だな……面白い」
ヒューゴは言語をインカ語へと切り替える。
そして最後に、ソラへと冷たい視線を向けた。
「貴様はアキラズの娘か……ずいぶん成長したな。だが――残念だ。ここで死ぬ」
ソラの瞳が揺れる。
「安心しろ。私の息子は役立たずだった。死んでもどうでもいい。ただ……お前たちの処刑は、私の娯楽になる」
その言葉に、ソラの胸がざわつく。
(お父さん……生きてるの……?)
「どこなの!?お父さんはどこなのよ!!」
叫び続けるソラ。
そのやり取りを見ていたイザウの中で、何かが繋がった。
(アキラズが生きてる……?こいつ、次元の封印と関係してる……!)
次の瞬間――
イザウの両手から炎が噴き上がる。
拘束していた枷が熱で膨張し、弾け飛んだ。
「なっ――!」
ヒューゴは即座に命じる。
「処刑を実行しろ!!」
刃が落ちる。
だが――
ギリギリの瞬間、イザウは解放され、落下する刃を鎖ごと掴んだ。
兵士が剣で斬りかかる。
しかし――
右手の炎で焼き払われた。
観客たちは恐怖に包まれ、逃げ惑う。
イザウは鎖を柱に縛り付け、仲間たちの拘束具を破壊する。
解放された直後、処刑装置そのものを炎で焼き尽くした。
遠くからヒューゴが笑う。
「ははは……これは面白い。全員、攻撃しろ」
残った兵士たちが一斉に襲いかかる。
「ここは任せて!あんたはヒューゴを!!」
イノリアが氷の嵐を放ちながら叫ぶ。
イザウは頷き、観客席上部へと駆け上がる。
そこには――
玉座に座るヒューゴがいた。
「来たか、小僧。どこまでやれるか見せてみろ」
「まずは吐かせる……アキラズのことをな」
「やれるものならな」
イザウは炎の拳で突撃する。
しかしヒューゴは軽々と回避。
(デカいのに速すぎる……!)
攻撃速度を上げても、すべて弾かれる。
距離を取って放った巨大な火球。
だが――
厚い鉄壁に阻まれた。
(鉄のヴァーク……第三段階か……!)
「それだけか?」
ヒューゴは鋼の拳を形成し、反撃に出る。
猛攻を避け続けるイザウ。
だが追い詰められた瞬間――
鉄の拘束が四肢を絡め取った。
炎で溶かそうとするが、逆に自分の手を焼く。
「愚かだな」
そのまま、ヒューゴの拳が叩き込まれる。
腹に、頭に、何度も。
一方――
イノリアたちは兵士を殲滅し、上へ駆け上がる。
だが三人がかりの攻撃すら、ヒューゴには通じない。
氷も、水刃も、雷撃も。
すべてが弾かれる。
そして――
三人は次々と叩き伏せられた。
血を流し、動けない。
それでもミユだけは立ち上がる。
しかし――
片手で捕まれ、投げ飛ばされた。
何度も叩きつけられ、身体は限界を迎える。
それでも――
最後の力で、背後から蹴りを入れる。
「ちっ……鬱陶しいガキだ」
かすり傷。
その代償は、あまりにも重かった。
ヒューゴの猛攻がミユを襲う。
やがて彼女は、完全に動けなくなる。
ヒューゴは鉄の槍を生成し――
無防備なミユの頭へと向けた。
「やめて!!」
ソラの叫び。
その瞬間――
ミユは振り向き、微笑んだ。
そして――
槍が、突き刺さる。
血が噴き出す。
「いやあああああああああ!!」
ソラの絶叫が響く。
イノリアは涙を流しながら、ただ見ていることしかできない。
そして――
イザウ。
動けぬまま、その光景を見ていた。
その瞳が――変わる。
怒りが、限界を超えた。
炎が青へと変質する。
鉄を溶かし、拘束を破壊。
解き放たれたイザウは、一瞬でヒューゴへ迫る。
怒りに任せた猛攻。
青炎が鉄壁を溶かしていく。
(もっと速く……もっとだ!!)
ついに数発が直撃。
ヒューゴの体に火傷が刻まれる。
巨大な火球が直撃し、爆煙が広がる。
勝利を確信した――その時。
煙が晴れる。
そこにあったのは――
巨大な結晶壁。
「……なに……?」
結晶が消え、無傷のヒューゴが現れる。
「ようやく本気を出す時が来たようだな。私は地のヴァーク最終段階――ダイヤモンド結晶を極めている」
絶望的な宣言。
「逃げろ……イザウ……」
イノリアが弱々しく言う。
「お願い……」
ソラも続く。
だが――
「逃げるかよ……」
イザウの声は震えていなかった。
「絶対に……殺す」
再び青炎を纏い、突撃する。
しかし――
すべて結晶に阻まれる。
(最初から遊ばれてたってことか……!)
やがて動きが鈍る。
その隙を突かれた。
地面から突き出る結晶の山。
腹を貫かれ、吹き飛ばされる。
空中で捕らえられ――
結晶の拳が連続で叩き込まれる。
そして――
イザウは地に叩き落とされる。
全身血まみれで、動けないまま。




