第4章 厄災の子
ソラは皆に逃げるよう促した。しかし、イザウはその場から動かず、自分の両手をじっと見つめていた。自分がヴァルクの力で制御を失い、バークを殺してしまったことが、どうしても信じられなかった。
「どうしてお前は“厄災の子”なんて呼ばれているんだ、ソラ? 答えろ!」
「どうして……どうしてそんなに知りたがるの? どうして……どうしてあなたは……」
ソラは涙を流しながら目を閉じた。
イザウはゆっくりとソラに近づき、彼女を抱きしめる。
「なあ、泣くなよ……全部を一人で背負う必要なんてない。少しくらい、俺にも背負わせてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、ソラは堰を切ったように泣き出し、イザウに強く抱きついた。
「イザウ……」
「ソラ、あの夜のこと覚えてるか? 俺、寝てなかったんだ。お前の後をつけて街まで行ったんだよ。人に見られないように、夜に買い物してただろ? ……まあ、もし顔を知られたら、ひどい扱いを受けるんだろうけどな」
ミユはその言葉を聞いて俯いた。人々から受けてきた仕打ちを思い出したのだ。
「だからさ……少しでいい。お前の重荷を、俺に分けてくれ。俺は……お前のためなら、何だってする」
ソラは涙を拭いながら、小さく頷いた。
「……私は、人に見つからないように夜に出歩いてるの。必要なものは、優しいおじいさんのお店で買ってる……トロマンじいさん(Toroman)っていうの。あの人だけは、私を遠ざけなかった。むしろ……とても親切にしてくれた」
少し落ち着きを取り戻したソラは、ゆっくりと語り始めた。
「どうして私が“厄災の子”なんて呼ばれるのか……それに、どうしてあんなに色々なことを知っているのか……全部、話すね」
ソラは一度深く息を吸い込んだ。
「どうして私が十二の次元の伝説を知っているのか……それはね、メキシラの神殿を見つけたって言われているその学者……それが、私の父だから」
イザウとイノリアは息を呑んだ。
「父は……十二の次元の鍵と扉を研究していた。そして、メキシラの神殿にある古代文字を解読したのも……父なの」
ソラは遠くを見るような目で続けた。
「母はミユを産んだ時に亡くなった。だから私たちは、父と三人で暮らしていたの。母は電気のヴァルクを使えたけど、父は何のヴァルクも持っていなかった。だから、私たちは母の姓を名乗っている」
「父はね……自分に力がないからこそ、別の形で役に立ちたいって思ってた」
ソラの声は、どこか誇らしさと悲しさが混ざっていた。
「それで父は学者になった。そしてこの星に伝わる“十二次元の鍵が存在する”っていう伝説を、本気で追い始めたの」
「でもそのせいで、父は仕事もせず研究ばかり……生活のために家も土地も全部売って、森の端に安い土地を買って、あの家を建てたの」
イザウは黙って聞いていた。
「やがて手がかりを見つけた父は……神殿を探す旅に出た。私とミユを一時的に孤児院に預けて」
ソラは拳を握る。
「父の名前はアキラズ(Akiraz)。医者でもあった。かつて街を救ったこともあるの……害虫を駆除する薬を作って、飢饉から人々を救った」
「……でも」
ソラの声が震えた。
「その父が……大きな罪を作ったって言われてる」
イノリアが小さく息を呑む。
「父と助手のヨロダ(Yoroda)は、西へ向かって旅を続けた。そしてついに、森の奥で奇妙な洞窟を見つけたの」
ソラは、まるでその場にいたかのように語る。
「中は迷路みたいで……一年以上もかけて進み続けた。言葉を解読しながら、出口を探して……やっと神殿への道を見つけた」
「そして辿り着いたのは……底が見えないほど深い大穴」
イザウが眉をひそめる。
「石を落としても、音が返ってこなかった。でも父は諦めなかった。崖を爆破して、大量の岩を落としたの」
「その時……音が聞こえた。“水に落ちる音”が」
ソラの瞳がわずかに揺れる。
「それで父たちは確信した。下は水だって」
「……そして、二人は飛び込んだの」
「えっ……」
イノリアが驚きの声を漏らす。
「真っ暗な中を落ちて……そして本当に水に辿り着いた。でもその水は普通じゃなかった」
ソラはゆっくりと言葉を選ぶ。
「濡れない水……触れても感触がないのに、泳げる水。そして……中で呼吸もできる」
イザウは思わず呟く。
「なんだそれ……」
「さらに深く潜ると……上下が逆転したの。そこはまるで別世界だった」
ソラの声は、どこか畏怖を帯びていた。
「巨大な洞窟、青く光るキノコの森……そしてその中心に、小さく見える神殿」
「それが……メキシラの神殿」
静寂が流れる。
「でも、その途中で……化け物に襲われた」
ソラの声が低くなる。
「ヨロダは腕を食いちぎられて……父は爆弾でその怪物を倒した」
ミユは目を閉じ、辛そうにしている。
「その後、父は一人で神殿へ向かった。ヨロダを残して」
「……それから父は戻ってこなかった」
イザウが静かに尋ねる。
「……じゃあ、どうやってそれを知ったんだ?」
ソラはゆっくりと答えた。
「孤児院にいた時……ある夜、フードを被った人が窓を叩いたの。そして、父の手記を渡してきた」
「それはヨロダからの伝言だった」
「何て言ってたんだ?」
「“次元の封印は開かれた……アキラズは……”って……そこまで言ったところで、背後から現れた“悪魔”に襲われたらしい」
空気が凍りつく。
「ヨロダは最後に袋を渡して、その人を逃がした……中には金貨と宝石が入ってたって」
イノリアが震える声で聞く。
「ヨロダは……その後……?」
「数日後、ロベルの街(Robel City)の外れで遺体が見つかった。全身切り刻まれて……腐敗してた」
沈黙。
「犯人はわからない。でも……私は確信してる」
ソラは強く言った。
「“あの悪魔”がやったんだって」
イザウは腕を組み、考え込む。
「……妙だな」
イノリアも頷く。
「ええ……最初から全部、おかしい」
ソラは唇を噛む。
「でも、父が疑われて……私たちは追放された。みんなに“厄災の子”って呼ばれて……」
その瞬間――
ガサッ、と音がした。
気づいた時には、周囲は完全に囲まれていた。
武器を構えた兵士たちが、四人を取り囲んでいる。
「動くな!」
「手を上げろ! お前たちは完全に包囲されている!」




