表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第2章 異なる次元

 イザウが目を覚ましたとき、彼は柔らかなベッドの上に横たわっていた。


 「……ここは……?」


 ゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡す。見慣れない天井、木の香りが漂う室内。確かに自分はベッドの上にいる——だが、ここがどこなのか分からない。


 次の瞬間、彼の脳裏にある人物の姿が浮かんだ。


 「イノリア……!」


 勢いよく立ち上がり、部屋を飛び出す。


 「イノリア! イノリア!! どこだ!!」


 叫びながら扉を開けたその瞬間——


 ドンッ!


 「うわっ!?」


 外から入ろうとしていた誰かと正面衝突し、二人揃って床に倒れ込んだ。


 「いてて……」


 顔を上げると、そこには金髪の少女がいた。年はまだ幼く、どこかあどけなさが残っている。


 イザウはすぐに立ち上がり、手を差し出した。


 「悪い、大丈夫か?」


 少女はその手を取り、軽く微笑む。


 「うん、大丈夫だよ」


 「……あのさ、ここってどこなんだ?」


 イザウが問いかけるが、少女が答える前に彼は再び思い出す。


 「……そうだ、イノリア!」


 「ねえ、探してるのってピンク色の髪の子?」


 「そうだ!イノリアだ!無事なのか!?」


 少女は安心させるように頷いた。


 「大丈夫だよ。お姉ちゃんが森の中でキノコ採りしてるときに、二人を見つけたんだって」


 その言葉を聞いた瞬間、イザウの胸の中の不安が一気にほどけた。


 「……よかった」


 少女はイザウを案内し、二階にある部屋へと向かう。


 階段を上がる途中、彼女は振り返り、にこっと笑った。


 「そうだ、自己紹介してなかったね。あたし、アルナ・ミユリア(Aruna Miyuria)。ミユって呼んで」


 「よろしく。俺はハマ・イザウだ。イザウでいい」


 やがて部屋に入ると——


 そこにはベッドに横たわるイノリアの姿があった。


 「……っ」


 イザウは安堵の息を漏らす。


 まだ意識は戻っていないようだが、呼吸は安定している。


 そのとき——


 扉が開き、もう一人の少女が入ってきた。手には温かい料理と飲み物を乗せたトレイを持っている。


 「あ、目が覚めたんだね」


 ミユが紹介する。


 「この人があたしのお姉ちゃん、アルナ・ソラヤ(Aruna Soraya)。ソラって呼んで。森であなたたちを見つけた人だよ」


 ソラは穏やかに微笑む。


 「はじめまして。偶然、森で倒れているあなたたちを見つけたの」


 「助けてくれてありがとう」


 イザウは頭を下げる。


 そして、自分と、まだ眠っているイノリアのことを簡単に説明した。


 そのとき——


 「……ん……」


 イノリアのまぶたがゆっくりと開く。


 「……ここは……? ……私たち、どこにいるの……?」


 「俺もよく分かってない。でも——無事なのは確かだ」


 イザウは事情を説明する。自分たちが森で見つかり、この姉妹に助けられたことを。


 「……ありがとう」


 イノリアは静かに頭を下げた。


 すると、ソラが少し真剣な表情で口を開く。


 「心配しなくていいよ。あなたたちは——次元の穴によって、この世界に飛ばされただけだから」


 「……は?」


 イザウは思わず間抜けな声を出した。


 「次元……だと?」


 「うん。この星では、毎年必ず別の世界から人が流れ着くの」


 「意味が分からないんだけど……」


 ソラは続ける。


 「ここは、あなたたちがいた場所とは違う世界——ミランダ星(Planet Miranda)」


 「……は?」


 理解が追いつかない。


 「どうしてそんなこと分かるんだよ。それに、こんなことが何度も起きてるのか?」


 ソラは少し窓の外へ視線を向ける。


 「西の果てにある山……マガウマ山(Mount Magauma)。その奥にある洞窟の先に——古代の神殿があるの」


 彼女は指を差す。


 「メクシラ神殿(Mexira Temple)って呼ばれてる場所」


 「そこに、この現象のすべてが記されている」


 ソラの語りは続く。


 光のヴァルクを持つ唯一の騎士——ヴァルハイル(Valhair Knight)。彼は闇のヴァルクを持つ魔人アトロクス(Atrox)を倒すことができず、最終手段として「第十二次元」——虚無の次元へと封印した。


 そのために彼は時空を超え、次元の扉を開き、自らのすべてのヴァルクを犠牲にして鍵となった。


 だが二十年前——


 その神殿を発見した一人の旅人が、誤って封印を解いてしまった。


 その瞬間、メクシラの時計は動き出した。


 十年ごとに光が一つ消え、三つすべてが消えたとき——虚無の次元は開かれる。


 「つまり……今は?」


 イノリアが問う。


 「二十年目。あと十年で最後の光が消える」


 部屋に沈黙が落ちた。


 「……だから、毎年どこかの次元から人が流れてくる」


 ソラは静かに言う。


 「あなたたちは——第十の次元から来た存在」


 説明を聞き終えても、イザウの頭は混乱したままだった。


 だが一つだけ、確信めいた考えが浮かぶ。


 (……アクマク事件……あれと同じだ)


 十年前のあの災厄——それもまた、この現象の一部だったのかもしれない。


 その後、食事をとり、ミユに促されて二人は休むことになった。


 だが——


 イザウは眠れなかった。


 頭の中で、ソラの言葉が何度も繰り返される。


 (どうやって戻る……?)


 考え続けるうちに、いつの間にか意識は途切れていた。


 ——深夜。


 イザウは目を覚ます。


 「……トイレ……」


 場所が分からず、家の中をさまよう。


 ようやく見つけて用を済ませ、部屋へ戻ろうとしたその時——


 窓の外に、淡い光が見えた。


 「……なんだ?」


 外へ出る。


 光は森の奥から放たれていた。


 気になったイザウは、そのまま森へと足を踏み入れる。


 やがて——


 光の正体を見つけた。


 「……あれは……」


 そこには、一人の少女がいた。


 ソラだ。


 彼女は一人で訓練していた。


 その手から放たれるのは——雷。


 (……電気のヴァルク!?)


 イザウは初めて見る力に目を見開く。インカでは炎と水しか存在しなかった。


 そのとき——


 「へっくしゅん!」


 風に煽られ、思わずくしゃみが出た。


 「誰!?」


 ソラの鋭い声。


 次の瞬間、雷撃が飛ぶ。


 「うおっ!?」


 イザウは慌てて飛び出し、両手を上げた。


 「待て待て!俺だ、イザウ!」


 「……なんだ、びっくりした」


 彼は苦笑しながら近づく。


 「すげぇな、そのヴァルク」


 「電気のヴァルク。六段階あって、私は第二段階。ミユはまだ第一段階かな」


 「へぇ……」


 イザウは感心する。


 「俺は炎の第一段階。イノリアも水の第一段階だ」


 ソラは少し笑う。


 「なら、ちょうどいい。相手になってあげるよ」


 「お、いいね」


 二人は向かい合う。


 戦いが始まった。


 炎と雷が交錯し、夜の森を照らす。


 互角——いや、僅かにイザウが押している。


 そのとき——


 「っ!避けろソラ!!」


 二人は同時に飛び退いた。


 次の瞬間、地面が砕ける。


 森の奥から、三人の男が現れた。


 「へぇ……なかなかやるじゃねぇか、“厄災の子”」


 中央の男が笑う。


 「仲間もできたのか?面白ぇ」


 ソラが小声で言う。


 「……土のヴァルク。真ん中は第二段階——石を操る」


 「なるほどな」


 イザウはニヤリと笑う。


 「ちょうどいい。やってみたかったんだよ、他のヴァルクと戦うの」


 男は名乗る。


 「俺はバーク (Bark) 。右がサム (Sam)、左がマルコだ (Marco) 」


 「覚悟しろよガキ——」


 「上等だ」


 イザウは一瞬で距離を詰めた。


 サムとマルコは一撃で吹き飛ばされる。


 「なっ——!?」


 バークが目を見開く。


 「てめぇ……!」


 岩が飛ぶ。


 だが——すべて砕かれる。


 「そろそろ終わりだな」


 巨大な炎球が放たれる。


 防御の岩壁すら破壊し、バークを吹き飛ばした。


 「くそっ……撤退だ!」


 三人は森の闇へと消える。


 静寂が戻った。


 「……すごいね」


 ソラが呟く。


 「第一段階で、あそこまで……」


 「段階より経験だろ?」


 「はいはい、調子乗りすぎ」


 ソラは苦笑し、背を向ける。


 「戻ろう。もうすぐ朝だよ」


 「……ねみぃ」


 イザウはあくびをしながら後を追う。


 帰り道——


 彼はふと思い出した。


 「なあソラ」


 「なに?」


 「さっきのやつ、“厄災の子”って言ってたけど……どういう意味だ?」


 ソラは一瞬だけ沈黙し——


 「……さあね」


 話題を逸らすように歩みを早めた。


 「早く帰って寝よ」


 「……おい、ちょっと」


 だが彼女は振り返らない。


 やがて家に戻り、それぞれの部屋へ入る。


 ベッドに横になりながら——


 イザウはふと窓の外を見た。


 そこには——


 再び外へ出ていくソラの姿。


 「……あいつ、寝ないのかよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ