↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

第16章 インカから来た商人

 彼らは全員なんとか逃げ切ることに成功した。助けに来た者たちが用意していた馬車へと乗り込み、そのまま夜道を駆け抜けていく。


 片腕を失ったユスユフの容態も、ひとまず落ち着いていた。切断された腕から流れていた大量の出血は、しっかりと巻かれた包帯によって止まっている。


 彼らを救ったのは五人の男女だった。


 やがてその者たちは頭を覆っていたフードを外す。しかし、イザウには誰なのか分からなかった。ソラたちも同じようで、全員が困惑した表情を浮かべる。


 すると、その中の一人が静かに口を開いた。


「イザウ王子、そしてイノリア王女……お二人にお会いするのは本当に久しぶりです。随分と大きくなられましたな。まさか、お二人までこの次元へ流れ着いていたとは……」


「あなたはインカの人なのか?」


「ええ、そうです王子。……ですが、どうか畏まった話し方はなさらないでください。私はただ、貴方様のお父上に仕えていた兵士団の指揮官に過ぎませんので」


「名前は?」


「俺はファルカ(Farka)と言います」


「君も敬語はいらない。ここはインカじゃない。それと、王子って呼ぶのもやめてくれ」


「分かった、イザウ様」


「どうして俺たちが危険だって分かったんだ?」


「お前たちがサンサナペル(sansanapel)に立ち寄った時、偶然見かけたんだ。二人の顔には見覚えがあったからな。それで後を追った。お前たちのヴァルクの痕跡を辿ってな。馬車だったから追いつくまで少し時間は掛かったが」


「ってことは、君がサンサナペルの商人なのか?」


「ああ。俺はここで商売を成功させたんだ。だが今でも、インカへ帰る方法を探している。妻と子供が向こうにいるからな」


「俺たちも次元の穴を止めて、インカへ帰る旅をしているところなんだ」


 イザウは自分たちの目的をファルカへ語った。


 魔族の存在。各地に存在する次元の封印。そして、それを巡る戦い。


 話を聞き終えたファルカは、真剣な表情で頷く。


「俺たちも協力する。必要なら、この世界に散らばっている他のインカ人商人たちにも声を掛けよう」


 しかしイザウは、その申し出を断った。


 これ以上、自分たちの国の民を危険に巻き込みたくなかったのだ。


 ましてやファルカには、帰りを待つ家族がいる。


 その代わりに、イザウはある提案をした。


「……イノリアは、しばらく君のところに残ってくれないか。俺は一人で旅を続ける」


 その言葉に、その場の空気が凍りつく。


 イザウはイノリアを危険に晒したくなかった。


 それに、姉であるアリシア王女に「必ずイノリアを守る」と約束していたからだ。


 だが――。


 パァンッ――!


 乾いた音が馬車の中に響いた。


 イノリアが、イザウの頬を平手打ちしたのだ。


「もう二度と、そんなこと言わないで……!」


 イノリアは怒りと悲しみが入り混じった瞳でイザウを睨みつける。


「私はあなたと一緒に行く。何があっても、この旅の間ずっと……あなたの隣にいる」


 その言葉を聞いたファルカは、優しく微笑んだ。


「立派になられましたね、イノリア王女」


 イザウは素直に謝罪した。


 イノリアも許してはくれたものの、そっぽを向いたまま口を利いてくれなかった。


 それから数時間。


 空が白み始め、夜明けが近づいた頃、彼らはサンサナペルへ到着した。


 街の中心にあった巨大なドーム状の建物――それはファルカの屋敷であり、同時に商会の倉庫でもあった。


 彼らは中へ通され、ようやく休息を得る。


 ユスユフの傷はさらに詳しく治療されることになった。感染症の危険もあるためだ。


 一方、サヤミの遺体は丁寧に清められ、静かに棺へ納められた。


 昼頃になったら墓地へ埋葬する予定らしい。


 エイミは道中ずっと無言だった。


 ファルカの屋敷へ着いてからも、一言も話さない。


 そしてサヤミの遺体が棺へ納められた瞬間――。


 彼女は崩れるように泣き出した。


「私のせいだ……っ……! 私が守れなかったから……!」


 自分を責め続けるエイミは、涙を流しながら何度も自分自身を殴り始める。


 そんな彼女を、リカが強く抱き締めた。


「もうやめて……エイミ……!」


 リカは泣きじゃくる彼女を必死に宥め続ける。


 やがてエイミは少しずつ落ち着きを取り戻し、そのままリカの膝の上で眠ってしまった。


 ソラは静かに毛布を持ってきて、そっとエイミへ掛ける。


 リカは棺の前で、眠るエイミを抱きながら寄り添い続けていた。


 その後、全員がそれぞれ休息を取ることになる。


 イザウ、イノリア、そしてソラは使用人に案内され、自室へ向かった。


 数時間後、彼らは目を覚ます。


 しかし実際には、イザウはほとんど眠れていなかった。


 ただ横になっていただけだった。


 彼の脳裏には、あの巨大な魔族の姿が焼き付いて離れない。


 人間ほどの高さを持つ大剣。


 常識外れの攻撃。


 理解不能な力。


 そして――。


 目を見ただけで感じた、圧倒的な恐怖。


 昼が近づいた頃、彼らはサヤミの棺を運び、近くの墓地へ向かった。


 葬儀が終わった後も、エイミは墓石をずっと握り締めていた。


 その後ろから、リカが静かに彼女を抱き寄せる。


「みんなは先に戻って。私が傍にいるから」


 リカの言葉に、イザウたちは静かに頷き、ファルカの屋敷へ戻った。


 彼らはそこで数日間滞在し、傷と疲労を癒やすことになる。


 だが、その間も皆ほとんど会話をしなかった。


 誰もが暗い表情を浮かべ、重苦しい空気だけが流れていた。


 そして五日目の昼食時。


 全員が食卓へ集まっていた時、沈黙を破ったのはエイミだった。


「私は工場を襲撃したい」


 その瞳には、燃えるような憎悪が宿っていた。


「奴らを壊したい。もっと強くなりたい。サヤミの仇を討ちたい。そのために……みんなの力を貸してほしい」


 その言葉を聞き、沈み切っていた仲間たちの瞳に再び光が戻る。


 イザウたちはエイミの決意に応え、再び前を向き始めた。


 それから彼らはファルカの屋敷で訓練を開始する。


 イザウもまた、ファルカへ頼み込んで炎のヴァルクについてさらに深く教わることになった。


「なあファルカ。炎のヴァルクって、どこまで段階があるんだ?」


 ファルカは少し考え込むように目を細める。


「正直、誰にも分からない。ヴァルクには決まった限界が無いんだ。人によっては既存の段階を超えることすらある」


 そう言いながら、彼はイザウの手を見つめた。


「例えば、お前の青い炎のヴァルク。俺には出せない力だ。俺が扱えるのは緑炎までだからな」


「緑の炎……」


「おそらくヴァルクの進化や能力は、使い手次第なんだろう。感情、意思、生き方……そういうものが力の形を決める。どう発現し、どう進化するかも全部な」


 そしてファルカは静かに続けた。


「俺が知る限り、インカ史上最強と記録されている炎のヴァルクは“白炎”だ。それを扱ったのは、先代アマリ王……つまりお前の祖父だよ」


「白炎ヴァルクが最強って話は俺も知ってる。でも……もし本当に誰でも自分のヴァルクを進化させられるなら、俺は白炎に辿り着けるのかな……いや、それすら超えられるのかな」


「きっと貴方なら超えられます、イザウ様」


 ファルカは真っ直ぐにイザウを見つめながら言った。


「貴方が力を求める理由は崇高なものだ。破壊を繰り返す魔族を封印し、次元の穴を閉じ、この世界を元に戻そうとしている。そんな願いを持つ者なら、きっと白炎すら超えられる」


 そして彼は静かに続ける。


「インカでは炎と水のヴァルクが主流だった。だが、“ヴァルクの石碑”によって、他にも数多くのヴァルクが存在すると分かっている。あの石碑はヴァルクの源であり、別次元にも存在しているらしい。そして、それぞれの世界で力の発現源になっている」


 ファルカは自分の掌を見つめる。


「つまり、本当は全部繋がっているんだ。問題は、この力を悪に使うか、善に使うか……ただそれだけなんだよ」


 それから数日が過ぎた。


 だがイザウたちは、時間の流れすら忘れるほど訓練に没頭していた。


 毎日、限界までヴァルクを鍛え続ける。


 身体が悲鳴を上げても止まらない。


 サヤミの死を無駄にしないために――全員が必死だった。


 彼らは同時に、工場襲撃の作戦会議も進めていた。


 その中で、リカが口を開く。


「サヤミを殺したあの大悪魔は、たぶん工場にはいないと思う」


 全員の視線がリカへ向く。


「あいつは“黒星級第一位”の魔族。おそらくザトラックスがいる本部側にいるはず」


「ああ……」


 イザウも思い出したように呟く。


「確か、拠点が襲撃されたって聞いて本部に来てたって言ってた。状況確認のためにいたところへ、偶然俺たちが攻撃したんだ。……運が悪すぎた」


 その話を聞き、工場襲撃の難易度は多少下がると判断された。


 だがリカは警戒を解かない。


「それでも、ヴァタナクス級の魔族指揮官は確実にいると思う。しかも前回の襲撃事件があったから、警備は以前より強化されてるはず」


 その後、イザウはユスユフへある提案をした。


「ユスユフ、お前は地球人たちの集落へ戻ってくれ。そして村長たちに状況を伝えてほしい。……サヤミのことも」


 さらにファルカの部下数人へ護衛を頼む。


 ユスユフは悔しそうに拳を握ったが、それでも頷くしかなかった。


 今の自分では、皆の足手まといになる。


 それを理解していたからだ。


「安心しろ、ユスユフ」


 イザウは力強く言った。


「俺たちがこの任務を終わらせる。工場を襲撃して、あそこで奴隷にされてる人間たちを全員解放する」


 出発準備をしていたユスユフの前へ、エイミが歩み寄る。


「ザミル村長にも、私から伝えてほしいことがあるの」


 エイミは申し訳なさそうに目を伏せた。


「全部……私のせい。あなたの腕のことも、サヤミのことも……本当にごめんなさい」


 そして彼女は涙を堪えながら続ける。


「今まで村長が私にしてくれたことには感謝してる。でも、これから私はイザウたちと一緒に旅をする。必ず……ミランダに平和を取り戻してみせるから」


 イザウは少し驚いた表情を見せた。


「本当に俺たちについて来る気なのか? この旅は危険だぞ」


 だがエイミは迷いなく頷く。


「うん」


 さらにリカも口を開いた。


「私も行く。エイローを守り続けるって決めてるから」


 そしてエイミは真っ直ぐイザウを見つめる。


「私はあなたについて行く、イザウ。ただサヤミの仇を討つためだけじゃない。この世界から、魔族に奪われた平和を取り戻すために」


 その後、ユスユフはファルカの部下二人に護衛され、馬車で集落へ向かった。


 一方イザウたちは、翌朝メリタミア(merutamia)へ向けて出発する準備を進める。


 そこには魔族の工場が存在していた。


 全員が作戦を確認し、必要な装備を整えていく。


 イザウは今回の任務に強い自信を抱いていた。


 必ず成功できる――そう信じていたのだ。


 翌朝。


 まだ日が昇りきる前に、彼らは二台の馬車で出発した。


 一台にはイザウたち。


 もう一台にはファルカとその部下たちが乗っている。


 本来、イザウはファルカを同行させるつもりはなかった。


 既に十分すぎるほど世話になっていたからだ。


 しかしファルカは頑として譲らなかった。


「俺たちは工場周辺を監視する。もし襲撃中に他の魔族軍が増援に来たら厄介だからな」


 イザウもその意見には同意していた。


 特に“黒星級”の魔族が現れた場合、即座に撤退するつもりだった。


 やがて彼らはメリタミアへ到着する。


 都市を囲む巨大な壁の近くにある森へ馬車を隠し、侵入準備を始めた。


 ファルカの部下たちは、壁を登るための道具を用意する。


 メリタミアを囲む城壁は非常に高く、各所に厳重な見張りが配置されていた。


 しかも、以前の襲撃事件――魔族虐殺やヴァタナクス死亡の報せは、既にこの都市まで届いている。


 正面から侵入するのは不可能だった。


 そのため、全員が灰色のフード付きローブを身に纏っている。


 しばらくして、ファルカの部下数名が都市の反対側で騒ぎを起こした。


 警備兵たちの注意を引き付けるためだ。


 作戦は成功した。


 守備兵の多くが東側へ移動する。


 その隙を突き、イザウたちはロープを城壁上へ投げ、一気に登り始めた。


 ファルカは外側に残り、周囲の監視を続ける。


 壁の上へ到達したイザウたちは、すぐにロープを下へ落とした。


 そのまま城壁上を移動し、内部へ降りるための通路を探す。


 城壁の各所には塔が建てられており、遠距離武器の保管庫や昇降用の階段として使われていた。


 そして彼らが階段を下り始めた瞬間――。


 下から慌ただしい足音が聞こえてくる。


 現れたのは二人の警備兵だった。


 イザウは一瞬で距離を詰める。


 斧が閃き、警備兵の首が宙を舞った。


 もう一人は、エイミの風のヴァルクによって身体を細切れにされる。


「急ごう」


 戦闘音で別の警備兵を呼び寄せる可能性があった。


 彼らは急いで階段を下り、都市内部へ侵入する。


 工場は街の中央部にある。


 目立たないよう、全員が別々の道を通って目的地へ向かった。


 移動中、街では騒ぎが起き始めていた。


「階段で死体が見つかったぞ!」


「侵入者だ!」


 警備兵たちが慌ただしく走り回っている。


 一方その頃、イノリアは兵士たちの会話を耳にした。


「東側で騒ぎを起こした奴は捕まえたらしいぞ。今、尋問室へ連れて行ってる」


 その情報を胸に、彼女は合流地点へ向かう。


 やがてイザウたちは工場西側で再集合した。


 それぞれが得た情報を共有する。


 イザウはファルカの部下が口を割らないことを祈るしかなかった。


 既に侵入は発覚している。


 今頃、都市中に警備兵が散開して彼らを探しているはずだ。


 その後、彼らは換気用パイプから工場内部へ侵入した。


 地下へ到達すると、数人の警備兵を始末し、さらに廃液処理用の排水管を進んでいく。


 汚水の臭いが充満する中、彼らは上層へ繋がる道を探し続けた。


 目的はただ一つ。


 強制労働させられている人間たちを解放すること。


 ちなみに、メリタミアの警備兵の多くは元々この都市の住民だった。


 彼らは魔族と協力関係にある。


 かつて、この街は極貧都市だった。


 だが地球人たちがこの地で資源を発見したことで、急速に繁栄したのだ。


 そして長い探索の末――。


 ついに彼らは強制労働区域へ辿り着いた。


 しかし、そこで目にした光景に全員が言葉を失う。


「……なんだよ、これ。こいつら何をしてるんだ?」


 イザウが眉をひそめる。


 するとエイミが険しい顔で答えた。


「……石油よ。ここは油田……それに、あそこで運ばれてるのは鉄鉱石とウラン」


「鉄は分かる。でも、それ以外は何に使うんだ?」


 イノリアが不思議そうに尋ねる。


 エイミは低い声で答えた。


「機械を動かすための資源よ。それに……運ばれてる材料の中には、危険な兵器を作れるものもある」


 その瞬間、全員の背筋に嫌な寒気が走った。


「……魔族たちは、一体何を企んでるんだ……?」


「ここ、強制労働させられてる人が多すぎるよ……」


 ソラが険しい表情で周囲を見渡した。


「どうやって全員を助けるの? 元々の作戦は正門を破壊して、そのまま護衛しながら脱出する予定だった。でも……この人数を本当に守り切れるの?」


 不安そうな声だった。


 だがイザウは迷わなかった。


「無茶をしなきゃ、何も変わらない」


 次の瞬間。


 イザウは躊躇なく高所から飛び降り、そのまま強制労働場の中央へ姿を現した。


 突然の侵入者に、周囲の人間たちが騒然となる。


 監視していた魔族たちは即座に反応した。


 数体がイザウへ襲い掛かり、別の魔族たちは警報用の鐘へ向かって走り出す。


 しかし――。


 ズバァッ!!


 イザウの双斧が閃いた。


 突っ込んできた魔族たちは、一瞬で肉片となって地面へ崩れ落ちる。


 血飛沫を浴びながら、イザウは大声で叫んだ。


「みんな聞け!! 俺たちはお前たちを助けに来た!! 今すぐ集まって、俺の後ろへ来い!!」


 その言葉を聞いた瞬間。


 作業をしていた人々は、一斉に道具を投げ捨てた。


 希望を見つけたように、必死でイザウの元へ駆け寄る。


 だが魔族たちも黙ってはいない。


 労働者たちを狙い、集結を阻止しようと攻撃を仕掛ける。


 しかし――。


 氷が閃き、風が唸り、雷が炸裂した。


 イノリアたちが姿を現し、襲われそうになった人々を次々救い出していく。


「急いで!! こっちへ!!」


 イノリアが叫ぶ。


 そして全員が集まり切った瞬間――。


 リカが前へ出た。


 彼女は鉄拳の籠手へ“虚無”の力を纏わせ、そのまま正門へ拳を叩き込む。


 ドゴォォンッ!!


 巨大な門の錠前が粉砕された。


 出口が開かれる。


「逃げろ!!」


 労働者たちは一斉に外へ駆け出した。


 しかし恐怖で我を失っていた彼らは、イザウの「後ろにいろ」という指示すら聞いていなかった。


 そして――。


 ブシュッ――。


 門へ辿り着きかけた数人の身体が、突然真っ二つになった。


 血が噴き上がる。


 悲鳴が響いた。


 正門の前には、異様な威圧感を放つ魔族たちが立っていた。


 しかも、それだけではない。


 周囲からも続々と魔族が姿を現し、イザウたちと労働者を完全包囲する。


 さらに城壁の上にも、大量の魔族兵が並んでいた。


 イザウは歯を食いしばる。


 不用意には動けない。


 今の彼には、守るべき人々がいる。


 だが――。


 ここまでは想定内だった。


 イザウたちは、既に次の作戦も打ち合わせていた。


「俺とリカで魔族を殲滅する!」


 イザウが叫ぶ。


「他のみんなは労働者を守ってくれ!! 遠距離も近距離も全部防げ!!」


 極めて危険な作戦だった。


 自由に戦えない。


 大量の人間を守りながら、数で圧倒する敵と戦わなければならない。


 イザウ自身、それは理解している。


 全員を救えない可能性もある。


 誰かが死ぬかもしれない。


 それでも――。


 一人でも多く助けたい。


 その思いだけで、彼は立っていた。


 もし労働者たちを脱出させられれば、その後は工場へ総攻撃を仕掛ける予定だった。


 だが今はまだ、その段階ではない。


「行くぞ、リカ!! 全部ぶっ潰す!!」


 イザウは双斧を振り上げ、真正面へ突撃した。


 同時に、城壁上の魔族たちも飛び降りてくる。


 四方八方から包囲される中、正門前の強力な魔族たちは依然として動かなかった。


 リカが低く呟く。


「門の前にいるのは大隊長クラスと、その副官たち。先に邪魔な連中を片付けて、一気にあいつらを叩く」


 彼女は鋭く目を細めた。


「たぶん、一人一人がヴァタナクス級……いや、それ以上もいる。気を付けて」


「分かった。やるぞ」


 二人は同時に駆け出した。


 前から来る敵。


 横から襲う敵。


 背後から奇襲する敵。


 イザウとリカは、迫り来る魔族を片っ端から斬り裂き、叩き潰していく。


 一方その頃――。


 イノリアは巨大な氷壁を展開し、労働者たちを包囲した。


 ソラとエイミが三方向を守る。


 イノリアは氷槍を連続で放ち、近付く魔族を射抜いていく。


 接近した敵は、水の刃で切断した。


 ソラは超高速で動き回り、雷撃を纏った連撃で敵を次々倒していく。


 そしてエイミ――。


 彼女は“肉体崩壊の風”へ姿を変え、その場からほとんど動かなかった。


 ただ腕を振るだけで、近寄った魔族たちの身体が次々と切り裂かれていく。


 やがてイザウとリカは、道を塞いでいた魔族たちを突破した。


 その先で待っていたのは――十体の魔族。


 圧倒的な威圧感。


 明らかに別格の存在だった。


「十体……」


 リカが呟く。


「五体が大隊長、その後ろが副官。全員殺す。逃がすな」


 直後、五体の副官級魔族が同時に襲い掛かってきた。


 武器を持つ者。


 素手で戦う者。


 それぞれが異様な殺気を放ちながら迫る。


「邪魔だぁぁぁ!!」


 イザウは双斧を横薙ぎに振るった。


 瞬間、二体の魔族が胴から真っ二つになる。


 しかし残る三体は回避した。


 一体は武器で受け止める。


 そこへ――。


 リカが超高速で突っ込んだ。


 ゴシャァッ!!


 一体の頭部を拳で粉砕。


 さらに別の一体の腹部を貫き、そのまま内臓ごと吹き飛ばす。


 残った最後の一体は、恐怖に顔を歪めながら後退した。


「ひっ……!」


 逃げるように大隊長たちの方へ下がる。


 しかし――。


 その瞬間。


 大隊長の一人がその魔族の首を掴み、持ち上げた。


「弱虫が」


 メキッ――。


 首の骨が砕け、そのまま殺される。


 別の大隊長がイザウの斧を見つめながら呟いた。


「あれはホトヤから奪われた斧か」


「ザトラックス様へ献上するぞ」


「もう片方の武器も伝説級っぽいな。半魔の女がどこで手に入れた?」


「二つとも持ち帰れば、俺たち昇格できるかもしれねぇな」


 その言葉に、リカが殺気を爆発させた。


「好き勝手ほざいてんじゃねぇぞ、クソ魔族ども」


 彼女は地面を蹴り、一気に大隊長へ突っ込む。


 拳を叩き込む――が。


 ガシッ。


 大隊長は片手で受け止めた。


 そのままリカを後方へ投げ飛ばす。


「っ……!」


 直後、イザウが双斧による連撃を叩き込む。


 だが――。


 全て避けられた。


「おいリカ……」


 イザウが距離を取りながら言う。


「こいつら、前の奴らより明らかに強いぞ。しかも数でも負けてる」


「ああ……分かってる」


 二人は既にかなり消耗していた。


 大量の魔族を倒した直後に、この怪物たちとの戦闘。


 それでも再び同時に突撃する。


 しかし数的不利は圧倒的だった。


 狙いを絞ることもできず、逆に五体の大隊長から集中攻撃を受ける。


 虚無の力。


 さらにヴァルクを扱う者までいる。


 四方から飛んでくる攻撃に、イザウとリカの身体へ次々傷が刻まれていった。


「このままじゃ……勝てない……!」


 リカが息を荒げる。


 そんな状況の中――。


 イザウがふと呟いた。


「なあリカ、お前の血って赤じゃなくて紫なんだな」


 ゴンッ!!


 リカの拳がイザウの頭に炸裂した。


「こんな時にふざけんな馬鹿!!」


「あだっ!? 痛ぇぇ……」


 イザウは頭を押さえながら顔をしかめる。


「だんだんイノリアに似てきたな、お前……」


 魔族たちは笑っていた。


 追い詰められ、傷だらけになったイザウとリカを見下しながら、嘲笑を浴びせる。


「どうしたァ? さっきまでの威勢はよぉ!」


「その程度で俺たちに勝てると思ったのか?」


 次の瞬間――。


 五体の大隊長級魔族が再び同時に襲い掛かった。


 虚無の力。


 ヴァルク。


 怪力。


 あらゆる攻撃が嵐のように叩き込まれる。


「がっ……!!」


 イザウの身体が吹き飛ぶ。


 一方リカも、何度も地面へ叩き付けられた。


 ゴキッ――。


 鈍い音が響く。


 リカの右脚が不自然な方向へ曲がった。


 骨折だった。


「っ……!」


 彼女は立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。


 イザウの顔から血の気が引く。


(まずい……)


 二人ですら勝てなかった。


 もしリカが戦闘不能になれば、自分一人で五体を相手にしなければならない。


 勝てるはずがない。


 だが魔族たちは、そんな絶望すら楽しむように笑っていた。


「終わりだ」


 再び総攻撃が始まる。


 イザウは咄嗟にリカの前へ飛び出した。


「イザウ!!」


 ドゴッ!!


 バキッ!!


 次々と攻撃が叩き込まれる。


 頭部へ、腹部へ、背中へ。


 イザウはリカを庇いながら、一人で全ての攻撃を受け続けた。


 額が割れ、血が滝のように流れ落ちる。


 視界が赤く染まっていく。


 しかしその瞬間――。


 氷。


 雷。


 暴風。


 三つの力が戦場へ飛び込んだ。


 ズガァァァンッ!!


 魔族たちが一斉に後退する。


「イザウ!!」


 イノリアたちだった。


 間一髪で間に合ったのだ。


 イノリアは血まみれのイザウへ駆け寄る。


 エイミは立てなくなったリカを支える。


 そしてソラが前へ出て、魔族たちを牽制した。


「どうして来た……! 労働者たちは!?」


 イザウが荒い息で尋ねる。


 するとソラが頷いた。


「もう街の外へ避難させたよ! ファルカたちと一緒に城壁の外にいる! みんな安全!」


「門の守備兵も全部倒したわ」


 エイミも続ける。


 イノリアはイザウの顔を見て眉を寄せた。


「動かないで。頭から血が止まってない」


 しかしイザウは、それでも立ち上がった。


 全身傷だらけ。


 それでも双斧を握り直す。


「……まだ戦える」


「なら私たちも手伝う」


 エイミが静かに言った。


「早く終わらせましょう」


 リカも息を整えながら周囲を見る。


「雑魚魔族はほとんど片付けた。逃げた奴らも多い。残ってるのはこいつらだけだ」


 するとソラが口を開く。


「一人一体ずつやる?」


「いいな」


 イザウが笑う。


「数も丁度同じだ」


 五人は同時に前へ出た。


 そして自然と、それぞれが別々の戦場へ散っていく。


 イザウが対峙したのは、身長が自分の二倍はある巨体の魔族だった。


 武器は持っていない。


 だが両腕には金属のような硬質化した装甲が纏われており、イザウの斧を真正面から受け止めてくる。


 二人の戦場は城門付近の居住区へ移っていた。


 激突のたびに建物が崩壊する。


 家々が吹き飛び、住民たちは悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。


 一方、イノリアが戦う相手は唯一の女性型魔族。


 武器は持たない。


 だが指先の爪から、無数の毒針を射出してくる。


 いつの間にか二人は工場裏の平地へ移動していた。


 遠距離攻撃同士の激しい撃ち合いが続く。


 ソラの相手は、まるでゴーレムのような巨大魔族だった。


 その手には超巨大な戦槌。


 ズドォォン!!


 一撃で地面が割れ、大地が震える。


(あれ一発でも食らったら終わる……!)


 ソラは冷や汗を流した。


 雷撃を叩き込んでも、相手の身体には傷一つ付かない。


 だから彼女は避け続けるしかなかった。


 敵の動きは遅い。


 だが一瞬でも油断すれば、即死する。


 一方リカが相手していたのは、小柄な子供のような魔族だった。


 だがその実年齢は少なくとも九十年以上。


 半魔であるリカとは違い、純血魔族は老化が極端に遅い。


 その魔族は、自分の身長以上に長い槍を扱っていた。


 近接型のリカにとって、間合いの長い槍は非常に厄介だった。


 脚を負傷している今、なおさらである。


 そしてエイミ。


 彼女の敵は、六本腕の異形の魔族だった。


 全ての腕に短剣を握っている。


 しかも厄介なことに、その魔族も風のヴァルクを扱えた。


 エイミが“肉体崩壊の風”になっても、敵は鋭い風刃で攻撃を防ぎ返してくる。


 まるで鏡写しのような戦いだった。


 戦場は激化していく。


 メリタミア全域が崩壊していた。


 資源都市と呼ばれた街は炎に包まれ、夕陽に照らされながら燃え上がる。


 これは普通の戦いではない。


 工場を守護する、各魔族部隊の頂点同士の戦いだった。


 イザウは巨体の魔族へ猛攻を仕掛ける。


 戦略など無い。


 ただ全力で斬り続ける。


 しかし敵は避けない。


 真正面から受け止めてくる。


 ガギィィン!!


 双斧が装甲の腕と激突する。


 イザウはさらに青炎のヴァルクを纏わせ、威力を引き上げた。


 衝撃だけで周囲の建物が吹き飛ぶ。


 それでも――。


 魔族は微動だにしなかった。


 一方イノリアは、毒針を放つ魔族と激しい撃ち合いを続けていた。


 氷弾で毒針を迎撃する。


 だが彼女は一切油断しない。


 針が掠めた木々は、一瞬で腐敗して枯れ落ちていた。


(毒……!)


 もし肌を掠めただけでも危険。


 下手をすれば即死。


 だから二人は絶えず動き回りながら戦っていた。


 そして気付けば――。


 イノリアたちの戦場は、ソラと巨大魔族が戦っている場所へ近付いていた。


「イノリア!!」


 ソラが叫ぶ。


「そっちはどう!?」


「見ての通りよ!」


 イノリアが毒針を弾きながら答える。


 するとソラが提案した。


「敵、交換してみる?」


「いいかもね」


 イノリアが頷く。


「その女、毒がかなり危険よ。木を見れば分かるでしょ」


「うわ……本当にヤバいね」


 ソラは苦笑する。


「でも、スピード勝負なら私の方が相性良さそう」


 そして彼女は巨大魔族を見る。


「そっちの大きいのお願い。遅いけど、とにかく硬い。ハンマーには気を付けて」


「分かった。地面の亀裂を見れば、避けるタイミングは分かるわ」


 二人は同時に敵を交換した。


 そして――。


 作戦は大成功だった。


 ソラは高速移動で毒針を完全回避。


 接近と離脱を繰り返しながら、雷撃を連続で叩き込む。


 女性型魔族は対応し切れず、防戦一方になっていった。


 一方イノリアは、巨大魔族の下半身を一気に凍結。


 動きを止める。


 そこへ無数の氷塊を降らせ、最後は超高圧の水刃で首を切断した。


 ドサッ――。


 巨大な頭部が地面へ転がる。


 敵撃破。


 イノリアはすぐソラの援護へ向かった。


「ソラ!!」


「ナイスタイミング!」


 既に女性型魔族は追い詰められていた。


 その瞬間。


 イノリアが魔族の動きを氷で封じる。


「終わりよ」


 次の瞬間、ソラの拳が雷光を纏って炸裂した。


 バァァンッ!!


 女性型魔族の身体が雷に呑み込まれ、そのまま吹き飛んだ。


 リカはついに敵を討ち倒した。


 子供のような小柄な身体をした魔族――長槍を操るその相手は、既に地面へ倒れ伏している。


 魔族は槍を突き出し、最後の反撃を試みた。


 だがリカは真正面から拳を叩き込む。


 バギィンッ!!


 槍の穂先が粉砕された。


 その隙に一気に間合いへ踏み込み、リカの拳が魔族の顔面へ炸裂する。


 小柄な身体が吹き飛び、地面へ転がった。


 そして――。


「終わりだ」


 リカは倒れた魔族へ馬乗りになり、何度も拳を振り下ろした。


 ゴシャッ!!


 ゴキッ!!


 骨が砕け、肉が潰れる。


 頭部が完全に原形を失うまで、彼女は殴り続けた。


 一方その頃。


 エイミもまた、六本腕の魔族を追い詰めていた。


 暴風の刃が閃く。


 シュバァァッ!!


 六本の腕が次々と宙を舞った。


「ぎゃああああッ!!」


 両腕を失った魔族は、血を撒き散らしながら地面へ崩れる。


「ま、待ってくれ……! 頼む……助けてくれ……!」


 命乞い。


 だがエイミの表情は凍っていた。


 サヤミを失った悲しみ。


 怒り。


 憎しみ。


 全てが彼女の中で燃え続けている。


「……許さない」


 次の瞬間。


 風刃が魔族の身体を切り刻んだ。


 肉片が飛び散り、絶叫が響く。


 エイミは止まらない。


 何度も。


 何度も。


 魔族の身体が小さな破片になるまで、彼女は斬り続けた。


 だが――。


 イザウの戦いだけは、未だ終わりが見えなかった。


 相手の魔族は異常なほど頑丈だった。


 しかも反撃すらしてこない。


 ただその場に立ち、イザウの猛攻を受け続ける。


 ガギィィン!!


 斧が叩き込まれる。


 しかし防がれる。


 何度攻撃しても、敵は微動だにしない。


 まるで――。


 イザウが疲弊するのを待っているかのようだった。


 そしてついに。


 イザウの動きが鈍り始める。


 斧の速度が落ちる。


 呼吸も乱れていた。


 その瞬間――。


 魔族が初めて動いた。


「遅ぇなァ」


 ドゴォッ!!


 拳がイザウの腹部へめり込む。


「がはっ……!!」


 イザウの身体が吹き飛んだ。


 建物を何軒も貫通しながら地面へ転がる。


 だが魔族は止まらない。


 一瞬で距離を詰める。


 倒れているイザウへ追撃を叩き込むために。


 そして――。


 ゴッッ!!


 今度は頭部だった。


 既に裂けていた傷口がさらに開き、血が大量に噴き出す。


 視界が真っ赤に染まる。


 魔族はゆっくり足を持ち上げた。


 そのまま頭を踏み潰すつもりだった。


 だが、その瞬間。


「イザウ様ァァァ!!」


 轟音と共に、緑色の炎が飛来した。


 ドォォン!!


 爆発が起こり、煙が視界を覆う。


 その隙に、ファルカがイザウを抱えて後方へ飛び退いた。


「大丈夫ですか、イザウ様!?」


「気力は平気だ……でも身体は最悪だな……」


 イザウは血を吐きながら苦笑する。


 ファルカは前へ出た。


「俺が相手をします」


「無茶だ、ファルカ……。あいつはお前じゃ勝てない。それより労働者たちはどうした」


「安心してください。もう安全圏へ避難させました。部下たちが先に護送しています」


「だったらお前も一緒に逃げるべきだった」


 しかしファルカは首を横に振る。


「できません」


 その瞳には強い覚悟が宿っていた。


「避難地点へ向かう途中、山の上から見えたんです。森の木々が大量になぎ倒されていた。何かがこちらへ向かっていた……援軍です。魔族が外部から増援を呼んだ」


 イザウの表情が険しくなる。


「だから急いで戻ってきました。皆に撤退を伝えるために」


「……でも、今さら退けない」


 イザウは悔しそうに拳を握る。


「あの魔族は必ず追ってくる。今の俺じゃ足手まといだ。……行け、ファルカ。俺を置いて逃げろ」


 だがファルカは即答した。


「申し訳ありません、イザウ様。その命令には従えません」


 そう言って彼は魔族へ向かっていく。


 緑炎を放ち、何度も攻撃を叩き込む。


 しかし――。


 全く効かない。


「ハハハハ!!」


 魔族は笑っていた。


「そんな攻撃で俺の鎧を破れると思ったか?」


 次の瞬間。


 魔族が一瞬でファルカの目前へ現れる。


「っ――!?」


 首を掴まれ、そのまま持ち上げられた。


 ファルカの足が地面から浮く。


 そして――。


 ズブッ。


 魔族の左腕が、ファルカの腹部を貫通した。


 血が滴る。


 いや、次第にそれは滝のように流れ始めた。


「がっ……ぁ……」


 魔族はそのままファルカを投げ飛ばす。


 身体は建物の壁を突き破り、瓦礫の中へ叩き込まれた。


 イザウはそれを見ていた。


 血で赤く染まった視界の中で。


 動けないまま。


 また、大切な人が目の前で殺された。


 ミユ(Aruna Miyuria)。


 サヤミ。


 そして今――ファルカ。


 その瞬間。


 イザウの中で、何かが切れた。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 絶叫。


 同時に、眩い白光が爆発した。


 イザウの全身が白い炎に包まれる。


 熱量が異常だった。


 触れてすらいない草木が燃え始める。


 炎は鎖を伝い、双斧へ流れ込んでいく。


 白炎。


 伝説の力。


 瓦礫の中で倒れていたファルカは、その光景を薄れゆく視界で見つめていた。


「……貴方は……もう……先代王を超えた……」


 かすれた声。


「新しい……伝説に……なります……イザウ様……」


 そして――。


 ファルカは静かに息を引き取った。


 イザウは俯いたまま、低い声で呟く。


「……よくも」


 白炎が揺らめく。


「よくも俺の大切な人たちを……」


 その声は静かだった。


 だが底知れない怒りが込められている。


「お前たちを……全員消し去る」


 魔族は鼻で笑った。


「何をブツブツ言ってやがる。聞こえねぇなァ?」


 その瞬間。


 イザウの斧が振るわれた。


 魔族はいつものように腕の装甲で受け止める。


 だが――。


 ズバァァッ!!


 装甲が砕け散った。


 さらに右腕ごと切断される。


「なっ――!?」


 魔族の顔が初めて恐怖に歪む。


 慌てて後方へ飛び退こうとする。


 しかし。


 次の瞬間には、イザウが頭上へいた。


「死ね」


 白炎を纏った斧が振り下ろされる。


 ズガァァァァン!!


 魔族の腹部が真っ二つになった。


 致命傷。


 だがイザウは止まらない。


 何度も。


 何度も。


 斧を叩き込む。


 肉が潰れ、骨が砕け、魔族の身体は原形を失っていった。


 そして全てが終わった時――。


 白炎が消えた。


 イザウはその場へ崩れ落ち、意識を失う。


 しばらくして。


 エイミとリカが現場へ辿り着いた。


「待って、エイミ……あれ、イザウよ」


 二人は急いで駆け寄る。


 周囲の建物は完全に崩壊していた。


「何があったの……?」


 エイミが呟く。


「戦場全部が吹き飛んでる……」


 リカはイザウの容態を確認した。


「生きてる。ただ気絶してるだけだ」


 傷は酷い。


 だが不思議なことに、出血は止まっていた。


「早くイノリアたちを探そう。治療しないと危険だ」


 するとエイミが周囲を見回し、焼け焦げた死体を発見する。


「リカ見て……この魔族、完全に焼き潰されてる。イザウ、どんな力を使ったの……?」


「……分からない」


 その時。


 エイミが少し離れた場所に倒れている人物へ気付いた。


「リカ、誰か倒れてる」


 二人は駆け寄る。


 そして。


「……っ」


 エイミの顔が強張った。


「リカ……これ……ファルカよ」


「何だって……!?」


 リカも息を呑む。


「状態は!?」


 エイミは震える声で答えた。


「……死んでる。腹に穴が開いてる……血も全部……。もう冷たくなってる……」


 リカは歯を食いしばる。


「どうして……ファルカがここでイザウと……」


「今は考えてる暇ない」


 エイミはイザウを背負った。


「ソラとイノリアを探そう。二人が無事ならいいけど……」


 二人は瓦礫の街を進む。


 やがて。


 二体の魔族の死体を発見した。


 そして、その近くには――。


 倒れているソラの姿。


「ソラ!!」


 リカが駆け寄る。


「しっかりしろ!!」


 ソラの身体には無数の傷があった。


 さらに左目から大量の血が流れている。


 ソラは片目だけを開け、震える右手を上げた。


「……早く……追って……」


 声はかすれていた。


「魔族が……イノリアを……連れて行った……」


「……は?」


 エイミの表情が凍り付く。


「イノリアが攫われた……?」


 リカも顔色を変えた。


「一体……何があったの……!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。