第10章 異端信仰の都
イザウたちは朝にライルの街を出発し、日が傾く前にはホトヤの街へと到着していた。
「はぁ……やっと着いたな。思ったより外からの客が少ない街だな……ってことは宿も空いてるはずだ。休む場所は後でいいとして、今のうちに伝説の武器の手がかりを探そうぜ」
イザウがそう言って周囲を見渡す。
「ええ、この街は外部の人間があまり来ない場所なの。噂では――ここは“信仰の街”らしいわ」
ソラが静かに言う。
「信仰の街?」
「でも、その宗教はとても謎に包まれているの。信者しか内容を知らないって話よ」
「……なら余計に気をつけないといけないな。無用なトラブルは避けるべきだ。特にお前だ、イザウ」
「えっ、なんで俺なんだよイノリア」
「あなたが一番問題を起こしやすいからよ」
「うっ……わかったよ。気をつけるって」
「ところでルシはまだ寝てるの?」
ソラが尋ねる。
「ええ、まだぐっすり。相当疲れてたみたい……途中から無理して歩いてたし、私が背負ったらすぐ寝ちゃった」
「そう……よかった」
ソラは少し安心したように微笑む。
「まだ小さいのに親とも離れて……それにトロマンおじいさんのことも分からないままだなんて……」
「……あの三体の魔族、かなり強かったしな」
イザウは小さく呟いた。
やがて彼らは街を歩き回り、巨大な時計塔の前へと辿り着く。
「おい見ろよ、あの時計……振り子が二つあるぞ」
「わぁ……すごい……」
イノリアが目を輝かせる。
「……あ、それ“ケブルツ時計”っていうんだよ」
いつの間にか目を覚ましたルシが口を開く。
「なんだその名前……変なの」
「うーん……なんでそう呼ばれてるかはわからないけど……」
「私も知らないわね」
しばらくして、彼らは図書館へと辿り着いた。
しかし――
「……見つからないな」
「ええ、武器に関する本が一冊もないなんて……」
「こんなに大きな図書館なのにおかしいよな」
「管理人に聞く?」
「いや……この図書館、人がいない」
外に出て、通りすがりの人物に声をかける。
「すみません、少しお聞きしてもいいですか?」
「ええ、どうしました?」
「この図書館、管理している人はいないんですか?」
「あそこは昔から利用者が少なくてね……今では誰も使っていません」
「え?」
「この街では困ったことがあれば、すべて“教祖様”に聞けばいいのです」
「教祖……?」
「ええ。ただし――その教えを知るには、我々の宗教に入る必要がありますが」
「……そうですか。ありがとうございました」
男が去った後、イノリアが呟く。
「やっぱり変な街ね……宗教の名前すら外には出ないなんて」
「いっそ入信したふりをするか?」
「最悪の案ね」
「じゃあ……潜入して教祖を直接捕まえるか?」
「……それなら現実的ね」
「決まりだな」
そしてルシを孤児院に預けることにした。
孤児院の主はハンベルス(Hamberth)と名乗り、穏やかな笑みでルシを迎え入れた。
子供たちも明るく、危険な様子は見えない。
彼らは一旦ルシを任せ、行動を開始した。
やがて黒いローブの青年と出会う。
「何かご用ですか?」
「この街の宗教について聞きたい」
「……ヴェクタ(Vecta)のことですか」
その名を聞いた瞬間、空気が変わった。
「関わらない方がいい。ここは危険だ」
青年はそれだけ言って店を閉めた。
その後、別の信者と出会い――
「ヴェクタリウム(Vectarium)に行くのか?」
「それは何だ?」
「地下にある礼拝所だ。案内する、急げ」
彼らは地下水路を走り抜ける。
迷路のような通路を抜け、辿り着いた先――そこには無数の人影があった。
ロウソクを手に祈りを捧げる者たち。
中央には――魔族の像。
「……ここ、やばいな」
「静かにしなさい」
だが次の瞬間――
「こいつら……魔族崇拝者だ!」
イザウの声が響いた。
空気が凍りつく。
人々の視線が一斉に集まる。
「……やっぱりね。待っていたよ」
壇上に立つ男がフードを外す。
「ハンベルス……!?」
「ようこそ。ヴェクタの信徒へ」
「ルシはどこだ!」
「安心しろ。奥にいる。人質としてな」
「ふざけるな!」
「最初から監視していた。インカの者、雷の力を持つ女、そして子供……すぐに分かったよ」
「誰の命令だ!」
「もうすぐ来るさ。君たちも知っている人物だ」
やがて――
奥からルシが連れて来られる。
そしてさらに、誰かが歩み寄る。
「よぉ……また会ったな、炎の坊主」
「サイリン……!」
その背後には灰色のローブを纏った魔族。
「弱そうだな、お前ら」
「お前……何者だ」
「俺か? スケクメス(Skekmeth)。ザトラクス様の護衛だ」
「入口にいるのはサメス(Sameth)だ」
イザウは振り返る。
そこには禍々しい気配の魔族が立っていた。
「……っ」
「さて、本題だ」
サイリンが笑う。
「トロマンは喋ったぞ。お前らの欲しがってる情報をな」
「どこだ! トロマンは!」
「おーい、クリナクス(Krinax)。連れてこい」
狂ったように笑う魔族が現れ、トロマンを引きずってきた。
その姿を見た瞬間――
「……っ!?」
イザウの目が見開かれる。
両足が、切り落とされていた。
「てめぇらァァァ!!」
ルシが泣き崩れる。
「おじいちゃん……!」
「泣くな……大丈夫だ……」
かすれた声。
だが――
「ははは! まだ生きて帰る気か?」
スケクメスが嘲笑う。
「残念だが全員ここで死ぬ」
「伝説の武器だと? そんなもの最初からこの街にはない」
サイリンが言い放つ。
「……いや、ある」
トロマンが呟く。
「市長が持ち去った……巨大な双斧だ」
イザウの脳裏に、何かがよぎる。
――その瞬間。
天井から三つの影が降り立った。
見慣れぬ武器を構え――一斉に攻撃する。
「ぐっ……!?」
「なんだこの武器……皮膚を貫く!?」
混乱が広がる。
信者たちは逃げ惑い――
戦場が、一気に崩壊した。




