第9話 ラファの土人形戦2・メガネウラ
俺は鳥の土人形を踏み台にして、空中を飛んでいるトンボ野郎に突っ込んだ。
「落ちろ、虫ケラァ!」
前腕をドリルに変化させ、敵の顔面へ目掛けて突き立てる。
当たる寸前、トンボの複眼がぎらりと光る。
直後、空気がゆがんだ。
「ッ!?」
トンボの口が開き、そこから土砂がビームのように一直線に噴き出す。土人形を壊し、地面をえぐり、建物を削る。
「ふざけんなよ、俺の街を破壊すんじゃねぇ!」
俺の怒号を無視するようにビームがこちらへ迫る。
「クソがよぉ!」
俺は足場を蹴り、横へ跳ぶ。
土砂の直線がすぐ横を通り抜ける。熱もないのに焼かれるみたいな錯覚。当たったら肉体が消滅するだろう……いや、ドリルの体なら耐えられるか?
さすがに地母神級となると無理だろうか。試したいけど、今のところ勇気がない。
迷っていると、トンボが突進してきた。
だが、遅ぇ。俺は避けながら腕を構える。
「もらったァ!」
ドリルが猛犬のようにうなり、トンボの羽へと突き刺さる。
バギンッ、と嫌な音がした。まるでガラス細工に無理やり杭をねじ込んだみたいな感触だ。
今まで戦ったどの相手よりも硬い。さすが地母神級か。だけど貫けないほどではない。
「ウラァ!」
暴れるトンボにひっつき虫みたいにドリルを引っ掛けたまま、掘削を続ける。すると、半透明な羽にトンネルが開通した。
「どうだッ!」
低空飛行していた土人形に着地しつつ、空を仰ぐ。
すると、トンボの羽に開いた穴が塞がっていくのが見えた。巻き戻るかのようにさっきの破壊がなかったことにされている。
「はぁ!? 再生早すぎんだろ!」
土人形は自己再生できるものがある。大地から魔力を吸い上げて、それで傷を修復するのだ。にしても早い。空に浮いた状態で成し遂げるあたり、さすが地母神級だ。
「クソッタレ、どうすっかなァ!?」
もう一発攻撃できそうだが意味はなさそうだ。
俺は一旦高度を落とし、足場を蹴って地上へ戻る。こういう時に無理をするとロクなことが起きない。経験則だ。ロクでもない方向に積み重ねた人生経験だけは豊富なのでわかる。
着地と同時に魔法兵団団長へ歩み寄る。
「なんだありゃ、再生速度バグってんぞ」
団長は相変わらずライオンみたいな顔で眉根を寄せている。
「あれが地母神級の土人形の力だ。しかしドリルマン、お前の攻撃ならヤツを貫けるようだな。やはり魔力を一点に集中する能力に優れているのか。私と同格、いや少し下の力を持っているか」
どうしても俺をちょい下に置きたいらしい。プライド高すぎだろ。
「それよりトンボ野郎に弱点ねぇのかよ?」
「地母神級の特徴として“化石”から土人形を創造できるのだが、あのトンボも間違いなくそれからできている。たしか、メガネウラと言ったかな」
メガネウラ。どっかで聞いた名前だ。前世の知識が埃まみれの本棚みたいに脳内にあるが必要な時に限って取り出しにくい。
思いつく間もなく団長が話を続ける。
「ゆえに体内に元となる化石が埋まっているはず。それを破壊すれば朽ち果てるだろう」
なるほどな。星喰いでいう核みたいなもんか。
つまり、化石が心臓や脳みそのようなもので、壊せば機能停止。ゲームのボスみたいな仕様で助かる。
「ヒャハハ! あるじゃねぇか弱点がよぉ! あのトンボ野郎をこの世に存在していたことすら分からなくなるくらい粉々にしてやるぜぇ!」
俺の汚い言葉に周囲が静まり返る。あ、まずい。
兵士たちが顔をしかめてドン引きしていた。
違うんです。今のは俺じゃない。口が勝手に滑っただけなんです。俺はもっとこう、常識的で穏やかな人間なんです。本当です信じてください。
「と、とにかく化石を壊しゃあいいんだろぉ!? どこにあんのか分かるのか!?」
必死に軌道修正する。が、たぶんもう遅い。評判ってのはガラスより割れやすくて、ダイヤより修復しにくいからな。
団長は気にした様子もなく返答する。
「不明だが推測はできる。破壊されるリスクを鑑みて体の厚い部分に隠してあるはず。恐らく中心、トンボなら胸の辺りか」
「オーケー! そんじゃあとっとと道を作りな! 俺が叩き落としてやるからよぉ!」
団長がうなずき、手を上げる。
「総員、再度足場を構築しろ! ドリルマンを援護する!」
「おうっ!」
土が隆起する。階段が空へと伸びていく。足りない部分は鳥型の土人形が補う。
俺はニヤリと笑い、駆け出した。
「オラオラ! ミキサー車のお通りダァ!」
相変わらずの舌の回り具合を披露しつつ、トンボへ接近する。
敵が再び土砂ビームを吐く。
だがもう見切った。横に跳ぶ、土人形に着地、前に出る。最短ルートだ。
「そこだァ!」
胸部へ一直線。分厚い装甲みたいな土の塊。だが関係ない。
ドリルがうなる。魔力を一点に集中、圧縮する。先端が刺さった瞬間に押し込む。世界の方が間違ってると言い張るみたいに無理やり穴を開けていく。
「うぉっしゃあああ!」
手応えが変わる。硬いだけの土じゃない。中に何かがある。
「見つけたぜぇぇ!」
赤黒い塊でトンボのようなマークが彫られている。化石だ。敵の弱点。
さらにドリルを回す。削り、砕く。直後、鈍い音。
「終わりだ虫ケラァ!!」
全力で押し込む。ドリルが飢えた狼みたいな音で鳴いた。
天変地異のごとく周囲が揺れる。土まみれで見えないが恐らくトンボが暴れているのだろう。
「もう遅いんだよ! くたばれ!」
瞬間、化石が床に叩きつけた皿のごとく砕け散った。
そして俺はトンボの中心から飛び出して足場へ着地した。
世界が一瞬だけ静かになる。
走馬灯が一周する程度の時間が過ぎた後、トンボの巨体が崩れ始めた。羽が砕け、胴が崩れ、空中でバラバラになる。重力に従って、ただの土へと還っていく。後には、まるで最初からそこに何もなかったみたいに青空だけが広がっていた。
「ヒャハハハハ! 雑魚がよぉ!」
戦場が静まり返っていた。さっきまでの地獄みたいな光景が嘘みたいに消えている。嵐の後の静けさってやつだ。
俺は鳥の土人形から降りて、魔法兵団へと近づく。
団長がニヤリと笑いながらこちらを見る。
「さすがだよドリルマン。私と同等、いやちょっと下かな? ……ぐらいの立ち回りを平然とやってのけるとはな」
「ヒャハハ! 俺が子供を食ってないって分かっただろぉ!?」
「それはまた別の話だ」
おい。……まぁ正論か。
とにかく勝利だ。




