第5話 賞金首と魔法兵団2・霊峰級
俺は魔法兵団団長と戦うことになり、外にある訓練場へ出た。広場のようなそこには、土魔法剣や槍などの魔法武器や、カカシのような魔法土人形が乱雑に置かれていた。
その真ん中でライオン顔の団長と対峙する。彼は霊峰級と呼ばれる土魔法使いの中で上から三番目に強い階級だ。簡単に言うとレベル4。俺が戦ったモグラ顔の賞金首より1レベル高い。
勝てるかどうか不安になっていると、団長がニヤリと笑った。
「ドリルマン、お前が実力者だと見ればわかる。そのトゲトゲは“針鉄鉱”だろう? それを魔力で強化し、鎧にして防御を固めている——と、並の使い手なら思うだろう。しかしその本質は防御ではなく攻撃にある。こちらが攻撃したと同時に棘を伸ばして反撃するのだろう? 肉を切らせて骨を断つ、いや、皮を切らせて骨を断つといったところか。そして利点はそれだけではない。ドリルの表面積が広いのを利用していち早く敵の攻撃を察知し、対処できるようにしている。いわば触角。恐らく魔力の少なさと反応速度の遅さを補うため。ふざけた見た目に反して至極合理的だ。素晴らしいよドリルマン」
その団長の考察に俺は目を見開く。
す、すごい。これだけ喋ったのに全て——“間違っている”。そんな戦術考えてないし、針鉄鉱でもないし、それどころか土を操れないから土魔法でもない。
今のところ姿を隠すことしか考えてないんですけど。
「ひゅー、さすが団長だぜ! 初見で相手の特徴を見抜いてやがる!」
野次馬の兵がキラキラした目で団長を見ていた。
うーん。この兵団解散した方がいいかも。
「それでは行くぞ、ドリルマン——」
刹那、団長が土煙を残して消える。
え、速い。
気づいた時には俺の額の角に団長の拳が接触していた。
破裂音とともに暴風が起こる。
俺の頭のドリルは粉々に——ならないどころか傷一つつかなかった。
「ぐぅ……」
涙目になりながら距離を取る団長。
「く、ククク。素晴らしいよドリルマン。一点に魔力を集中することで私の攻撃を受け切ったか」
いや、何もしてませんけど。それどころか、なにかしようにも早すぎて見えなかったんですけど。
「魔力の少なさを技術で補うとは、並大抵の努力ではたどり着けない境地だろう。私にはわかるぞ」
いや、魔術書に触っただけですけど。
「キミをみくびっていたよ。詫びよう。すまなかった。次の一撃は本気でいかせてもらう。だが、案ずるな。殺しはしない。ただケガはするかもな」
ドヤ顔。コイツこそイキリライオンとか呼んだ方がいいんじゃないかな。
「はああああ!」
団長が気合の声を上げながら手のひらを下に向ける。土魔法は大地より魔力を得る。一流の土魔法使い同士の戦った場は、周辺の魔力を使い果たして不毛の地になるという。農耕地で戦うのは怒られるのでやめましょう。
俺が自分自身に注意喚起していると、団長の魔力が溜まったようで、両手から可視化した魔力が靄のように揺らいでいた。
「死ねぃ!」
いや、死ねはよくないだろ。と、考えている間に団長がライオンのごとく飛びかかってきた。
「ふぅん!!」
ドリルを削るように連続で腕を振り下ろす。
「どりゃりゃりゃりゃ!」
速い速い。これはまるで——猫パンチだ。まったく痛くない。むしろ癒される。どりゃりゃより、にゃにゃにゃの方がよかったんじゃないか?
俺がボッーとそんな事を考えている間も団長は猫パンチを頑張っている。
「んぎぎぎぎ!」
何だその声。ジャムの瓶が開かない時しか出さない声だろ。無理するなよ。腕折れるかもしれないよ。
それでも頑張って潰そうとしてくる。
俺はドリルの回転は止めていた。グロを見たくないからな。
「きえええええ!」
団長は奇声を上げながらまだまだ頑張る。しかし、爪が割れており、無理をしているのが分かる。もうやめとけよ。
その後。結果は、まぁ言うまでもない。
気づけば団長は膝をついていた。
「まさか団長が負けた……!?」
兵士たちの声が遠くに聞こえる。
団長は立ち上がり、割れた爪を隠すように両手をポケットに入れる。そして咳払いを一つ。
「な、中々やるじゃないか。私の八割、いや六、うーん五割くらいかな? ……の魔力を込めた攻撃を防ぐとはな。今回はこれくらいで勘弁してやろう。私が本気を出せばキミを殺してしまいかねないからな」
さっき本気で行くって言ってなかったか?
プライドも霊峰級だな。こういうタイプはあまり煽らない方がよさそうだ。
俺は即座に態度を切り替える。
「ファファファ。お手合わせありがとうございました。さすが魔法兵団団長です。死ぬかと思いましたよ」
お前がな。という言葉はなんとか呑み込んだ。
作り笑いを貼り付ける。顔の筋肉が抗議してくるが無視だ。
「それで賞金首を捕まえた報奨金をいただきたいのですが」
話題転換。これが一番安全な逃げ道だ。
「あ、ああ、そうだったな。手続きがあるから少し待ってくれ」
「ええ、もちろん」
うひひ。勝った上に金まで入る。人生、たまにはボーナスステージもあるらしい。今までの不運が利子付きで返ってきた感じだな。
その時だった。ガサツそうな顔の男が走ってきた。
「団長! 大変です! ついにイキリドリル野郎が——人を食っちまいました!」
空気が凍る。男は俺に気づいていないようで話を続ける。
「なんでも、子供を捕まえて、野菜の皮でも剥くようにドリルで削って分解した後、じっくりコトコト煮込んでスープにして食べるらしいんです!」
子供という単語がなかったら美味しそう。じゃなかった、何言ってんだコイツ。
俺が口を開く間もなく兵士は続ける。
「やっぱりイキってるやつはロクなやつじゃないんすよ! ……って、あれ、そこにいるのって……」
「あ……」
俺の口から間抜けな声が漏れる。さっきまでの勝利の余韻が砂みたいに指の間からこぼれていく。
視線が刺さる。さっきまでの比じゃない。これはもう槍だ。
「ど、ども、ハリモグラです」
我ながら意味不明なことを言った。追い詰められると人間は本質が出るらしいが俺の本質こんなのかよ。
団長がゆっくりと口を開く。
「……ドリルマン。ちょっと話を聞かせてもらえるか?」
「あはは、もちろ——」
いや、待てよ。子供を食べていない証拠は……ないじゃん!
どうやって証明したらいいんだ。
「案ずるな。しばらく監禁、いや拘束、いや、うーん、逮捕! じゃなかった手を繋いでおくだけだ。すぐに解放するから安心しろ」
いや、絶対長期間拘束されるだろ!
とにかく今は捕まりたくない。捕まったら単純に自由に動けなくなるだけじゃなく、正体バレや、能力バレをする可能性が高い。最悪の場合、実験体にされたり、能力を奪われたりするかもしれない。だからここは。
「ファファファ……賞金はいずれ取りに来ますんで……お邪魔しましたぁ!」
全力で逃げる。
「あ、待て! イキリドリル野郎!」
その後、俺が賞金首になったのは言うまでもない。




