第17話 土魔法試験6・土人形タイタン戦
最終試験部屋の中に入ると土人形タイタンが仁王立ちでいた。近くで見ると壁みたいだ。
隅にいるフクロウのじっちゃんが杖を打ち鳴らす。
「最終試験、始め!」
その声と同時にタイタンの四本の腕がゆっくりと持ち上がる。歓迎の握手じゃない。叩き潰すための前振りだ。
「ヒャハ、いいねぇ!」
思わず笑う。こういうのでいいんだよ。余計なギミックも説明もない、単純な暴力。わかりやすくて助かる。
タイタンが動く。地面が揺れる。踏み込みだけで小さな地震だ。
腕が振り下ろされる。
「おせぇなぁ!」
でかい分、動きは単調だ。軌道が読める。読めるなら避けられる。避けられるなら当てられる。
「オラオラ、行くぜぇ!」
ドリルを展開。回転。加速。振り下ろされた腕をすり抜け、敵の胴体へ飛び込む。
「落ちろッ!」
突き刺す。嫌な音が響く。土が削れ、構造が崩れる音。要するに壊れていく音だ。
「オオオ……」
タイタンが悲鳴とも言えない程度の叫びを上げてぐらつく。
四本の腕が無秩序に振り回される。暴風みたいだが遅い。
俺はそのまま押し込む。深く。もっと深く。中枢まで。
「終わりだぜぇ!」
内部から崩れた。巨体が音を立てて崩壊する。積み木を下から抜いたみたいに、綺麗に、無様に。
しかし、次の瞬間。再生。動画を逆再生したみたいに元の四本腕の怪物に戻っていた。
「なんだとぉ?」
俺の疑問符に答えるようにじっちゃんが口を開く。
「フォフォフォ、星喰いには瞬時に再生する個体もおるでの」
なるほど。どこまでも星喰いとの戦いをシミュレーションしてるってわけだな。
「へ、面白ぇ」
でも土人形も、星喰いも、無敵じゃないだろう。核がどこかにあるはず。
「なら、探すだけだよなぁ!」
タイタンが四本の腕を振り回しながら突っ込んでくる。動きそのものは単純で巨体ゆえの鈍重さを隠し切れていないため、俺は迫ってきた拳を紙一重で避け、その勢いのままドリルを胴体へ突き刺し、内部を掻き回すように削り取った。
だが、ない。胸を穿っても、腹を抉っても、頭部を砕いても、背中を裂いても、どこにも核らしき反応がない。
「ねぇなぁ!? どうなってやがる!?」
違和感が喉に魚の骨みたいに引っかかる。
核持ちの土人形は、どれだけ精巧に作られていても無意識に守りが生まれるものだ。人間が急所を庇うのと同じで壊されたくない場所には微妙な動きの偏りが出る。
だがコイツにはそれがない。全部どうでもいいみたいに暴れている。核を守る気がない。
「これはどういう——」
俺の思考を妨害するようにタイタンの拳が横薙ぎに飛んでくる。
「チィ!」
俺は身を沈めて避ける。背後の壁が爆音と共に砕けて粉塵が舞い上がる。その白っぽい砂煙の中で俺は考える。
核が小さいのか? もしくは特殊な隠し方をしている?
その時、カン、と乾いた音が響いた。じっちゃんの杖。その音が妙に耳へ残る。脳みその奥で何かが繋がる。
タイタン。見つからない核。試験官。杖。そして、試験。
「……あぁ、そういうことかぁ」
思わず笑みが漏れる。固定観念に縛られていた。
タイタンの内部に核があるという前提そのものが罠。つまり。
「ヒャハハハッ! 分かったぜぇ!」
俺が勝利の笑みを浮かべていると、タイタンが突進してきた。
もう興味は失せた。お前に用はない。俺は真正面から迎え撃つと見せかけて地面を蹴り、直前で軌道を変え、そのまま隅に立っていたじっちゃんへ一直線に飛び込む。
「ほう?」
じっちゃんの片眉がわずかに上がる。
ドリルを加速。あと数センチ踏み込めば首が吹き飛ぶ距離で止める。風圧だけでヒゲが揺れた。
「なんじゃ? やらんのか?」
俺は笑った。
「殺すと処理が面倒だろぉ? 服も汚れるしなぁ?」
「フォフォフォ、舐められたものじゃのう。だが、お主と本気でやり合うと分が悪そうじゃ。やめておくかの」
その瞬間、背後でタイタンが音を立てて崩れ始め、まるで糸を切られた操り人形みたいに巨体が土へ還っていく。
「なんだぁ? 終わりかぁ?」
「この試験の本質は固定観念を打ち破ることにある。見物人であるワシが“核を持っているはずがない”という固定観念をな。それを見破ったお主と戦いを続ける理由はないのう」
じっちゃんは愉快そうに杖の頭を回している。そこにはきらりと光る赤い宝石。恐らくこれが核だろう。
「てーことは、合格かぁ?」
「そうじゃな。ワシへの攻撃を止めたこともポイントが高い。見た目に反して倫理観はまだ持ち合わせているようじゃな」
「失礼なやつだなぁ!? 俺はいつでも紳士だぜぇ?」
「フォフォフォ」
静かになる。残ったのは、ただの土の山。
「ったくよぉ」
息を吐く。大した消耗じゃないがこういう時は区切りとしてやっとくもんだ。
外に出て、じっちゃんがこっちを見る。今度は怒ってない。観察する目だ。短くうなずき、わずかに微笑む。
「うむ、合格者はお主らだけじゃ」
最終的な合格者は俺とリンの二人。
かなり振り落とされたな。俺にとっては簡単だったが、普通の土魔法使いにとっては意外と難しかったらしい。
「やりましたわね、ドリルさん!」
「ヒャハ、おうよ!」
リンが手を差し出す。俺はそれを軽く握る。
ロリとトゲトゲ男というイロモノが残った。はたから見たらサーカス団の一員に見えるだろうな。
まぁいい。試験は終わった。
で、ここからが本番ってわけだ。聖域に入り、魔術書の正式版を手に入れなければならない。
人生ってやつは合格した瞬間にスタートラインを後ろにずらしてくる。いやらしいもんだな。
しみじみと思考しながら、俺はとりあえずの安堵の笑みを浮かべた。




