第16話 土魔法試験5・土人形の禁止事項
第三試験の途中、俺が試験部屋を壊したせいでまた中断になった。
フクロウ顔のじっちゃんにチクチクと嫌味げに叱られた後、第三試験が再開し、終わった頃には周りにいた受験者は五人まで減っていた。
多いのか少ないのか判断に困るが少なくとも通るだけの部屋は、ふるい落としとして優秀だったことだけは確かだ。あの部屋、見た目はただの箱のくせに中身は性格の悪い迷路だったからな。製作者の顔が見てみたい。あ、目の前にいたわ。
「次が最終試験じゃ」
じっちゃんが何事もなかったようにさっきまで俺を叱っていた同じ口で発した。感情の切り替えが職人芸だ。さっきの怒りどこに収納したんだよ。
「最後は簡単じゃよ。土魔法の総合力を見せてもらうためワシの創造した“土人形タイタン”を倒してもらう。それだけじゃ」
それだけって、簡単に言ってくれるな。
だがまぁ嫌いじゃない。むしろ歓迎だ。俺のドリルは交渉よりも破壊に向いてる。会話が通じない相手の方が気楽だ。
そしてすぐに場所が移される。さっきまでの試験場から少し離れた、だだっ広い空間。
「知っておると思うが土人形は著しく人型に似たものを作ってはならない。理由はわかるかの?」
じっちゃんが講義モードに入る。試験前の最終確認ってとこか。
「はい!」
元気よく手を挙げたのはリンだ。相変わらず声が鐘みたいに澄んでいてよく通る。
「人間に似ていると、まぎらわしくて誤爆や事故に繋がる恐れがあるからですわ! それと、人を傷つける行為に抵抗が少なくなってしまうというのもありますの!」
実に優等生な回答だ。実際リンの言う通り、人型人形は人に危害を加える引き金が軽くなってしまう。そうなれば行き着く先は血生臭い結末になるのは想像に難くない。
「フォフォフォ、その通りじゃ。お嬢さんは賢いのう」
「えっへん、ですわ!」
褒められて胸を張るリン。素直に喜べるのは才能だと思う。俺なんか褒められると裏を探し始めるからな。性格が腐った食品みたいになってる。
「ではそれを踏まえてじゃが」
じっちゃんが杖を軽く鳴らす。すると地面に波紋が広がり、現れたのは土人形。
四本腕。巨大。質量の暴力。遠目で見れば人型だが近くで見れば似ているというより、寄せている程度のラインだ。禁止事項ギリギリを攻めるあたり、作った本人の性格の悪さがにじみ出ている。
「こやつはタイタン。ワシの土人形じゃ。先ほど人型は禁止されていると言ったがタイタンは腕を増やして顔を悪魔のようにすることで許されておる。ま、ワシが試験官というのもあるがの」
せこいな。ヤンキーが自家用車を車検が通るギリギリのラインを攻めて改造してるみたいだ。
「星喰いには人に似たものもいるのじゃ。そういうものと相対した時に戦えないでは困るからの。タイタンは恐怖と倫理観を踏み越える実験体にピッタリというわけじゃ」
なるほどな。たとえば好みの女の形をした星喰いが現れた時にためらっているようじゃ話にならないってことだ。
言及はしていないが人との戦闘も想定してのことだろう。聖域はかなり広いと聞く。星喰いのせいにして人が人を殺すのも容易だろう。人の命なんて欲望の前では紙より軽い。
理想だけで戦場は回らない。世知辛い話だ。まぁ俺は賞金首とも戦ったし、人だろうが邪魔するなら容赦なく穿つぜ。
「それでは始めるとするかの。一人ずつ向こうの部屋に来るがよい。ドリル男、お主は問題児じゃから最後じゃ」
ああ、はいはい。余計なものを壊されると困るから後回しね。自覚はある。俺は受験者というより災害寄りだ。誰が災害だよ。
心の中で突っ込んでいると、目の前の土人形タイタンが崩れ始めた。一旦収納したわけだ。向こうで戦うならここで出す必要なかったよな。
とにかく試験が始まり、じっちゃんを追うように最初の一人が入っていった。
手持ち無沙汰になった途端、同じく暇なリンが話しかけてくる。
「ドリルさん、暇ですわ!」
「偶然だな、俺もだぜ」
「タイタンを倒せる自信はありますの?」
「ヒャハハ、当たり前だぜぇ! 俺に貫けねぇもんはねぇよ」
適当に言っているわけではない。ここに来るまでに地母神級が作った土人形を倒している。タイタンはその一個下の地王級が作った土人形。勝てないわけがない。
それに恐らく弱めに作成されているはず。というのも、まず聖域は常に人手不足で少しでも戦力が欲しい状況。地王級レベルがいるに越したことはないが、そこまでの才能があるやつは多くはない。だからそれより下のレベルのやつを集めるため本気は出さないだろう、という予想だ。
なんてことを考えながらリンと談笑していると、じっちゃんが出てきた。
「次じゃ」
さっき入った受験者はいない。最終試験に受かっても落ちても戻って来ないシステムか。第三試験と同じだな。
不安を煽るねぇ。でもこの程度で震えていたらダメなんだろうな。
「次はリン、お主じゃ」
「はいですわ!」
元気よく突っ込んでいく背中は自信に満ちあふれている。ああいうやつは強い。躊躇がないからな。
リンが入って、しばらくして再び扉が開く。そしてまた一人、また一人と入っていく。
それから緊張の糸がほぐれ出した頃。
「次、最後はドリルマンじゃ」
「うぃ」
軽く返事をしたものの、体中を緊張が駆け巡っていた。




