第13話 土魔法試験2・不思議少女リン
「安全確認のため一旦休憩じゃ」
と、フクロウ顔のじいさん試験官が言った。
俺がドリルを飛ばして土魔法試験会場の一部を破壊してしまったせいである。
そういうわけで試験は中断。受験者たちはぞろぞろと外へ出される。
俺は焼けたパンみたいに焦げた空気を肺に入れながら壁にもたれていた。自分のやらかしを反省しているかと言われれば、まぁ……一割くらいはしている。
「こんにちは!」
俺が隅で反省していると、やけに明るい声が飛んできた。爆心地に咲くタンポポみたいな場違いさだ。
「ああん?」
振り向くと、さっきの金髪ポニーテール少女が太陽みたいな笑顔を浮かべながら立っていた。毛先が相変わらずバネみたいに跳ねている。元気が服を着て歩いてるみたいなやつだ。
「ボクはリン! よろしくですわ!」
ボクっ子でお嬢様言葉とか設定盛りすぎだろ。キャラメイクの神様、ちょっと筆が乗りすぎてるぞ。
「なんか用かぁ?」
「さっきの凄かったですわ! そのかっこいいネジネジはなんの石ですの?」
ネジネジ。ドリルのことか。……まぁ、間違ってはいない。
「ヒャハ、これの良さがわかるか。こいつはドリルだぜ。男の夢と希望の塊だ」
自分で言ってて、だいぶ頭の悪い宗教の教祖みたいだなと思った。だが事実だ。ドリルは世界を救う。知らないけど。
「どりる! 魔法石ってことでいいんですの?」
魔法石は魔力で構築した固形物のことだ。質に差はあるが、土魔法使いはみんな使える。
俺のは違うがドリル魔法は秘密だし、適当に誤魔化すか。
「そ、そうだぜぇ。俺だけに許された最強の武器だ」
「そうなんですの? でもボクにも作れますわっ!」
リンは手のひらを上に向ける。
すると、そこに浮かび上がる円錐。しかも螺旋状。見た目だけなら俺のドリルと瓜二つ。メタリックグレーと色まで同じ。
おい。おいおいおい。
俺のアイデンティティがコピペみたいな軽さで複製されてるんだが。
「へ、へぇ。上手いじゃねぇか。だけどよ、形だけなら誰でもマネできるもんだ」
喉の奥に引っかかったプライドを無理やり飲み込んで続ける。
「大事なのは中身だ。俺のドリルは誰にも砕けねぇ」
そうだ。見た目なんて看板だ。重要なのは中身。魂。あと回転数とか。
「そうなんですの? じゃあ、えい!」
「は?」
間の抜けた声を出した瞬間、リンはその偽ドリルを俺の頭の角に叩きつけた。
鈍い音のあと、偽物のドリルが粉々に砕け散る。
ついでに土埃が舞う。視界が白く濁った。
「ゲッホゴッホ! てめぇ、ふざけんなよ!」
咳き込みながら怒鳴る。
「わぁ! 本当に硬いですわー! すごいすごーい!」
リンは拍手しながら笑っている。無邪気という名の暴力だ。子供の好奇心は時に鈍器になる。
そして彼女はトテテテと走っていった。
「おい待てコラ!」
「あははは!」
呼び止めも聞かず、リンは風みたいに走り去る。ポニーテールだけが名残惜しそうにビヨンビヨン揺れている。
なんだあいつ。嵐か何かか?
俺は頭の角を軽く叩いて確認する。無傷。さすが俺のドリル。紛い物なんかじゃ壊れない。
だが、心には小さなヒビが入った気がする。
唯一無二だと思っていたものが表面だけとはいえ子供のおもちゃみたいに再現される。ああいうのは地味に効く。砂糖だと思って舐めたら塩だった時くらいには裏切られる。
「フォフォフォ、生きのいい若者が多くて頼もしいのぉ」
振り返ると、例のフクロウ顔じいさんが戻ってきていた。
「さて、第二試験の準備が整ったぞい」
じっちゃんはゆっくりと手を広げる。その仕草一つで空気が締まる。さっきまでの騒ぎが嘘みたいに場が整列した。
「次の試験は“魔法石上げ”じゃ」
じっちゃんが顔を向けた先には、漆黒で王様っぽいシルエットの像がある。
あれを持ち上げろってことか。シンプルでいいね。
さぁて、本気出しますか。俺は首を鳴らす。ゴキリ、といい音がした。
しかし、俺はある事に気づく。
「待てよ、持ち上げるってことは筋力がいるよな?」
あれ、俺のドリル魔法のカテゴリーって、大きさ、硬さ、形、数、分離、部位変化、特殊の七つだよな。
……おい、ないぞ。パワーを上昇させるものがない。身体能力強化がない。
特殊にあるのか? だとしたら覚えてないからどちらにせよ詰みじゃねぇか!
俺は冷や汗をかきながら枯れかけのサボテンみたいにシナシナになった。




