第12話 土魔法試験1・的当て
星の都エデンに着いてから三日後。土魔法試験当日。
俺は試験会場に立っていた。
立っているというより刺さっているが正しいかもしれない。全身トゲトゲの俺は群衆の中にまぎれるどころか、黒板に落とした白いチョークみたいに嫌でも目立つ。漫画だったら確実に一話限りの色物キャラだ。
当然、周囲の視線は刺さる刺さる。俺のトゲとどっちが鋭いか競争でもしてんのかってくらいだ。
「なにあれ……サーカスの人?」
「刺さったら痛そう……」
「近づくなよ、服が引っかかって破かれるぞ」
「多分、人を殺してるな」
ヒソヒソ声ってのは不思議だよな。小さくしてるつもりでも悪意だけは拡声器でも使ったみたいに響く。
ま、いい。人の目は気にしない。むしろ目立っていいじゃないか。ファファファ。
俺は、人目を気にしないやつはそんなこと考えないという事実から目を逸らしつつ、時が来るのを待った。
喧騒が止んだと同時、壇上に一人の老人が上がる。
フクロウみたいな顔のじっちゃんだ。目が無駄にギラついていて、昼でも夜でも塵ひとつ見逃さないぞと言わんばかりの圧がある。
「英雄の卵達よ、本日は来てくれて感謝する」
声はしわがれているが妙に通る。乾いた土に水を垂らしたときみたいにジワリと全体に染みてくる感じだ。
「さて、土魔法試験を始めるわけじゃが初めに警告しておくぞい。金、地位、名誉、そういった俗なものが欲しいのであるならば、今すぐ去れ」
おっと、いきなり心臓に言葉のナイフを刺してきたな。しかも丁寧にねじってきやがる。
「聖域には危険がともなう。浮かれた気持ちではすぐに命を落とすぞい。土魔法が使えるのならば他に適切な仕事があるじゃろう。ここにいても時間と命の無駄じゃぞ」
正論という名の鈍器を容赦なく振り回してくる。
「こちらが求めるのは使命感と正義感を持つ者。国の発展と平和を願う心の持ち主じゃ。……それを踏まえて、いま一度胸に手を当てて考えてみよ。もし、臆病風に吹かれたなら今すぐ出口へ向かうがよい。誰も咎めはせぬ」
静寂。空気が一瞬で重くなる。さっきまでのざわつきが嘘みたいだ。まるで全員まとめて首に見えないロープをかけられたみたいに動きが止まっている。
……なんか怖くなってきたな。帰ろうかな。
今ならまだトイレ行くふりして自然にフェードアウトできる気がする。人生ってのは撤退戦が大事なんだよ。負け戦に突っ込むのは英雄じゃなくてただのバカだ。
なんて考えていると、じっちゃんが口端を少し上げた。
「ふむ、どうやら臆病者や俗物はいないようで安心じゃ。ま、事前に情報を得ておるじゃろうし当たり前かの。フォフォフォ」
だ、だよな! ビビるやつなんて来るわけねぇよな! ……と、自分に言い聞かせる。
「それでは始めるぞい。まずは移動じゃ」
ぞろぞろと隣へ移動する。家畜の行進ってこんな気分なんだろうな。違うのは、ここで振り分けられるのが食肉用かどうかじゃなく、聖域に入る価値があるかどうかって点くらいだ。
案内された場所は大空間だった。奥には的が並んでいる。ざっと見て、俺のいる位置から百メートルくらい離れていそうだ。
「まず第一の試験は的当てじゃ。土魔法は大きく分けて“構築と操作”からなるが、今回は主に操作の方を見させてもらおう」
じっちゃんのいう通り、土魔法は二つに分かれる。魔力から魔法土や魔法石を生み出す“構築”。既にある土や石を動かす“操作”。料理で言えば、食材を作るか、調理するかの違いだ。
で、今回は調理の方。つまり、どれだけ繊細に正確に土を扱えるかって試験だろう。
フクロウのじっちゃんが話を続ける。
「この位置から魔法を的に当てるだけじゃ。そこに積まれた石を使ってもよいし、自分で構築したものを使っても構わんよ。ただし、チャンスは一度だけじゃ。聖域には星喰いがいつ何時湧くか分からぬ。そんな中でどのような予想外が起きようとも冷静に対処できなければならない。この試験はそれを見極めるものでもあるのじゃ。たった一度の機会、その程度の重圧に耐えられないようでは入域しても死ぬだけじゃからの」
な、なるほどね。胆力を試すものでもあるのか。なんかドリルが震えてきたぜ。も、もちろん武者震いな!
「それでは始めるぞい。受験番号1から順に前へ来るがよい」
その言葉を皮切りに次々と受験者が前に出る。積まれた石を投げるやつ、地面の砂を持ち上げて弾丸のように撃ち出すやつ、細い槍にして突き刺すやつなど。形は違えど、皆きっちり的に当てていく。
へぇ、やるじゃねぇか。ミスするやつもいるが少ない。半端な覚悟でここには居ないってことか。サブスクの更新に来ただけの俺が馬鹿みたいじゃん。馬鹿だけどよ。
「次!」
「はいですわ!」
元気に返事をしたのは十歳くらいの少女だ。
金髪ポニーテールで、毛先がアサガオのツルのようにクルクルとねじれている。服は薄い黄緑色のワンピースで、裾には花の模様があしらわれている。
おいおい、年齢制限どうなってんだ。それとなんだよその服装。戦いに向いてないだろ。
俺が心の中で苦言を呈していると、少女が動きだした。
「いきますわよー!」
前へ突き出した右の手のひらが光る。すると、植物のツルのような魔法物体が螺旋を描きながら的の中心へ吸い込まれる。
「やったー! ですわ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、ポニーテールの毛先がバネみたいにビヨンビヨンしている。
「すごいな、あんな子供がこれほどの魔力を持っているとは」
「生成速度、射出速度、どちらもハイレベルだ」
「恐らく霊峰級だな。しかも発展途上。将来の地母神級かもしれない」
そんな感じで周囲がざわめいていた。
あの少女、現世の俺と同じくらいの年齢なのにすごいな。
才能ってのは不公平だね。努力で埋まる差もあるが最初から掘られている溝の深さが違うやつもいる。ああいうのを見ると神様ってやつはサイコロ振って世界作ってんじゃないかと思えてくる。
まぁいい。俺は俺のやり方でやるだけだ。
「次、そこのとんがり男」
呼ばれる。誰がとんがり男だよ。とにかく俺の番だ。
前に出ると視線がさらに集中する。動物園の檻に入れられた珍獣ってこんな気分なんだろうな。違うのはエサじゃなくて評価を投げられるところか。
さて。遠距離攻撃がない俺は詰み……ではない。
俺はここに来る前の三日間で『出』の漢字を書いたことでドリルを分離できるようになった。つまり、あの円錐螺旋型の塊を飛ばせる。
俺は右手を前に構えた。
「ヒャハハ! いくぜぇ! ドリルロケットパーンチッッ!」
かっこいい名前をかっこよく叫んだ。
すると、空気を裂いて飛ぶドリル。回転しながら一直線に的へ突っ込む様は礼儀知らずの挨拶みたいなものだ。
見事に命中。直後、爆発。土煙が花火みたいに広がる。的はたぶん粉末になってる。
沈黙が場を支配する。
試験官のじっちゃんが、ゆっくりとこちらを見る。
「……ほう」
その言葉には、驚きと呆れと、あとほんの少しの興味が混ざっている気がした。
一方で落ち着きを取り戻した周囲がざわめきだす。
「危ねぇ」
「見た目通り、危険なやつだ。要警戒だな」
「魔力込めすぎだろ。加減を知らないのか」
そ、そりゃそうか。繊細さを競う場で爆撃かましたんだからな。料理対決でいきなり厨房ごと燃やしたようなもんだ。
その一方で変わった意見もあった。
「いや、うまいな。わざと広範囲に衝撃波を発するようにしたんだ。それなら多少外れても的に命中させられる。あいつ、結構考えてるよ」
いい事いうじゃねぇか。ただ——。
「ちょ、ちょっとやり過ぎたか……?」
俺は煙の向こうに消えた的を見ながら、冷や汗を流した。




