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ドリル魔法使い転生 【土魔法しかない世界に“ドリル使い”とかいう環境破壊能力者が現れて界隈がざわついてる】  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2部 土魔法試験編

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第11話 星の都エデン

 俺は正式版の魔術書を手に入れるために“星の都エデン”へ向かうことにした。


 準備もそこそこに乗り込んだ乗り合い馬車は、あまり揺れもなく静かだった。


 理由は簡単だ。引いているのが馬じゃないから。


 馬型の土人形。呼吸もなければ、いななきもしない。生き物特有の騒がしさをすべて削ぎ落とした結果、逆に不気味さが際立っている。


 そのほぼ無音の塊に揺られながら俺はせっせと魔術書にペンを走らせていた。


「ママー、なんであの人、手をプルプルさせてるのー?」


 向かいに座っている幼女が俺に人差し指を向ける。


「コラ、指をさしちゃいけません」


 母親がたしなめた。


 そうか、この本は俺にしか見えないんだったな。つまり今の俺は真顔でパントマイムをしている変人、もしくは存在しない恋人に存在しない手紙を書く痛い男だろう。察しろ幼女。これは必要な狂気なんだ。


 心の中でだけ弁解して俺は再びペンを走らせる。


 今、書いている漢字は『出』。


 これまでの俺のドリルは言ってしまえば接近戦専用の暴力装置だった。殴るか、削るか、突き刺すか、穴を開けるか。


 それだけだと初見殺しの敵に出会った時に対処する間もなく致命傷を負う可能性が高い。


 そこで遠距離攻撃を覚えようと考え、体からドリルを切り離す“分離カテゴリー”に該当する漢字を探した。


 全八十文字の漢字の中で分離に該当しそうなものを思いつく限り並べた結果、最終的にたどり着いたのが『出』ってわけ。


 『出』から熟語を連想した時、放出、射出、出発などが思いついた。どれも内側から外へって意味をふくんでいて分離を想起させる。だから『出』。雑な理屈だが、この魔術書は案外そういうノリで動く。理論よりも連想ゲームに近い。


「…………」


 俺は(あわ)れみを()びた視線を意にかいさず『出』を書き続ける。


 一画目。二画目。


 ペン先が漢字をなぞるたび、手が微妙に震える。疲労か、それとも期待か。どっちにしろ気持ちのいいもんじゃない。努力ってのはいつだって(むく)われる前が一番つらいものだ。


 そうこうしている内に馬車がゆっくりと止まった。


 酔いはない。普通なら字を書きながら乗り物に乗れば三半規管がストライキを起こしそうだが何ともなかった。


 理由はドリル魔法で体を回転させる生活をしているからだろう。これを日常にしている時点で俺の三半規管はとっくに普通を辞めている。慣れってのは恐ろしい。


「さて、行きますか」


 俺以外が降りたのを見計らって魔術書を閉じる。


 このクソ本の数少ない長所のひとつ、途中保存が効く。閉じても続きから書けるあたり、無駄にユーザーフレンドリーだ。だったらサ終とかいう概念も削除してくれればいいのに。


 クレームを胸にしまって馬車から降りる。そして。


「……おお」


 思わず、感嘆(かんたん)の声が()れる。


 目の前に広がっているのは星の都エデン。この国にある五大都市の一つで、もっとも発展している(みやこ)。そこは活気ってやつを煮詰めて濃縮したみたいな場所だった。人が溢れ、声が交差し、荷が行き交う。市場には季節を無視した野菜や果物が並んでおり、平和の片鱗が垣間(かいま)見える。


 視界の上方に見えるのは王城。色はクリーム色で、ヨーロッパ風というよりアラビア風だ。


 さらにここからは見えないが、聖域と呼ばれるダンジョンがその恩恵を都中(みよこじゅう)にばら撒いている。土は()え、作物は育ち、人が幸せになる。まるで楽園だ。


 逆に不気味だよな。楽園ってのは誰かが裏で地獄を引き受けていることで成立するもの。表が綺麗すぎる場所ほど裏はドロドロだったりする。


「……さて」


 ポエミーなことを考えるのを辞めて俺は地図の貼られた看板を見る。


 目的地は一つ。聖域。


 サ終を回避するための唯一の希望。砕けた言い方をすると、サブスクの更新ができる場所。ネットで完結させろ。


 インターネットが恋しくなりつつも、道を確認して歩き出す。


 途中、路地裏に入ってドリルマンに変身した。いつものように(ひたい)(つの)。ハリモグラ星人と呼んでくれ。やっぱやめてくれ。


 服は賞金首を差し出した時の謝礼金を使って買ったもので、破れてもしばらく放置していたら穴が塞がる仕様だ。高かったから大事にしないといけない。


「んじゃ、行きますかぜぇ!」


 相変わらず舌が変に回るが気にしないでおこう。


 大通りに出ると、奇異(きい)な視線を浴びる。どうだオシャレだろう。ファッションの最先端だぜ?


「なんだあのトゲトゲ。危ねぇな」


「気をつけろ。肩がぶつかったら難癖つけられるぞ」


「でけぇ毛虫だなぁ」


 失礼な奴らだな!


 これだから田舎もんはよぉ。いや、風の都の方が田舎か……これだから都会もんはよぉ!


 俺は心の中でイキリながら聖域前の兵舎(へいしゃ)へ向かった。


 入口には、いかにも通す気はありませんと言わんばかりの顔をした見張りが立っている。ドーベルマンっぽい顔つきだ。


「こんちゃーす!」


「……あ?」


 ま、まずい。ノリが陽気すぎた。


「あ、えっと、あのー、風の都から来ましたドリルマンっていいますぜぇ」


「ドリルマン? ……ああ、そんな話あったな。トゲだらけの、イガグリみたいなやつが来訪(らいほう)してくると」


 誰が栗だよ。茶色くねぇよ。体は洗ったぞ。三日前に。


「ファファファ……」


「怪しいな。まぁいい、ついて来い」


 兵舎の中に入り、少し歩くと、一人の女が座っていた。四十代くらいで、顔つきはメスライオン。


 獲物を見定める目。無駄を削ぎ落とした筋肉。近づけば噛み殺されると本能が告げてくる。


 俺を見る視線が皮膚を軽く切り裂いた気がした。実際には無傷だが感覚としてはそんな感じだ。


「あんた誰だい」


 低い声。威圧でも怒鳴りでもない。ただの確認だが妙に迫力がある。


「ファファファ、ドリルマンです。以後お見知り置きを」


 女は薄めの(まゆ)をわずかに動かした。


「へぇ、あんたがねぇ。団長から話は聞いてるよ。あたしは“デネボラ”。魔法兵団団長“プライド”の双子の妹だ」


 マジかよ。確かに似てる気がする。その前にあのライオン顔の団長、プライドなんて名前だったんだ。皮肉にもピッタリだな。


「ちなみにあたしも星の都の魔法兵団団長さ」


「よろしくお願いします。あ、これ一応紹介状ですぞ」


 俺が手紙を渡すと、デネボラは封を解いて中身を確認する。


「……確かに兄の字だね。あんたをよろしくってさ」


「それで聖域に入りたいのですが許可を貰えますか?」


「悪いがあたしには権限がない。入るには入域(にゅういき)試験を受けて合格するしかないよ」


「入域試験ですと?」


「ああ。土魔法試験ともいわれていて、聖域は星喰いが湯水のように湧く危険な場所だから試験で(ふるい)にかけて選別するのさ」


 面倒だな。


「試験には誰でも参加できるのですかな?」


「そうだね。人材不足が深刻だから定期的にやってんのさ。ちょうど三日後にあるから参加してみな」


「そうしてみますぞ」


 デネボラは柔らかく笑うと、背もたれに体重をかけて、もう一度こちらを見る。


「それで、なぜ聖域に入りたいんだい?」


 サブスクの更新のため……は言えないし、通じないか。


(かね)のためですぞ」


「アッハハ! 正直だねぇ。でも甘いね。あたしの目は誤魔化せないよ。兄の文にも書いていたけど最終戦争を止めるためなんだろ? 普通の人間は最終戦争は神話上の話でそれを止めるなんて馬鹿げていると考える。だが、ここ最近の聖域の動きを見ていたら、そう断じきることはできない。頻発(ひんぱつ)する地震、凶悪化した星喰い。世界は確実に終焉(しゅうえん)に向かっている。そこであんたは自身の正義感がうずき、いても立ってもいられず、ここへ()せ参じたというわけだ。さすがだね、ドリルマン」


 す、すごい。兄妹そろって——クソ考察してる。こんな奴らが団長でいいのか。土魔法の才能があればなんでもいいのかもな。くそ、俺も土魔法の才能があればこんな遠回りしなくて済むのによ。


「ファファファ……ご想像にお任せしますよ」


「ま、頑張りな。あんたは巌窟級(がんくつきゅう)なんだろ? だったら試験を問題なく突破できるさ」


 巌窟級は土魔法の階級で、六段階中のレベル3。それくらいの実力があればいいのか。なら余裕で突破できそうだ。


 俺は楽観的な気分で、試験の日が来るのを待つことにした。

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