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"名のない英雄"  作者: 終夜 / Yosugara
【 光彩 】
46/49

第46話

 

 霧がだんだんと晴れていく。


 風に吹かれて、薄れていく。


 前へ、前へと吹きつける風が冷たかった。


「 なぁ、光輝。あれ、…灯台じゃないか? 」


 霧が晴れるにつれて浮かび上がった、ひとつの物陰。


 光でも、花でもない。


 空を目指して建つ何かが、そこに見えた。


 ---それを見た瞬間、その言葉がパッと浮かんだ。



 “あれは灯台だ”



 と。


 それだけを思った。



 ザァー



 耳元で響いた水の音。


 それは“波の音”だった。


 周りに海はない。


 けど、たしかに海に近づいている。


 そんな予感がした。










 霧をぬけた先は、砂の世界だった。


 海はない。


 ただ、終わりの見えない砂浜の世界。


 けど、砂浜は波の模様を残していた。


 “ここに海があった”


 と、そう思わせられる。



『 思い出は失いたくないだろう 』



 不意にその声が聞こえて、ふと足を止めていた。


 思い出と言われて浮かぶのは、光輝と過ごした日々。


 その思い出を失いたくないのは、当たり前だ。


「 碧、急に止まってどうしたの? 」


「 は、聞こえなかったのか? 」


「 ? 」


 この声が聞こえたのは俺だけ。


 そう思うと、一気に不安が込み上げてきた。



『 戻れば、失わない 』



 また、その声が聞こえる。


 その言葉が、俺の耳の奥で反響した。


 ─────来た道を戻れば、失わない、のか?


 気づけば、そんなことを思っていて。


 振り返ってしまいそうだった。


 けど、不意に見えた灯台の影。


 影は後ろには伸びていなかった。


 だから、何故か後ろを向いてはいけない気がしていた。


 俺は後ろに振り返らないまま、前へと進む足を踏み出した。














レンガ造りの灯台。


雪のようなレンガとは相反して、その扉は真闇に呑まれたような、そんな色をしていた。


そのまま見つめていれば、その闇の中に取り込まれてしまいそうだった。


「 …開けるよ 」


「 おう 」



キィ



扉の開く音と共に、その向こうに隠れていた螺旋階段が露になった。


足先が触れるだけで、歩いた音が上まで響いていく。



カツ コツ



階段を上る。


狭くて、落ちてしまいそうで。


だから一段一段、丁寧に上った。


上へ上がっているのに、景色は変わらない。


けど、たしかに前へ進んでいる。


そんな気がしていた。








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