第46話
霧がだんだんと晴れていく。
風に吹かれて、薄れていく。
前へ、前へと吹きつける風が冷たかった。
「 なぁ、光輝。あれ、…灯台じゃないか? 」
霧が晴れるにつれて浮かび上がった、ひとつの物陰。
光でも、花でもない。
空を目指して建つ何かが、そこに見えた。
---それを見た瞬間、その言葉がパッと浮かんだ。
“あれは灯台だ”
と。
それだけを思った。
ザァー
耳元で響いた水の音。
それは“波の音”だった。
周りに海はない。
けど、たしかに海に近づいている。
そんな予感がした。
霧をぬけた先は、砂の世界だった。
海はない。
ただ、終わりの見えない砂浜の世界。
けど、砂浜は波の模様を残していた。
“ここに海があった”
と、そう思わせられる。
『 思い出は失いたくないだろう 』
不意にその声が聞こえて、ふと足を止めていた。
思い出と言われて浮かぶのは、光輝と過ごした日々。
その思い出を失いたくないのは、当たり前だ。
「 碧、急に止まってどうしたの? 」
「 は、聞こえなかったのか? 」
「 ? 」
この声が聞こえたのは俺だけ。
そう思うと、一気に不安が込み上げてきた。
『 戻れば、失わない 』
また、その声が聞こえる。
その言葉が、俺の耳の奥で反響した。
─────来た道を戻れば、失わない、のか?
気づけば、そんなことを思っていて。
振り返ってしまいそうだった。
けど、不意に見えた灯台の影。
影は後ろには伸びていなかった。
だから、何故か後ろを向いてはいけない気がしていた。
俺は後ろに振り返らないまま、前へと進む足を踏み出した。
レンガ造りの灯台。
雪のようなレンガとは相反して、その扉は真闇に呑まれたような、そんな色をしていた。
そのまま見つめていれば、その闇の中に取り込まれてしまいそうだった。
「 …開けるよ 」
「 おう 」
キィ
扉の開く音と共に、その向こうに隠れていた螺旋階段が露になった。
足先が触れるだけで、歩いた音が上まで響いていく。
カツ コツ
階段を上る。
狭くて、落ちてしまいそうで。
だから一段一段、丁寧に上った。
上へ上がっているのに、景色は変わらない。
けど、たしかに前へ進んでいる。
そんな気がしていた。




