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"名のない英雄"  作者: 終夜 / Yosugara
【 光彩 】
45/49

第45話

 


 ヒュー



 と、風が吹いた。


 その瞬間、頭の中にスっと入ってきた言葉。


「 世界を選んだ者が前を向く時、空は涙を返すだろう… 」


 無意識のうちに唇から零れ落ちていた。


 俺が言った言葉じゃない。


 けど、たしかに俺が口にした言葉だった。


「 ?空が涙を返すって、雨のことかな? 」


「 さぁ、俺には分からないな 」


「 え、碧が言ったのに? 」


 変な碧、なんて言って小さく笑う光輝。


 俺もつられて笑ってしまう。


 ---こんな時間が、俺は好きだ。








 橋を渡った先は、霧に覆われていた。


 遠くは何も見えなくて、光輝の背中を追うので精一杯だった。


 けど、俺を導くように輝いた光の粒子。


 霧に浮かぶ蛍のように淡く、優しい光。


 俺は重力に引かれるように、その光に歩み寄っていた。


 星みたいだな、なんて思ったりする。


 “触れてみたい”

 ---きっと、心のどこかでそう思っていたんだ。


 気づかないうちに、俺はその光の粒子に手を伸ばしていた。


 瞬間、いつかの俺の声が聞こえてくる。



『 今度海行こうぜ 』


『 水鉄砲で勝負しよう。負けたら、かき氷奢りな 』


『 これが水平線ってやつか 』


『 また、ここ()に来ような 』



 そんな声。


 懐かしくて、楽しかった海での思い出。


 光輝と過ごした海での思い出。


 その声だけで、その日の光景が目に浮かぶ。


「 … 」


 ─────不安になった。


 俺は海を取り戻せるのか、と。


 海での思い出、いや“光輝と過ごした思い出”が消えるのは嫌だった。


「 なぁ、光輝。俺たち、本当に海を取り戻せるのか? 」


 そんな台詞を吐いていた。


 それに気づいて、慌てて口を塞ぐ。


 けど、光輝にはしっかりと俺の言葉が聞こえていたみたいだった。


「 …それでも、僕は進むよ 」


 光輝は振り返らなかった。


 前を向いたまま一言、そう言った。


 その声には、光景の覚悟が宿っている―――そう、思ったんだ。


 俺は静かに、光の粒子から手を離す。


 粒子は霧に溶けて、春の月みたいにぼんやりと煌めいていた。





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