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"名のない英雄"  作者: 終夜 / Yosugara
【 光彩 】
44/49

第44話

 

「 …あっちに、灯台がある気がする 」


 なんでそう思ったのかは分からなかった。


 けど、気づいた時には、その言葉を口にしていた。


 灯台のあるところに、海はある。


 確証も、理由もない。


 ただ、本能で感じた“灯台”。


「 碧がそう思ったなら、きっと向こうに灯台があるんだろうね 」


 光輝のその言葉が、俺の耳の奥で反響していた。


「 行くか 」


「 うん 」


 そう言って、一歩踏み出す。


 その一歩はなぜか重くて、けど軽かった。





 灯台の影を追っていた。


 その途中で、一匹のうさぎを見つけた。


 雪のように白くて、ふわふわしている。


 そんな可愛らしいうさぎ。


 ぴょんぴょんと飛び跳ねていく。


 その様子が愛くるしくて、視線を奪われていた。



 ―――その時、不意に見えた光る花。


 光る花は白いうさぎの後ろにも連なっていた。


 けど、ふと白うさぎが後ろを振り返った瞬間---世界が息を止めた。


 その一瞬だけ風が止んで、自然の音も何も聞こえなかった。


 それだけじゃない。


 そこにあったはずの花が、もう消えていた。


「 っは 」


 まともな言葉も出なかった。


 けど、俺の体は自然と後ろを向いた。


 ---俺の後ろには花が咲いているのか


 それを、確かめたかった。


「 …咲いて、ない 」


 俺の歩いてきた道には、花がなかった。


 けれど、隣を歩いてきた光輝の後ろには、延々と花が連なっていた。


 終わりが見えないほど、長く、真っ直ぐ。


「 どうかしたの? 」


「 いや、なんでもない 」


 不思議そうに俺を見る光輝に、そう返した。






「 !! 谷だ 」


 しばらくして見えてきた谷。


 下に見える川は青だけど、青じゃなかった。


 木々を水面に映して、緑に染まっていた。


 時々、魚が跳ねて小さく波紋が広がる。


 そんな景色を眺めて、心のどこかに染み込んだ。


「 この橋を渡るのかな 」


「 たぶんな。綱渡りをする気分だ 」


 珍しくグイグイと前へ進んでいく光輝。


 けど、俺が綱渡りと言った瞬間、足がピタッと止まる。


「 はは、冗談だよ 」


「 だ、だよね! 」


 あからさまに怖がるようになった光輝が、なんだかおかしくて。


 けど、微笑ましくもあって。


 自然と頬が緩んだ。


 俺も光輝に続いて橋を渡る。


 その時、風に乗って誰かの声が聞こえた。



『 前は、ここに海があったのに 』


『 昔はよかった 』


『 昨日に戻れたら 』



 そんな声が聞こえた。


 ―――海を求め、探す声。


 気づけば、俺は歩き進める足を止めていた。


 たしかに、昨日までは海があった。


 昨日に戻れたら、俺たちがここで海を探す必要なんてないのかもしれない。


 そう思った。




 ―――その時だった。


 俺の耳元で聞き馴染んだ声が響いた。


「 ねぇ、碧。海が戻ったら、またふたりで海に行こうよ 」


 ---風に運ばれてきた声じゃない。


 俺のすぐ隣で聞こえた光輝の声。


「 …あぁ、そうだな 」


 なんて返して、俺は光輝のほうを振り返った。


 ─────光輝は“前”を見ている。










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