第41話
第2部-光の行方-
"名のない英雄"―――それでも、僕は前を向いた
どこまでも続いていく水平線。
海があることの証のように建つ灯台。
星屑の煌めく海岸線。
気づけば俺は、そんな海の砂浜に立っていた。
けど、潮の匂いも、風に吹かれている感覚も---海にいるはずなのに、それらを感じられなかった。
だから、これが夢だということはすぐにわかった。
何も考えない時間。
ぼーっとしていれば、あっという間に時間が過ぎていく。
そんな過ごし方は嫌いじゃない。
「 碧! 」
不意に名前を呼ばれて振り返った。
俺のすぐ隣で、目を細めて笑う光輝。
これが夢だということは、頭の中から抜け落ちていた。
俺は言葉を返そうと、咄嗟に口を開く。
「 どうし_んだ。____ 」
けど、発したはずの言葉が、声が、俺の耳には届かなかった。
届く前に、空の青さに溶けていた。
「 ん…、ゅめか 」
目を擦りながら体を起こす。
大きな欠伸をして、けれども寝ないように気を保つ。
海にいた夢。
自然と、去年の夏を思い出す。
光輝との水鉄砲バトルや、一緒に食べたかき氷。
泳いで競走もして---あれ、結局どっちが勝ったんだっけ。
なんて、考え始めたらきりがない。
ふと時計を見てみれば、長針は数字の六を指していた。
俺にしては早起きだな、なんて思ったりする。
ガチャ
「 ぉはよ 」
「 あら、碧じゃない。おはよう 」
小さな声で母さんに挨拶をする。
すると、少し遠くから母さんの声が返ってきた。
台所から顔を出して、俺のほうを振り返っている。
流れるようにそばのソファに腰掛けて、俺はニュースを見た。
普段はあまりニュースを見ない。
そもそもテレビをあまり見ない。
けど、今日だけは、何故だかテレビを見たい気分だった。
ぽけーっとしながら、無心で画面を眺める。
気づけば俺は寝落ちしていて、次に目を覚ましたのは大きな音が聞こえてきてからだった。
『 速報です。世界から“海”が消えたとの情報が入りました。世界中で混乱を招いて──── 』
「 は 」
一気に眠気が覚める。
“海が消えた”
テレビのアナウンサーが口にした一言。
その一言に、インパクトがありすぎだった。
思考が追いつかない。
次々とテレビに映される映像が、より俺の思考を混乱させる。
海水が干上がって砂浜だけの映像。
海があるはずの場所に、海がない。
それを見ていると、頭がパンクしてしまいそうだ。
そう思い悩む。
その時、誰かから俺のスマホに電話がかかってきた。
プルルルル プルルルル ピッ
「 もしもし 」
一旦、海のことは忘れて平静を装う。
「 もしもし、光輝だよ。突然だけど、今から海に行ってみない? 」
「 ん? 」
親友兼、幼馴染の光輝。
光輝の話が突然飛んで、一瞬思考が止まった。
「 あぁ、海か。…急にどうしたんだ? 」
普段そんなことを言わない光輝だから、思わず聞き返してしまう。
「 去年、また海に行こうって約束してたの思い出したから。ダメかな? 」
“去年の約束”
────自然と、あの日の情景が目に浮かんだ。
陽の光に照らされて、海面に星屑が散らばる。
頬に触れた冷たい海風。
懐かしい潮の匂い。
耳に残る静かな波の音。
光輝と過ごした海での思い出が蘇ってくる。
「 来年も一緒にここに来ようね 」
そう言って微笑む光輝。
その瞳は、真っ直ぐと俺をとらえていた。
「 …いいじゃん。行こうよ、海 」
「 !! うん 」
「 じゃ、海のそばの灯台に集合な 」
「 りょーかい 」
電話を切る。
電話越しの声に、光輝の笑顔が目に見えた。
俺もつられて笑ってしまう。
「 うし、行くか 」
使い古した手提げ鞄を片手に、俺は家を出た。




