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"名のない英雄"  作者: 終夜 / Yosugara
【 光彩 】
41/49

第41話




第2部-光の行方-


"名のない英雄"―――それでも、僕は前を向いた





 





 どこまでも続いていく水平線。


 海があることの証のように建つ灯台。


 星屑の煌めく海岸線。


 気づけば俺は、そんな海の砂浜に立っていた。


 けど、潮の匂いも、風に吹かれている感覚も---海にいるはずなのに、それらを感じられなかった。


 だから、これが夢だということはすぐにわかった。


 何も考えない時間。


 ぼーっとしていれば、あっという間に時間が過ぎていく。


 そんな過ごし方は嫌いじゃない。


「 碧! 」


 不意に名前を呼ばれて振り返った。


 俺のすぐ隣で、目を細めて笑う光輝。


 これが夢だということは、頭の中から抜け落ちていた。


 俺は言葉を返そうと、咄嗟に口を開く。


「 どうし_んだ。____ 」


 けど、発したはずの言葉が、声が、俺の耳には届かなかった。


 届く前に、空の青さに溶けていた。











「 ん…、ゅめか 」


 目を擦りながら体を起こす。


 大きな欠伸をして、けれども寝ないように気を保つ。


 海にいた夢。


 自然と、去年の夏を思い出す。


 光輝との水鉄砲バトルや、一緒に食べたかき氷。


 泳いで競走もして---あれ、結局どっちが勝ったんだっけ。


 なんて、考え始めたらきりがない。


 ふと時計を見てみれば、長針は数字の六を指していた。


 俺にしては早起きだな、なんて思ったりする。



 ガチャ



「 ぉはよ 」


「 あら、碧じゃない。おはよう 」


 小さな声で母さんに挨拶をする。


 すると、少し遠くから母さんの声が返ってきた。


 台所から顔を出して、俺のほうを振り返っている。


 流れるようにそばのソファに腰掛けて、俺はニュースを見た。


 普段はあまりニュースを見ない。


 そもそもテレビをあまり見ない。


 けど、今日だけは、何故だかテレビを見たい気分だった。


 ぽけーっとしながら、無心で画面を眺める。


 気づけば俺は寝落ちしていて、次に目を覚ましたのは大きな音が聞こえてきてからだった。


『 速報です。世界から“海”が消えたとの情報が入りました。世界中で混乱を招いて──── 』


「 は 」


 一気に眠気が覚める。



 “海が消えた”



 テレビのアナウンサーが口にした一言。


 その一言に、インパクトがありすぎだった。


 思考が追いつかない。


 次々とテレビに映される映像が、より俺の思考を混乱させる。


 海水が干上がって砂浜だけの映像。


 海があるはずの場所に、海がない。


 それを見ていると、頭がパンクしてしまいそうだ。


 そう思い悩む。


 その時、誰かから俺のスマホに電話がかかってきた。



 プルルルル プルルルル ピッ



「 もしもし 」


 一旦、海のことは忘れて平静を装う。


「 もしもし、光輝だよ。突然だけど、今から海に行ってみない? 」


「 ん? 」


 親友兼、幼馴染の光輝。


 光輝の話が突然飛んで、一瞬思考が止まった。


「 あぁ、海か。…急にどうしたんだ? 」


 普段そんなことを言わない光輝だから、思わず聞き返してしまう。


「 去年、また海に行こうって約束してたの思い出したから。ダメかな? 」


 “去年の約束”

 ────自然と、あの日の情景が目に浮かんだ。


 陽の光に照らされて、海面に星屑が散らばる。


 頬に触れた冷たい海風。


 懐かしい潮の匂い。


 耳に残る静かな波の音。


 光輝と過ごした海での思い出が蘇ってくる。



「 来年も一緒にここ()に来ようね 」



 そう言って微笑む光輝。


 その瞳は、真っ直ぐと俺をとらえていた。


「 …いいじゃん。行こうよ、海 」


「 !! うん 」


「 じゃ、海のそばの灯台に集合な 」


「 りょーかい 」


 電話を切る。


 電話越しの声に、光輝の笑顔が目に見えた。


 俺もつられて笑ってしまう。


「 うし、行くか 」


 使い古した手提げ鞄を片手に、俺は家を出た。








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