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傾国の鉄宰〜ロストジェネレーション、ふざけた名前つけやがって。奪われ続けた俺たちが異世界で全てを取り戻す〜  作者: 高梨京司
第二章 サクヤの街

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傾国の鉄宰 第三十九話 【街歩:偏り】 〜

 ケインは護衛のシモーヌとオーケンに『黎明の盾』の斥候、リュカと守衛士のグラントを加えた五名で街歩きをしていた。


 装飾品の店や魔道具の店、武器屋などを見て真新しい品々を前に話は盛り上がる。『黎明の盾』のリーダー、ガルドと魔法士のミレイユ、弓士のエルはケインたちから少し距離を空けて見守っている。散策は順調そのもので、何の問題もないように思えた。だが、シモーヌは言いようのない違和感を覚えていた。そんな折のことだった。


「ねぇシモーヌ。このあたりは活気があるのはいいけど……なんだか、選別されたみたいに、いる人が偏ってない?」


「偏りですか?」


 ケインの指摘を受けて、シモーヌは改めて周りを見渡す。


◇――大通りの繁華街――◇


 行き交うのは、艶やかな絹を纏った老人や中高年の者たちだ。彼らは皆、満面の笑みで、高価な魔導具や宝石を品定めしている。ベテラン店員とおぼしき女性が、恭しく対応している。

 旅装束の人間も多く、通りは賑わっている。その中を、街の人間とおぼしき若い男性が忙しく走り回っている。同じ通りには、一人歩きも覚束ない幼い子供たちの姿もわずかに見られた。小綺麗な服装をした子供たちは、祖父母らしき人々に寄り添われ皆が笑顔だ。その脇では、店の外壁の工事だろう、職人が擦り切れた皺だらけの手で手際よく石を切り欠いている。一見すれば、賑わいのある普遍的な街風景だ。ケインが指摘した『偏り』は見つけられない。見つけられないが違和感が確かにある。


◇――中通り、商店街――◇


 恰幅の良い老人や年配者が多い。幼い子供たちの姿もちらほらと見える。祖父母らしき人に抱き上げられて雑貨などを眺めており、皆楽しそうだ。

 店を構える商人は老人の比率が高いが活気に満ち溢れており皆が微笑みを絶やさない。

 露天商の中年の男性はしゃがれた声を張り上げ、あどけなさを残した洗濯女は洗い物を汗だくで運んでいる。大通り沿いは商人らしき旅装束が多かったが、この辺りは冒険者らしき旅装束の人間をよく見かける。年齢は様々で、歳の頃は十五、六歳の、見るからに他所から来たばかりといった風体の駆け出しの冒険者も見掛けるが、その横にはベテラン冒険者の姿もあり、駆け出しの冒険者だけで越えられるほど辺境が甘くないことを物語っている。


 シモーヌにも、姿なき違和感の影が少しずつ見え始めていた。

(どういうことなの? 活気もあるし、働く人もいる。なのに、この妙な空気は……)

 影のように朧げだった違和感が形を成してくると、今度は強い疑問が頭をもたげる。


 そんなシモーヌの戸惑いを知ってか知らずか、ケインはマイペースに通りを進んでいく。先を歩いていたガルドとミレイユは左右に分かれ、露店周辺をそれとなく警戒している。弓士のエルは、いつの間にか人混みに消えていた。


「ねぇ、オーケンあの店の串焼きを頼みたいんだけど、大丈夫そうかな?」


「そうですね。……大丈夫でしょう。地元の人間も買っていますし、店も片付いて清潔そうです」


 しばらく露店を眺めたオーケンから合格が出た瞬間、ケインは足を踏み出した。これが本日二度目の買い食いになるが、美味しい匂いには抗えない。若い胃袋に素直に従うケイン。オーケンは特に気にするでもなく、自然体で後をついて行く。シモーヌは色々気になることはあるが黙って二人に付き従う。

 少し離れた場所で雑貨を物色する振りをしていたリーダーのガルドは若い依頼主の食欲に笑いを噛み殺しながらケインたちの隣の露店に移動する。


「大将。オークの串焼きを三本ください」


「はい。辛い串と甘い串がございますが、どちらになさいますか?」


「え?味が選べるの?」


その言葉に、串を焼く中年男性の店主が初めてケインを見つめた。


「旅装束。……なんだ坊(・)主(・)、うちの串は初めてか?」


 露店の店主が口にするには不釣り合いな丁寧な口調が、ケインの服装を見た途端、砕けたものに変わる。どうやらケインが纏う上質な外套の隙間から、中に着込んだ旅装が見えたようだ。旅人だと判断しての対応に不快感はない、この口調と対応が地なのだろう。


「はい。旅の途中に立ち寄ったのですが、味が選べる屋台には今まで出会ったことがなかったので、驚いてしまいました。この街では味が選べるのは普通なんですか?」


「いや。そうでもないぞ。 これは俺が始めたんだ。どうにかして売り上げを上げてぇからな」


「へぇ~。努力家なんですね」


 ケインの言葉に、店主はゴブリンが生活魔法をくらったような、キョトンとした顔をした。


「そんな大したもんじゃねぇよ。売り上げを上げねぇと、この屋台の賃料も、街への諸場代も払えねぇからな。『下町(スラム)落ち』だけは嫌だからな」


「下町落ち?あっ、甘口の串を三本下さい」


「毎度あり。この街に住むには魔物や魔獣から街を守る『防魔結界』のクソ高い結界維持税を払う義務があるんだが、それが払えなくなった奴らは、防壁沿いの下町に住むしかなくなるんだよ。通常は結界の効果で魔獣や魔物は街に近づきはしないんだが、たまに高位の魔物や、高位の魔物に追い立てられた魔獣やらが街壁に突っ込んでくるんだよ」


 串が焼き上がるのを眺めながら、店主の話に耳を傾けるケイン。


「そうなんですね。僕は昨日までセブルスの街に居たんですが、随分状況が違うんですね」


「セブルスの街とウチの街じゃ、全くの別ものだよ。セブルス領(あっち)はサクヤの街(ウチ)ほど魔獣は出ねぇし、強力な魔物が出るのも稀だ。『防魔結界』の出力は小さくていいし、消耗も軽微だろう。だから街の収支で結界の維持もできるらしくて税金も安い。それにセブルスの領内には農村も数箇所ある。農産物が安定して収穫でき、働き口もあるからな。サクヤほど皆が切迫していなかっただろう?」


 店主が慣れた手つきでオークの串焼きに甘口のタレを絡めていく。その香りが辺りに漂い、ケインの食欲を刺激した。


「一日滞在しただけの僕にはわかりません。分かりませんけど、セブルスの街の方が地味でのんびりした印象がありますね。こちらの街の方が店も人も多くて賑わっているようにも見えますが……。すいません串焼きの辛口も三本お願いできますか」


「三本追加ね、毎度あり。この街は物を動かしてお金を生み出しているからな。 動き続けるしかないんだよ。繁華街の席はもう満席だからな、俺たち若造は朝から晩まで這いつくばって動かねぇと、あっという間に『下町送り』になっちまう。……下町はサクヤの街の外壁沿いに出来上がった最後の防衛線だ。魔物や魔獣に外壁を越えられたら下町の建物が防壁代わりになる。下町の住人が自衛している間に防衛隊が援軍に駆けつける手はずらしいが、……その間にどれほどの住民が魔物や魔獣たちの餌になるのやら。……坊主みたいな若い子に、つまんない話をして悪かったな」


少し気まずげに視線を落とする店主。


「そんなことありません。大将はお話上手で思わず聞き入ってしまいましたよ」


「そうかい……。まぁ、この街じゃ仕事の取り合いなんだよ。ほかの街よりも数段きびしいんだ。よしできた。オークの串焼き甘口三本と辛口三本。合わせて銀貨四枚と銅貨八……五枚でいいぞ」


「ありがとうございます。また食べに来ますね」


 店主のおまけに満面の笑みでケインは答える。その笑顔を眩しげに見て、店主も笑顔になる。


「あぁ、頼むぜ」


 串焼きの露店を離れ、オーケンと二人で新しい串焼きに食らいつきながらケインが頷く。


「さっき食べた串焼きより、こっちのオークの串焼きの方が美味しいね。甘いタレも辛いタレもほどよいスパイスが効いているし、あの露店は贔屓(ひいき)にしよう」


 辺りに聞こえるほどの声でケインは能天気に話を進める。露店の店主に万が一にも迷惑がかからない為の気遣いであったが、贔屓にするというのは本心だった。それほどに串焼きを気に入ったケイン。


(いいね。行きつけの店を持つなんて、ケイン君はませてるなぁ)

〈串焼き屋の常連となれば、ませていると言うよりも老成していると言うべきだな〉


 串焼き屋から離れると、寡黙に警護をこなしながら街を観察していたシモーヌがケインに近付く。


「ケイン様。……再三申し上げますが、歩きながらの買い食いはご令息としての品位を損ないます。……ですが、それ以上に」


 シモーヌはハンカチをケインの口元に当てながら、声のトーンを一段落とした。その後、もう一度周囲を見渡し確信を口にした。


「……見当たりませんね。『食い詰めた幼子』や『裕福な若者』が、それどころか地元の人間でケイン様と同世代の者を一人も見掛けません」


その言葉は周辺を警戒するために、通信の魔道具で話を共有している黎明の盾のメンバーにもハッキリと聞こえていた。


 ケインたちから少し離れて護衛をしていたガルドとミレイユは顔を見合わせ、改めて辺りを窺った。   

 ケインたちの後方で周辺を索敵していたリュカが、周囲に悟られないよう低く唸るように魔道具越しに伝える。


「ええ。さっきから観察していやすが、この街は子供が少な過ぎやす。たまにいたと思えば、皆が裕福そうな祖父母に連れられた乳飲み子ばかり。それ以外で買い物をしている若いやつらは服装や行動、会話からすると皆、外から来た人間のようです。地元の人間とおぼしき中年層は販売、接客、職人…あらゆるところで働いているのに、若いやつらは全員街を走り回る『使いっ走り』だけだ。どうにも腑に落ちやせん」


「この時間なら、皆働いているから子供は家で留守番でもしているのではないか?若者たちは、見習いも多いだろうから走り回るのもおかしくはないだろう」


 リュカの後方で一行全てを見渡すように殿(しんがり)を務めているグラントが一応反論を口にするが、その言葉に勢いはない。そんなグラントの言葉を遮るように、リュカが声を潜めて応じた。


「それにしても、若い世代が一人残らず全員働いているのは異常だろうよ。留守番するにしても、ケイン様と同年代の子供は影も形もありゃしねぇ。街を優雅に行き交うのは外部の人間か、年寄りか、一、二歳の子供だ。そしてなにより気味が悪いのは、この街の若ぇ奴らが皆、爺さん婆さんに怯えているところだ。なんなんだ、この街は……」


 リュカの報告を聞いて、これまでケインやリュカ達から少し距離をとり、他の店などを覗いたりしていたガルドの声が魔道具から伝わる。


「そこの小物屋で小耳に挟んだんですが、この街の老人たち、ほとんどが大店の店主たちだそうですが―――そいつ等と元副代官とが組んで十年以上前から、増えすぎた人口の調整が行われているらしいんです」


「人口の調整ですか?どうやって」


 ガルドのその言葉が気になって、思わず魔道具越しに問い掛けるケイン。


「それ以上は、口が重くなって聞けませんでした」


〈まぁ、官民の線引きが曖昧で、人の入れ替わりが少なく、閉鎖的な環境にろくなものはないだろう〉

(そうだね。利益優先――自分たちの目先の権利を最優先した、下らない仕組みだろうね)

『……』


 二人の言葉がケインの耳に届いた瞬間、喉を通りかけたオーク肉が、ひどく血生臭いものに変わったような気がした。


 串焼き屋の店主が零した本音、腕利きの斥候リュカが掴んだ違和感、そして『黎明の盾』のリーダー、ガルドが耳にした住民たちの声――。そこに生きる人々の生々しい言葉を知った上での街歩きは、隠された問題を鮮明に描き出していた。


(……あぁ、そういうことか。既視感の正体はこれだね)


 ケインの脳裏――裕翔の記憶とサクヤの街の現状が世界の境界を越えて重なる。


(この息苦しさ、この歪み……前世の社会を苛んでいた、あの『最悪の構造』と全く同じなんだ……)


 ケインは残りの串焼きを見つめたまま、通信の魔道具へと意識を向けた。その表情からはいつもの年相応な少年らしさが消え失せ、冷徹な大人のそれへと変わっていく。


「シモーヌ、オーケン。それに黎明の盾の皆さんも、ちょっといいですか」


 魔道具を使っている『黎明の盾』のメンバーは、ケインの表情は見ることは出来ない。だが、いつもより低く張り詰めたケインの声に皆が意識を向けた。


「ケイン様、何かお気づきになられたのですか?」


 シモーヌが周囲をそれとなく警戒しながら、声のトーンを落として問いかける。


「先ほど私が口にした『裕福な若者がいない』という違和感……。そして、ガルド様が仰った『人口調整』という不穏な言葉。ケイン様の中では、もうそのパズルが繋がったのですね?」


「うん。帝国の現状は領都(ハイデルベルグ)にいる頃から講義を受けていたし、事前に父上から得ていたサクヤの街の情報もあった。それに加えてシモーヌの指摘と、リュカさんの観察、そしてガルドさんの情報。それらを組み合わせて分かったよ」


ケインは静かに歩みを進めながら言葉を紡ぐ。


「この街はね、かつては北部戦線の前線基地として戦火に見舞われ、焼け野原にも近しいところから驚異的なスピードで復興を果たした。二つの大陸を巻き込んだ戦争の傷跡は深く広く、当時の隣国は、まだまだ復興の途中だった。そんな中、サクヤの街は共和国との貿易で、誰もが笑いが止まらないほどの『狂乱の好景気』に沸いていたんだ。何もしなくても物が売れ、富が溢れる……まさに黄金期だね。復興期に財をなした者たちは金は言うに及ばず、店、 土地、果ては既得権益までも手に入れた。――それがこの街の老人たちです」


「そりゃあ、絹の服で着飾ったお大尽(だいじん)にもなれやすね」


 リュカが首を振りながら、ため息をついた。ケインはそれに大きく頷く。


「だけど、海外の復興が進むにつれ情勢は一変した。物は今までのようには売れず、食材も廉価で入ることがなくなった。その問題に直面した時の街の者たちは最悪の選択をしたんだ」


「最悪の選択……ですか?景気が悪くなったのであれば、街全体で痛みを分かち合い、次の世代のために街を、領地を作り変えるのが筋ではないのですか?」


ガルドの声が、困惑を孕んで返ってくる。


「そうなんです。普通に考えるならガルドさんの意見が正しい。でも彼らはそれを拒んだ。復興期を生きた老人たちは全盛期に手に入れた権益や資産、贅沢な暮らしを絶対に手放したくなかった。『狂乱の好景気』に沸いた壮年期の者たちは、通常ならあり得ない成功体験を忘れられず、それにしがみついた。その結果が今も帝国全土に蔓延(はびこ)る停滞期へと繫がった。彼らの失敗のツケを今も街は、人々は背負わされ続けている」


「……それが、さっきの店主が言っていた『這いつくばって働くしかない』という言葉に繋がるのですね」


オーケンが、ケインの斜め後ろを自然な動作でついていきながら冷静に分析を入れる。


「しかしケイン様、富の独占が、なぜ特定の子供たちの不在という『人口の調整』にまで発展するのでしょう。いくら生活が苦しくとも、世代の断絶がここまで極端に現れるものでしょうか」


「サクヤ復興の立役者だった老人たちが自らの既得権益を守ることに固執したように、『狂乱の好景気』の中核を担った人間――今現在、初老から壮年期の人たちは、劇的な変化を恐れて、店や職場、役職といったお金を産む場所を守ることに躍起になっています」


 ケインは自ら口にしながら――裕翔として見てきた、あの『失われた数十年』の苦い実感が湧き出してきた。


「老人たちが店も土地も独占し、下の世代には『自分たちの若い頃はもっと大変だった』と言い放ちながら、高い家賃と結界維持税だけを搾り取る。逆らったり、使えないと判断されれば仕事を干され、待つのは命の保証がない『下町送り』だ。そりゃあ若者たちも、生殺与奪の権を握る老人たちに怯え、従うしかありません。結果、家族持ちの壮年世代は生活を維持するだけで精一杯になり、自分たちの職種や役割にしがみつく。そうして何とかこの不況を乗り切ってきましたが、景気の復調の兆しはなく、好景気だった頃に生まれた子供たちが成長するにつれて、どんどん生活を圧迫し始めた。これが第一の歪みです」


「へえ、そこまではあっしにも合点がいきやす」


 人混みから周辺を索敵していた人生経験豊富なリュカが、低い声で会話に割り込んできた。


「でも僕の予測が当たっていたなら、本当に恐ろしいのは、これからなんです。……生活を圧迫し始めた子供たちを、この街がどう扱っているのか……。これほど極端に僕らの同世代が消えている理由は、何でしょうか」


「それが、『人口の調整』なのね」


 魔道具から聞こえてくるミレイユの声は、いつも何処となく状況を楽しんでいる彼女にしては珍しく硬い。


「僕の予想が外れていれば良いんですが……」


 周りを警戒するオーケンが呟く。


「ケイン様、そのあたりで…。――魔道具であまり話し込むべきではありません。勘の良い者なら、そろそろ違和感を覚えるはずです」


 オーケンの言葉に小さく頷き、シモーヌが判断を促す。


「ケイン様。どうされますか?」


 裕翔が見てきた絶望が、この先に待っているのか?そうだとして自分に何が出来るだろうか。……何も出来ないかも知れない。……いや何か出来ることはあるはずだ。それならば。


「行こう。サクヤの街(この街)のスラム(闇)へ」




▲△▲△▲△▲▲△▲△▲△▲▲△▲△▲


◇ある露店主Side◇


 中町には似合わない品の良い少年が、人並みに消えるのを何気なく見送る。

少なくとも周りの客には、そう見えているはずだ。

 長年串焼きを焼き続けたおかげで、手に当たる熱と音と匂いでオーク肉の焼け具合がわかる。今は、それがとても有難かった。 

 俺の拙(つたな)い話、愚痴を嫌がるでもなく耳を傾ける真剣な目に、つい街の内情を話し過ぎてしまった。気持ちの良い話ではない。それでも最近落ち込みがちだった 気持ちが少し前向きになれた気がした。

 少年の背中と息子の背中が重なる。歳頃は同じぐらいか、背丈は同じぐらいに育っただろうか。もう一年近く会えていない息子を思う。生きてはいるそうだ……ならば俺の出来ることは、この串を売って、この秘伝のタレを発注する事だけだ。


「いらっしゃい、いらっしゃい。サクヤ名物オークの串焼きだよ。秘伝の甘口ダレ、垂涎の辛口ダレ、好きな方を選んでくんな。いらっしゃい、いらっしゃい 。サクヤ名物のオークの串焼きいらんかね」


 気分の落ち込みとともにやめていた、客寄せの声を上げる。旅行客が集まり始めた。また少し頑張れそうだ。今度 少年が来たら串を一本奢ってやろう。あの少年には、また会える。そんな気がした。


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