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傾国の鉄宰〜ロストジェネレーション、ふざけた名前つけやがって。奪われ続けた俺たちが異世界で全てを取り戻す〜  作者: 高梨京司
辺境への赴任

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傾国の鉄宰 第二十八話 【オーケンの後継者:奮戦】 〜ロストジェネレーションって何だ!

閑話――オーケン放逐から四ヶ月――


 オーケン殿の放逐から四ヶ月、俺は街に馴染もうとしてはいるが、まだまだ街の人たちの目は冷ややかだ。

 

 それでも少しずつではあるが変化は現れていた。「独楽遊び」を通してザクトルやビッケをはじめとした多くの小さな友達ができた。それは、ありがたいんだが、日課である夕方の走り込みの途中でも、お構いなしに子供たちから声が掛かるため、走り込みを終えるのが日没を大きく過ぎることがたまにある。今日は正に、そんな日だった。

 

 ようやく走り込みを終える。荒い呼吸を整え、俺は重い体を引きずるようにして『居酒屋・宿り木』の暖簾をくぐった。

かつての俺なら、こんな薄汚れた店など見向きもしなかっただろう。だが、今の俺にはここが必要だった。


「おやじさん、『栄養のある飯』を頼みます。……あと、水をください」


 カウンターに座ると、熊のような大男の店主が鼻を鳴らした。


「……あぁ、副隊長の甥っ子か。まだ夕方の走り込みを続けているのか?」


「もちろんです。これは俺が変わるために決めたことですからね」


山のような大男の眉間の皺が薄くなる。


「ふん。少しはマシな面構えになったじゃねえか」


 出されたのは、根菜がたっぷり入った一角兎(いっかくうさぎ)の煮込みと、固いが噛むほどに味が出る木ノ実入りの黒パンだった。彩りは少なく、ほぼ茶色の食事だが、最近は躊躇うことなく口にを付けるようになった。すると体に染み渡るような滋味が広がるような気持ちになる。


「旨い」


オーケン殿は、毎日これを食べてあの「覇気」を養っていたのだろうか。


「おやじさん。あなたから見て、オーケン殿はどういう男でした?」


 店を訪れるようになって三ヶ月。初めてオーケン殿のことを口にした俺の問いに、店主は包丁を止めて遠い目をした。


「……あいつはな、誰も見ていないところで街の『ひび割れ』を埋めて回るような男だったよ。酔っ払いの喧嘩を止め、道に迷ったガキの親を探し、夜回りでは誰よりも早く異変に気づく。騎士様にとっちゃ『雑用』に見えただろうが、この街の連中にとっちゃ、あいつこそが本当に『街の盾』だったんだ」


 店主が顎で店の隅を指す。そこには、以前俺が軽蔑した「色褪せた服」の男たちが、明日への活力を蓄えるように笑い合っていた。店主が口を開きかけた、その時。急に表が騒がしくなり、見覚えのない男が駆け込んでくる。


「おい! 西門の先で魔物が出たぞ! 数が多い、防衛隊を呼べ!」


 俺は反射的に立ち上がった。腰の剣が重く感じる。かつての俺なら、手柄を求めてしゃにむに飛び出しただろう。だが今は違う。先ずは状況確認を優先する。


「おやじさん、飯の代金はここに置きます。あと防衛隊の詰所へ連絡を頼めますか?」


「分かった。おい、甥っ子、…ボナイと言ったか。死ぬんじゃねえぞ。オーケンに顔向けできねえからな」


「はい。ありがとうございます」


 店を出ると、冷たい夜風が頬を叩く。

西門へ向かう道すがら、俺はかつてオーケン殿に言われた言葉を反芻していた。


『ボナイ様。あなたの手は他人を守るためにあるのです』


 今ならわかる。あの日、あの部屋で密偵を死んだのは、俺が不運だった訳ではない。「誰かを守る」という覚悟が欠けていた、その心の隙が招いた必然だったのだ。


 西門に到着すると、そこには緊張した門兵たちの他に、数人の男たちがいた。緊張しきりの門兵とは対照的に、色褪せた服を着た男たちは落ち着いており、どことなくオーケン殿を彷彿とさせる。


「状況はどうですか?」


近くの年長者であろう男に問う。


「…お前か。まぁいい。北西の森から二十体以上の魔物が此方に向かってきているようだ。商隊の警護をしていた冒険者が気付いて、目一杯駆け抜けて振り切ったらしい。今は防衛隊の詰所や冒険者ギルド、人の集まる所へ連絡に走ってるぜ」


 男は顔をしかめながらも、状況を話してくれる。俺を知っているようだ。

まぁ悪い意味で有名人ではあるからな。

さっき店に来た見覚えのない男も冒険者の一人だろう。


「冒険者のランクは?商隊は馬車でしたか?」


「あぁ、商人は馬車で駆け込んできたぜ。護衛の奴らのランクは…門兵!奴らのランクは何級だった?!」


「えっ?あぁランクな、Eランクだ」


「それは、良い知らせですね」


 俺の感想に周りの男たちも頷いた。

この辺で一番厄介な魔物はと兵士や冒険者に問えば、先ず一番に名が挙がるのはフォレストウルフだろう。足が速く、群れで行動を得意とするためだ。

単体での討伐推奨はDランクだが、群れでの行動が確認された時点で討伐推奨はCランクへと引き上げられる。

そんなフォレストウルフが相手ならEランクの冒険者では振り払うことはできないだろう。Eランクの冒険者が逃げおおせる、この辺りで徒党を組む魔物といえば…。


「コボルトか、それともオークか。コボルトだと楽でいいがな。こういう時は嫌な予想の方で準備をするもんだ」


年長者の男が言う通りだと俺も頷く。

ここは定石通りに動くべきだな。


「コボルトもオークも、弓と魔法が有効ですから、街から一定の距離を取れるように、押し出しましょう。俺も参加させてもらいます」


「…ああ。わかった。だが皆が騎士や衛士のように動けるわけじゃねぇ。俺はギクシャだ。お前は…確かボナイだったか?お前と門兵から二人、それに俺たちから三人で前線は支える。他は弓や魔法で援護とする。ここにいる奴らじゃ大した威力はねぇが、多少は楽に動けるはずだ」


「わかりました。ギクシャさんよろしくお願いします」


「よし、すぐに動くぞ。援護隊は櫓の上に。俺たちが外にでたら、残りの奴らで扉を閉めろよ、いいな!ボナイ、お前衛士だろ何か言うことはあるか?」


「俺は……。防衛隊は直ぐに到着すると思いますので、連携して防御主体でお願いします。無理せず、命を大事にして行動して下さい」


「……」

「……」


「当たり前だ。俺たちは兵士でも何でもないんだからな、仲間や家族を守 って、うまい酒が飲める。それでいいんだよ」


「「ぐはははは…」」


ギクシャの野次に周りから笑いが起こる。その笑いは嘲笑とはちがう温かさがあるように思えた。


 俺は門を出て一番右への配置を希望した。皆が配置について直ぐ。暗闇から無数の赤い目がひしめいてやってくる。

セブルスの街の周りには、ところどころに細い木の棒が地面に突き刺さっている。先端に(ホタル)石と呼ばれる鉱石が取り付けられており、仄かに光る石のおかげで、闇夜でも近くを通るモノの背丈が判別できる。近付いてきた影は人のようだが、2メルトを基準に取り付けられた螢石が肩の高さ辺りだ。月灯りに照らされた影は丸々と太っており、巨漢という言葉がぴったりな体躯だ。一、二体なら俺も遠征で相手取ったことはあるが…こんな集団とは初めて戦う。


「ふぅ~。こういう時は嫌な予想が当たるな」


俺は抜刀し、呼吸を深くする。


「やはりオークか!盾持ちと、槍使いニ人一組で対処しろ。俺とボナイで間引くから何としても持ち堪えろ」


 ギクシャが放った声は、驚くほど低く、そして力強かった。そして俺を信じようとしていると感じた。

ギクシャからの信頼は、オーケン殿への信頼に比べたら足元にも及ばないだろう。だが、俺の心は兵士となってから、一番熱くなっていた。


(そうだ俺はもう、自分だけを守るガキじゃない)


 闇の中から次々と押し寄せるオークたちを門兵と男たちが連携して押し留める。

考えなしで直線的に押し寄せてくるオークたちは、他のオークが壁となり身動きが出来なくなる。


「今だ!放て!」


 櫓から声が上がる。途端に矢と火球(ファイヤーボール)が動きを止めた魔物たちに降り注ぐ。どちらも致命傷を与えるには火力不足だったが、混乱させるには充分だ。

 混乱し、渋滞から逃げ出そうと、こちらへ飛び出した魔物に向け、俺は最初の一振りを放った。剣は狙いたがわず、オークの喉笛を掻き切った。


(やれる!)


 四ヶ月前までの、錆びついた俺の腕では、オークに致命傷を与えるコトなど不可能だったろう。


(次だ!)


崩れ落ちるオークを躱し、横のオークを斬りつける。初撃で腕を斬りつけるが、鋼の筋肉に阻まれ、両断には至らない。それでも数合の打ち合いの末、二体目のオークの討伐に成功する。一息つく間もなく、混乱から立ち直った無傷のオークがこちらへ近付いてくる。


「坊主!下がれ!」


櫓からの指示に、反射的に数歩退くと、図ったように援護の矢と火球がとんできた。

その間に、呼吸を整えて、手拭いで剣の血糊を拭く。オークの身体は脂肪が分厚い。その脂が剣の切れ味を奪っていく。斬りつける方が殺傷力は高いが。体力も剣の切れ味も長くは保つまい、俺は突き中心の攻撃を心掛けて対応することにした。


 数分が経ったがオークたちの勢いが弱る気配はない。皆と連携して十五体程度は討伐したはずだ。それで、この圧力はマズイな、数の暴力で抑え込まれる。

あと数分もすれば応援が来るはずだ、何とか持ち堪えなければ…。



「ぐっ」


 すぐ横で聞こえたうめき声に視線を送れば、再三の突進に堪えきれず、盾持ちが押し倒されたのが目に入る。盾持ちを押し倒した勢いをそのままに、槍使いへと襲いかかるオーク。(すんで)のところで、俺の剣がオークの脚に突き刺さる。動きが封じられたオークに槍使いが力を振り絞って留めを刺した。周りの人間が一息ついた次の瞬間、倒れるオークを踏み台にして一際大きなオークが飛ぶように現れた。疲労困憊の槍使いは大きく体勢を崩している。


(駄目だ、間に合わない——!?)


 焦る気持ちとは裏腹に、明瞭な視界で全ての情報が見て取れる。

倒れ伏す盾持ちの男、槍がオークの遺体に突き刺さり、無防備に隙を晒す槍使い。そして、月光を正面に浴びながら、飛びかかってくる巨大なオークの姿は、街の仲間の死を予感させた。


 日課の走り込みからの戦闘で、俺の脚は鉛のように重いはずだった。しかし、仲間の死の予感が胸をよぎった瞬間、何かが熱い奔流となって全身を駆け巡った。


「動け……動けッ!!」


内臓を焼くような熱さ。心臓の鼓動が、鐘の音のように耳元で鳴り響く。

すると不思議なことに体が軽くなった。

否、軽いのではない。日々の過酷な走り込みで鍛え上げられた脚筋が、俺の「守りたい」という意志に全力で応えているのだ。


 確信をもって地面を蹴る。すると大地が砕けるような衝撃と共に、俺の体はこれまでの自分ではありえない加速をみせた。

『ボナイ様。あなたの手は他人を守るためにあるのです』

脳裏に響くオーケン殿の言葉。

俺は直感で、左手を前に突き出した。


「——っらあ!!」


オークの大槌のごとき大きな拳が打ち付けられる直前、俺の左手が槍使いの襟首を掴んで強引に引き倒した。

 槍使いへの攻撃が空振りに終わり、膝を大きく曲げて着地したオーク。その脇腹から胸への斜線上に剣の狙いを定める。

――強く、鋭く――

沈み込んだ姿勢から、脚力で身体を押し上げ、槍使いを掴んだまま腕を引き寄せことで、全身を捻じる。魔鉄独楽のような螺旋を意識して、全体重を乗せた一撃を突き出す。


「いけ……ッ!」


 俺の剣は着地して硬直した、大オークの脇腹——脂肪の薄い隙間を的確に捉えた。

刃先は滑らかに胸元へと入り込む、手応えは、あった。魔石を破壊したのだ。これまでのどの獲物より確実な討伐の手応えに、俺は深く息を吐いたあと、次の敵に備えて 素早く剣を引き抜いた。


「大したものだな、ボナイ」


 その声に驚き振り返ると、オーガのような大男、防衛隊長であるウカジ様が真剣な面持ちで俺を見つめていた。

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