ピンポンダッシュ
ピンポンダッシュをご存じだろうか。ピンポン、つまり、インターホンを鳴らし、住民が出てくる前にトンズラするという悪質なイタズラだ。
Aくんの小学校では、これが流行った。特に格好の標的になったのは、とある老婆の家だった。
今でこそ家のなかから外を確認できるのが当たり前になったが、当時はそんな機能はついていない家が多かった。
標的になった老婆の家も例に漏れず、さらに、表玄関が磨りガラスとなっており、玄関でもたもたと動く様子が伺えるのだ。
それがオモシロイ。
ピンポンダッシュは毎日毎日飽きもせず続けられた。その度に老婆はこりずに玄関までやってきた。
物陰にかくれ、Aくんとその友人たちはげらげらと笑い転げた。悪意などなかった。単純にオモシロイからやっていただけだった。
一ヶ月ほど経ったろうか、Aくん小学校にこんな噂が流れ始めた。
「あのばあさん、死んだってよ」
Aくんに、これまでに感じたことのない衝撃が走った。
放課後、老婆の家に向かうと、そこはしんっっ--としており、人の気配は感じられない。少なくとも、空き家のようだ。
常識的に考えて、老婆の死は寿命だろう。しかし、Aくんには、ピンポンダッシュが老婆の命を蝕んだかのように感じた。
その時がやってきた。
Aくんは中学生になり、休日をのんびり2階の自室で過ごしていた。
ピンポーン。
無視する。
ピンポーン。
思い出す。今日は家族はいないんだった。それでも無視する。
ピンポーン。
淡々としつつも、やむ気配はない。
ピンポーン。
直感で、Aくんの脳裏にかつての自分の「罪」がよぎった。
ピンポーン。
小学校とは校区が一緒だ。ピンポンダッシュという悪風が残っていてもおかしくはない。
ピンポーン。
Aくんは物音をたてないよう、そっと階下におりた。
ピンポーン。
抜き足差し足。強盗のように音に注意を払いながら玄関に向かう。
ピンポーン。
スリッパを履き、ノブに手をかける。
ピンポーン。
2、3発ひっぱたいてやれば、二度とこんなことをしようとは思わないだろう。
ピン----
勢いよくドアを開け、一足飛びで庭を駆け抜け、門を開ける。門のそばにインターホンがあるのだ。
しかし、そこには誰もいない。隠れたか、逃げたか。しかし、わざわざ探す気にはなれない。
家に戻ろうと振り返った時、
ピンポーン。
聞こえた。どこから?
ピンポーン。
家のなかから。
ピンポーン。
つまり、誰かが「今現在」インターホンを鳴らしている。
ピンポーン。
俺の、真横で。
ピンポーン。
姿は、見えない。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピン--------
その後のAくん?さあ?そこまで興味はないから知らないね。




