変わった笑い声の彼女
「『ふひゃひゃ。』そのときになってやっとユキちゃんは笑ったの。え?変な笑い方だって?ユキちゃんはそういう子なのよ、話の腰を折らないで。まったく…話を続けるわよ。でもね、やっとあの地獄のような山小屋から命からがら逃げ出したのに、ユキちちゃんは泣いてたの。そう。笑いながら、泣いてたの。だけど、当然よね。だって、彼女と一緒に山小屋にいたメンバーは全員殺されちゃったんだから。…どれくらい立ち止まってたのかしら、まあ、そんなに長い時間じゃなかったわね。なにせ、あの男が、みんなを家畜のように惨殺したあの男が、例の鉈を持っておってきてるんだからね。ユキちゃんは歩きだしたの。もうすぐ麓に出れる。そうすれば人を呼ぶことができる。ユキちゃんの身体はもうすでにボロボロだったけど、気力を尽くして歩を進めたわ。ざっ…ざっ…ざっ。一歩、また一歩。茂みを掻き分け、掻き分け…。そして開けた場所に出たの。そこは、あの山小屋だった。そう、ユキちゃんと仲間たちが泊まっていた小屋。そして、あの男の狩り場でもある小屋。ユキちゃんの足から力が抜けた。なんで、どうして。『オカエリ』。ユキちゃんの背後から、ねばぁっとした声がしたの。そして、濃厚な血の臭い。ガチガチッ。歯が鳴る。ユキちゃんは自分の身体を抱き締めた。『助けっ――――』。……いまでも、その山小屋はあるわ。そして、その小屋のこそが、いまわたしたちがいる、まさにここよ」
話し終え、しばしの沈黙がおりた。
しかし、クスクスと一人が笑いだした。話し手の女性が涼しげな視線を向ける。
「なにが可笑しいの?まあ、だいたい想像つくけど。登場人物が全員死んでるのに、どうして話が伝わってるのかってことでしょ?でもね、それをいっちゃあ、お仕舞いよ」
やれやれと大袈裟に肩をすくめる。周りにいた仲間たちからも笑い声か漏れる。
「さて、と」話し手が腰をあげる。「どこにいくのかって?そりゃあ、もうここにはいられないもの。そろそろ『来る』からね。…そうそう。さっきのお話だけど、確かに登場人物は全員死んじゃったけど、死人に口なし…なんて、オモシロクナイじゃない」
凍りつく場を差し置いて、彼女はふらりと出口に向かった。
「じゃあね、みんな」にんまりと笑う。「ふひゃひゃ」
彼女が去って10分ほどしただろうか。ふいに小屋のドアが叩かれた。
そのドアの向こうにいるのは果たして。




