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吸血体験ツアー

 僕は眠れぬ夜を過ごしていた。

不用心ではあるが、夏であったので僕は窓を開けて、網戸だけをしていた。

 カラカラ。不意に網戸が開けられる。思いがけないことに僕はきゅっと心臓が縮み上がった。誰だ。ここは三階だぞ。

入ってきたのは女性のようだった。そろそろと忍び込んできた。

情けないことに相手が女性で、ひとりであるというのに僕は縛り付けられたかのような動けなかった。

 女性はベッド脇に立つと、僕の顔を覗きこんできた。 

起きてないことを確認しているのか?僕はぎゅっと目をつむり、丸まっていた。

 僕の首にひやりとした、やわらかな感触。手を添えられたようだ。さらに、フワリとした良い香りが鼻をくすぐる。

 ちくり。

叫び声を出さなかったのは驚きが限界値を吹っ切ったからだ。

さらに衝撃的だったのは、僕の血が吸われていることが感覚でわかったことだ。

 僕はなにもできず、そのまま意識を失った。


 次の日の夜。僕は変わらず自宅のベッドで寝ていた。というのも翌朝よくよく確かめてみたが、首筋に傷もなく、身体に不調もなかったからだ。結論は、夢。

 しかし夢ではなかった。彼女はまたやってきた。しかももうひとり連れて。新たにやってきた子は彼女よりも一回り小さい。

「やっぱりむりだよ」小さい子が可愛らしい声で泣き言をあげる。女の子らしい。

「大丈夫だって、寝てるから」彼女が妙に自信ありげに言いきる。

「わたし、こわい」女の子がぐすんと鼻をすする。

恐いのは僕の方だよ。胸のうちで叫ぶ。

「じゃあお姉ちゃんが見本みせるからね」

そう言うやいなやまたしてもフワリと良い香りが僕の鼻をくすぐる。

 ちくり。

ぎゅっと唇を噛み締める。相手は女性、とはいえヒトではないのだ。起きていることが知られたらなにをされるかわからない。

「ね」彼女か朗らかにいう。「全然起きないでしょ」

「お姉ちゃんは上手だから」

「そう?えへへ」

なんで照れてるんだ。その自信はどこから来るんだ。結構いたかったぞ。

 姉妹はしばらく僕の部屋で雑談をして出ていった。


 夜を迎えた。僕はやはり同じ部屋にいた。ここまでくるとなんか気になってきたのだ。それにどうやら彼女たちは危害を加えるような存在ではないらしい。

「よいしょ、っと」

声から察するに彼女がやってきたようだ。

「ふうん、殺風景な部屋ね」

おや、聞いたことのない声だ。彼女と年のころは近そうだ。友達かな。

「わたしはシンプルなのがすき。おーいみんな、こっちだよ」

3日目だからか、油断しきっている。なかなかの声量で彼女は誰かを呼ぶ。

わいわいと賑やかになる。一応小声だが、いよいよ存在を隠す気を感じない。3人、4人、いや、5人か。

「はいはい、みんな静かな。じゃあ、さっそく久しぶりのご馳走をいただきましょう」

「やった!わたし50年ぶりよ」弾む声。若い女性だ。

「あたしなんか100年ぶり。、、あぁ、楽しみ」落ち着いた声。

「懐かしいわ。トマトジュースだと飲んだ気がしないのよね」

「わかる!」声が重なる。

 代わる代わる女性から求められる。これだけだとなんとも羨ましい話だが、これはそんな色っぽい状況じゃない。

 身体がもたない!


 翌朝、枕元に銀の十字架のネックレスを置いた。するとその日以降彼女たちは姿を見せなくなった。

残念なような、ほっとしたような。

 今でも彼女のあの清廉な香りが忘れられない。

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