悪夢の産まれる時
ふわり。
宙を舞うそれを見たのは、放課後のことだった。例えるならタンポポの綿毛。
春先だったので、特段気にも止めなかった。
それは僕の少し先を進む学生の服に止まった。そして、まるで水滴が染み込むように、すーっと消えた。
我が目を疑う。しかし、見間違いだと思い直し、帰宅した。
アラーム音で目が覚める。全身がぐっしょりと湿っていて、なんともいえず不快だ。
悪夢。内容は雑然としていて、もはや覚えていないが、間違いなく、悪夢を見た。
学校では、顔色の冴えない生徒がそこらにいた。みな、一様に幽霊でも見たようにげっそりとしている。
数日経って、状況は悪化の一途を辿った。それと同時に僕は例の綿毛が数を増していることに気づいた。
いまや、町を覆わんばかりの勢いでそれはいたるところで舞っていた。
そして、それが見えるのは僕だけのようだ。
なぜ、僕だけなのか。歩き回りながら、考える。答えは出ない。しかし、当てなくさ迷うなか、僕は導かれるように森林公園にやってきた。
町でも唯一といってよい人気のない場所。そして、森林公園に近づくほど綿毛の数は増えていく。まるで、雪のように、冬に逆戻りしてしまったかのごとく、綿毛はふわふわと宙を漂っている。
歩く。一歩、また一歩。微かな予感。
歩く。一歩、また一歩。あれなのか。
歩く。一歩、また一歩。待っているのか。
歩く。一歩、また一歩。僕を。
あった。あの時のまま。時が止まったように横たわる彼女。死んでいるとは思えないほど、綺麗なままだ。
彼女の体に根を張り、そして咲き誇る葉、茎、そして鞠のように丸い綿毛の固まり。
ふわり。ふわり。ふわり。
僕は、ガソリンの入ったペットボトル、そしてライターを取り出した。
ふわり。ふわり。ふわり。ふわり。ふわり。ふわり…。
綿毛は姿を消し、町にようやく安らかな夜が戻った。




