あの花に恋した僕はやっぱり変だろうか
○○高校の校則に則り、僕は1ヶ月に2度の遅刻の反省として校内清掃をする羽目になった。
しかし、3月のどこか薄ぼんやりした空気が急速にやる気を奪っていく。開始1時間の時点で箒と透明なゴミ袋を手に、校内を意味なく徘徊することにした。
これが1週間続くかと思うとますます元気も根気も失せていく。しかし何もしないわけにもいかない。それでは反省にならない。
そんな時、その場所を発見した。
校舎の角にひっそりと、まるで忘れられたように存在する花壇。花壇といっても雑草が幅を利かせており、花の姿はどこにもない。
そうだ。僕は花壇の前に座り込み、ぷちぷちと雑草を抜いてゴミ袋に放り込む。10分もすれば目に見える成果があがってきた。
次の日も僕はその花壇を訪れた。
春先で適温だからか、ずっとその場にいてもまったく苦痛にならない。これが夏場なら校内を動いているほうがマシだったろう。
黙々と、ゆったりしたペースで草を抜いていく。単調な作業。楽だが、眠くなる。
あぁ、野球部が騒いでる。サッカー部の顧問が怒鳴ってる。吹奏楽部は楽器を手に練習場所を探している。
そんな取り留めもないことを考えつつも手は動かす。ぷちぷち、時々ぐいっと引っこ抜く。
不意にその花は現れた。
ストローのような茎の先に、レモンのように鮮やかな黄色の花びら。雑草のなかに埋もれていたその花はたった一輪だけ咲いていた。
春に咲く花の名前なんて、たんぽぽかチューリップくらいしかしらない。もしかするとその花は花ではないのかもしれない。
抜いてしまおうかと一瞬考えた。しかし久々に見た鮮やかなその色に免じて暴挙はやめることにした。
軽く花びらをつついて、今日の清掃は切り上げた。
かなりゆっくり作業をしていても、さすがに2日もやれば花壇の雑草はだいぶ片付きはじめた。
さぁやるかと、今日も今日とてのんびり草抜きを開始する。
例の黄色い花は昨日と変わらずちょん、と咲いていた。いくら花壇の雑草を抜いていっても、その花の仲間は一切顔を見せない。
とうとう花壇の雑草を全て抜ききってしまった。しかしやっぱり黄色い花の仲間はどこにもいなかった。
そう広い花壇ではないが、小さなその花が一輪だけで咲く姿はどこかもの寂しい。
もう花壇を訪れる理由はない。なぜならあの場所の清掃は終わったからだ。校内を廻り、ゴミを集める。紙パック、ストロー、空き缶、そしてなぜかタバコの吸殻。目をよくこらせばそれなりに拾うべきものがあった。しかし、ゴミ袋いっぱいになるほどではない。
そしてなぜか花壇の草むしりをしていた時のような満足感もなかった。
この日は金曜日。清掃は今日で最後。
僕は例の花壇に足を向けた。その花はいつものように咲いていた。黄色い花びらを誰かに誇るわけでもなく、見せるわけでもなく。
僕はたぶんこの花のことをすぐに忘れてしまうだろう。土日をはさんで月曜日。またいつもの生活に戻れば、たった一輪の花のことなんて記憶から消えていく。そしてこの先、この花が注目を浴びることはないのかもしれない。誰も知らない、省みない。そして秋になる前にはこの花はきっとかれてしまう。
僕は花壇の前にひざをついた。そしてポケットに忍ばせていた種を取り出し、そっと植えた。なんという名前で、どんな花が咲くのかは知らない。花屋で適当に見繕ってもらったものだから。
「ま、これですこしは賑やかになるだろ」
僕は花壇を後にした。




