誰にも傷つけられず、傷つけない世界
悶々と天井を睨み付ける。もう、何時間も寝転がっている。することは山ほどあるのに何もする気にならない。
パチっと。まばたきした瞬間、自室とは異なる場所に移っていた。
まるでゲルニカの世界に飛び込んでしまったかのようなカオスな空間。その中央に、スーツ姿の男が。手には二枚のプラカード。
「誰にも傷つけられず、傷つけない世界」
「誰かに傷つけられ、傷つける世界」
そう記載されていた。
「どっちがいい?」男の声は妙に高く、黒板を引っ掻くような音。
状況はまだ理解できない、しかし、どちかを選べと言うことなら…。
「誰かに傷つけられるのも、傷つけんのもゴメンだ」
パチっと。まばたきをすると、そこはまた別の空間だった。
真っ白な、ただただ真っ白な部屋。布団が一組と、机がひとつ。あとはなにもない。窓も、ドアも、電話もテレビも、スマホも。
まるで牢屋だ。
「ふざけるな!出せ」力任せに壁を殴る。その音さえも、空白に溶けていくようだ。こんなとこにいたら頭がおかしくなる。
何度も何度も繰り返し、壁を叩く。
パチっと。まばたきをした瞬間、見慣れた風景のなかにいた。
見知った町の雑踏の中。大勢のなも知らない人々が忙しそうに歩いている。
ドンっと。すれ違い様に肩がぶつかる。道の真ん中で立ち往生する僕を恨めしげな視線を向けてくる。
「は、ははは…。こんなオチかよ」
僕もまた足を動かした。そうして名も無き雑踏のなかに溶けていった。




