右手の殺人者
僕は、突然殺人者にされてしまった。
街をぶらついていたとき、急に厳つい男たちに取り囲まれた。身構える僕に、彼らはこう言いはなった。
「殺人の容疑で逮捕します」
あれよあれよと言う間もなく、僕は法廷につれてこられた。裁判官、裁判員たちは厳しい面持ちだ。僕につけられた弁護士は、いかにも気が進まないといった表情。
しかし、一番の問題は僕自身、まったくこの状況が飲み込めないことだ。殺人など、まったく身に覚えがない。
「開廷します。名前は?」
「○です。あの、これはドッキリかなにかですか」
法廷がざわつく。傍聴席からは怒りの滲んだ声が聞こえる。
裁判長が、静粛に、と木槌をうちつける。
検察らしき男が立ち上がる。
「事実確認を行います。被告は、×月×日、路上にて無差別に通行人を刺し、複数人を殺害しました。さらに、駆けつけた警官2名をも同様に殺害しました」
「ま、待ってくれ。僕はそんなことしてない」
×日は一日中家にいた。間違いない。
構わず、検察は続ける。
「その後取り押さえられた被告は、『むしゃくしゃしてた誰でもよかった。最期に人が殺せて満足だ』と叫び、その場で自殺しました」
「自殺しただって?おかしいじゃないか」
「いえ、おかしくはありません。これはあなたのクローンの引き起こした犯行なのですから」
がつんと殴られたような衝撃が走った。
そうだ。確かに数年前にクローン作成のための臨床試験に参加した。
その際、右手の細胞を提出したのだ。
「で、でも、それはクローンの話でしょ?僕のやったことじゃない」
「あなたの細胞から産まれたクローンは、もはやあなた自身の写し身です。それとも、あなたは人を右手で殴った際に、『殴ったのはこの右手だから、私自身に罪はない』などと言うつもりですか?」
「それは…それは、でも…」
まごつく僕に、検察は勝ち誇ったように言葉を畳み掛ける。
「裁判長、以上のやり取りからもお分かりいただけるように、被告人にはまったく反省の余地がみられません。厳罰を望みます。以上です」
僕は思わず弁護士を見る。彼はだめだ、という風に首をふる。
かつん。乾いた木槌の音が響く。
「判決を言い渡します。検察の主張通り、被告にはまったく反省の余地がみられません。犯行の動機も身勝手極まりない。よって、死刑を言い渡します。以上。閉廷します。」




