顔面レンタル屋
顔面レンタル屋が世に出てきてはや数年。大学入学にあたって、冴えない高校生活から、華やかな大学デビューを果たすべく、僕は人生初の顔面レンタル屋に足を踏み入れた。
薄暗い店内。棚だけが怪しく照らされ、無数の、美醜様々な顔が並べられていた。
おもわず後ずさった僕の背後から声がかかる。
「いらっしゃいませ。どのような顔をお探しで?」
「あ、えっと、今度大学に入ることになったので、その…」
「なるほど、なるほど。ご安心ください。お客様のような方は多くいらっしゃいます。ちなみにご予算はいかほど?」
顔面レンタルは月払いが基本だ。
「1万、、出せて1万5千です」
「ふむ…では、こちらなどいかがでしょう?」
主人がある顔を手に取る。ワイルドな男らしさ全開の顔だ。
「もうちょっと爽やかなやつがいいかな」
主人が別の顔をとる。すっきりとした清潔感のある顔だ。しかし、どことなく印象に乏しい。
「悪くはないんだけどなぁ。あれはどれくらいなんですか?」
指差した先には、歌も演技もこなすイケメン歌手似の顔が。
「あちらですと、月15万でございます」
「15っ!!」桁が違う。
やはりいい顔は値が張る。悩む僕に主人がにんまりと微笑む。
「お客様、この近くの大学ですと○大学でございますか?」
「ええ」
「ですと、お客様はわたくしめの後輩にあたります。いい人生はいい顔から。後輩であるお客様には是非楽しいキャンパスライフを送っていただきたい。…こちらをおすすめいたします」
差し出された顔は、精悍な顔つきだ。シャープな顔立ちだが男らしさも持ち合わせている。一目で気に入った。
「いくら?」怖々切り出す。
「5万円、と申したい所ですが、学割とわたくしの手心込みで、3万円とさせていただきます」
予算オーバーだ。しかし、これを逃すのは惜しい気がした。
「わかりました、これをレンタルします」
「ありがとうございます。では在庫を確認いたしますので、少々お待ちください。どうぞお掛けになって」
いわれるままに席につく。視線を巡らすと、ふとノレンがかけられ区切られたスペースがあることに気づいた。
「あちらはなんなんですか?」
「ああ、あちらは女性専用スペースでございます」
なるほど。顔面レンタルするのは男だけではないのか。
こうして僕は月三万円で顔面をレンタルした。
大学構内は、顔面レンタルが一般的になったせいで、どこもかしこも美男美女だらけだ。しかし、僕はいい顔であるということで堂々と振る舞えるようになり、性格も明るくなった。
もはや、顔面はパートナー選びの第一候補ではない。なにせレンタルできるのだから。こうなると選択要素は別の要素になる。
話は変わるが僕にも彼女ができた。派手とは言えない素朴な顔立ち。しかし穏やかな性格で一緒にいて心地がいい。そしてなにより、下世話な話だが、スタイルが抜群だ。
彼女初めて一夜を過ごしたときに、それを嫌というほど痛感した。
「好きよ」彼女が妖艶にささやく。
「どこがいいか、聞かせてよ」
「そうね」彼女がそっと僕の顔をなでる。「堂々としてて、人当たりがいい所ね」
そう言って彼女は僕のむねにもたれた。
あぁ、この顔をレンタルしてよかった。彼女をぎゅっと抱き締めて僕は心底思った。
「いらっしゃいませ。あら?お久しぶりでございます」
○大学の近くの顔面レンタル屋には、女性専用スペースがある。そこには、美醜様々な顔の他に、様々なパーツのレンタルもおかれている。
腕、足、鼻、そして胸やお尻。
「店員さん、実は新しいパーツをレンタルしたいの」妖艶に微笑む。
「はい、ありがとうございます」
「今度は、そうね…この足なんて素敵ね」
「お目が高い。月2万でございます」
「ええ、構わないわ」
「ありがとうございます。しかし、お客様は学生さまでいらっしゃいますよね。ずいぶんと羽振りがよろしゅうございますね」
彼女はくすくすと口に手をあてて笑う。
「彼がね、いくらでもわたしに貢いでくれるの。エステって言ってるあるから、パーツ屋のことは知らないけどね」
「左様でございますか」
レンタル屋、兼パーツ屋は静かに微笑んだ。




