現実と仮想の区別
ぴぴぴぴぴ…。
無機質な時計の音で目覚める。もそもそと起き上がる。 「おはよう」は、言わない。言う相手がいない。
会社では役立たずのレッテルを張られている。早く就業時間にならないかと、そればかりを考える。かといって、仕事終わりに誰かと会うわけでもない。
仕事以外でだれかと会話をしたのはいつだろう。…コンビニの店員とぶりか?そもそもそれを会話といえるのか?
あ、そうそう。楽しいと思えることがひとつだけある。
オンラインゲームだ。これだけが、僕の楽しみ。
今日も今日とて、夕御飯もそこそこにパソコンを立ち上げる。さぁ、やるぞ-----
「もう!起きてよ!」
いきなりまくりあげられた布団。聞き慣れた少し高い声。
「なんだよ!」バーチャル体験眼鏡を外す。「せっかくこれから楽しもうとしてたのに」
すらりとした制服姿の幼馴染み。腕を組み、でんっと構える彼女に文句を垂れる。
「いっつもいっつもゲームばっかり!そんなバーチャルなやつの何が楽しいの?!ほらっ、学校行こう。遅刻するよ」
「うるさいなぁ…。着替えるから出てってくれよ」
寝巻きのボタンを外すそぶりを見せると、彼女は顔を真っ赤にして出ていった。
僕はバーチャル体験眼鏡に目を落とす。
「わかってんだよ。夢ばっかり見てちゃダメだってことぐらい」
ベッドから身体を起こし、クローゼットに向かう。
「おーい。なんだ、まだ着替えてなかったのー?」
いつのまにか、窓際にお隣さんが腰かけていた。少し着崩した制服。そこからのぞく足が白く、まぶしい。
「住居侵入は、ハンザイですよ」年上なので、敬語を使う。
お隣の彼女はけらけらと笑う。
「いーじゃん、そんなのしょちゅうだしー。昔は一緒におふろにだって入った仲じゃん」
突然、ドアが開く。幼馴染みの彼女が戻ってきたらしい。
「ちょっと!なにやってんのよ!?」
「なにって…かわいいお隣のぼうやにあいさつを、ね」ウインク。
これが開戦のゴングになった。幼馴染みの彼女が、顔を真っ赤にして、きーきーと騒ぐ、お隣の彼女はそれを余裕たっぷりにかわす。
これが僕の朝の日常。
はぁ、こんな「現実」もううんざりだ。
僕はさっさと着替え、これまたいつものように仲裁に入った。




