ノレンとユーレン
ノレンは帰らぬ覚悟でここに来た。
立ち枯れた木々、じっとりと湿ったこの地はかつて墓場として使われていたらしい。確かに、所々に墓石らしきものが散在している。
だが、しかし。と、ノレンは思う。問題は場所ではない。ここが墓場でも式場でも、なんなら地獄であったとしても関係ない。
念頭に置くべきはヤツがいるということだ。
古い猟銃を構え、一歩一歩、しかし力強く進んでいく。
ザワッ。
針先ほどの微々たる気配。もはや直感とも言える世界。しかしノレンのなんのためらいもなく引き金を引いた。
二つの銃声が響く。一つはノレン。もう一つの銃弾は、ノレンの猟銃に命中した。衝撃で思わずノレンは猟銃を取り落としてしまった。
考える間もなくノレンは墓石の裏に身を隠した。
ノレンの猟銃は先ほどの銃撃で完全に破損していた。
「速打ちは相変わらずお前の方が上か。でも、当たらなきゃ意味ないよな」
立ち並ぶ墓石のひとつに男がゆっくりと腰を下ろした。手にもつ古い猟銃からは煙が立ち上っている。
ノレンは墓石の裏で、腰に指していた一振りの剣を抜いた。柄には擦りきれてはいるが、蛇の紋章が刻まれている。
「安心しろよ、銃なんかで俺たちの因縁は切れねぇ。やるならセイセイドウドウぶったぎってやる」
男は猟銃を背後に放り投げ、剣を抜き放った。柄にはノレンと同じく蛇の模様。そして細い鎖らしきものが巻き付いている。
男は墓石から立ち上がるとぶらりとノレンの方に向かってきた。
ノレンも立ち上がり、男をきっと見据える。
「きさまにまだ正々堂々などという精神が残っていたとはな」
男は口の端を歪めて笑った。しかし目は酷薄な光で満ちている。
「切り刻んで、最後はお前がシズにしたように、心臓にこの剣をぶっ刺してやる。これはあの日から決めてたことだ」
ノレンの剣を握る手に力がはいる。
「ユーレン。きさまの妄言なんぞもう聞く気はない」
「シズはお前を信じてた。その純粋な気持ちをお前は最悪の形で踏みにじりやがった」
「あの娘を殺したのはわたしではない」
「『あの娘』か、、。お前は昔っからシズに冷たかったよな。ただの一度も振り向こうともしなかった」
ノレンとユーレン。同じ蛇の柄の剣をもつふたりの距離が詰まる。剣先が触れるか触れないか。その距離で、ぴたりと足が止まる。
静寂。
こうして互いに殺し合うに足る理由があるのか。ノレンは何度も考えた。何度も何度も。
そしてたどり着いた答えが、いまここに自分がいる理由だ。少なくともノレンはそう確信している。
ユーレンの剣が動く。獲物を捉える蛇のような鋭敏な剣。
ノレンはグッと身を落とし、ユーレンに肉薄する。肩に焼けるような痛みが走る。それでもノレンは前に足を出し、全身全霊の力でもって剣をつき出した。
ノレンの肩から胸を深くえぐり続ける剣の動きが止まった。そしてそれは、その剣の持ち主、ユーレンの命の動きも止まったことを示していた。
ノレンの剣は、ユーレンの心臓を貫き、命を射止めた。
ふたりの戦いは一瞬で終わりを告げた。
しかし、まだ幕は降りない。ユーレンの死だけでは降ろせない。
ノレンの身体には未だにユーレンの剣が食い込んでいる。その柄には細い鎖。ふと、ノレンは自分の返り血を浴びて輝く、それに目を止めた。見知ったネックレスだった。
「、、ここに、あったのか。見つけたよ、シズ」
ノレンは、ユーレンの剣の柄を、そのネックレスを包むようにして握りこんだ。そして、そのまま引き下ろす。自らの心臓を裂くように。
ノレンは帰らぬ覚悟でここにきた。
こうして幕は、勝者も敗者も、救い主も救われる者もなく幕を降ろした。




