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メイカー

 「あの部屋出るんですよ」

暗いどんよりした声でAは言った。不動産の営業マンのBがカウンターでぐっと身構える。

Aが続ける。

「ここ数週間ずっと我慢してたんですが、もう限界です。毎日毎日夜になると血でべっとり汚れた女が枕元にたってるんです。何か訴えるみたいに‥」

「また、ですか」

「また?ということはやっぱりあの部屋はいわゆる事故物件?」

「いえ!違います!本当に違うんです。」

Bが資料を取り出しカウンターに広げる。

「あのアパートは築3年、東京の×駅から徒歩圏内の優良物件です。105号室はA様が7人目の入居者様になりますが、どなたも、その、、事故など起こしてはおりません」

「でも、私は確かに見たんです!見ただけじゃなく、ラップ音とか妙な視線とか。信じていただけなくても結構ですが、もうあの部屋には住めません!」

 解約手続きを済ませ、足早に去るA。

 Bはため息をついた。事故など起こっていない。紛れもない事実だ。それなのに、、。

「これで3人目だよ、幽霊関係で退去するのは」




 「ご苦労様。」

とあるカフェ。Bの正面にはスーツ姿のCが、不敵な笑みを浮かべていた。そこそこ厚みのある茶封筒をBに差し出す。

「ありがとうございます。、、こんなにいいんですか?1カ月だけでしたけど、あんなにいい部屋に住まわせてもらったうえに、お金までもらっちゃって?嘘の幽霊話をでっち上げて出ていくだけなのに」

「世の中には色々な仕事があるということですよ」


 あと2人ぐらいか。Cは思う。あと2人、「幽霊」で退去すればあの部屋は「事故物件」になる。そうすれば家賃も下げざるを得ないだろう。

 東京の優良物件の家賃を下げる。この仕事は単価は高いが、長い目で見ればお得になる。依頼人の狙いはそれだろう。

 そしてこうやって「事故のない」事故物件をつくるのが俺の仕事だ。

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