空を見る彼女は待っている
彼女に声をかけたのは酔っていたからだ。
飲み会に行く前にちらっと見かけた彼女は、ひどく頼り無さげで、強い風が吹けばふいっと消えてしまいそうに見えた。
三次会を抜け出し、終電を気にしながら歩いていたとき、再び彼女を見かけた。
まったく同じ場所、格好。デジャヴゥだと思い、お酒の力もあって、好奇心を抑えきれなかった。
「どうしたんですか?」
彼女はゆっくりと僕に視線を下ろした。意外にも警戒はされていないようだった。
「待っているのです。人を」
「でも、あなたもう何時間もここにいますよね」
「ええ。もうすぐ来るはずです。彼はとても優しいのですから」
彼氏持ちか。早めに立ち去ろうかとも思ったが、恋人を待つにしては、彼女からは弾むような嬉々とした雰囲気を感じない。
彼女は再び視線を中空に戻した。
「わたしを気にかけてくださっているのですね。ありがとうございます」
「女性がひとりでずっと道で立ち尽くしていれば、普通は気になりますよ」
「あなたはいいひとですね。…彼もあなたのようであれば、わたしは待たずにすんだのかもしれません」
言葉の意味は聞けなかった。
僕の目の前に人が、かつて人だったモノが落ちてきた。熟れたトマトがつぶれるような音をたて、ソレはコンクリートの地面を赤く染めた。
男性であることは体格からわかった。彼女の姿はどこにも、ない。
事態に気づいた周囲がざわめきはじめる。
携帯を取りだし、ボタンを押す。しかし、途中でやめた。この理由を上手く言葉にはできない。
ただ、これで彼女はもう待たずにすむな、と思った。




