未来と過去
Aとは大学卒業以来の再会だった。私とAは、近場の呑み屋で再会を喜びあい、近況を語り合った。
就活に失敗しその日暮らしのフリーターの私と違い、Aは世の中のニーズをずばり押さえた商品を開発し、いまや勝ち組のひとりだった。
思えば、Aは大学時代から先を見る目があった。いわゆる超大手の誘いを蹴り、中小企業に入ったAを周囲はもったいないとため息をついたものだった。しかし、今となってみると、その超大手は経営が傾き、かたや、Aの入った中小は世界に名を轟かせている。
「馬鹿らしい話だけど」
酒の酔いに任せて私は口を開いた。
「A、きみ、実は未来から来たんじゃないか?」
就活中、Aはそっと私に※※という会社はいいよ、とささやいた。それは地元の小さな会社で、私は歯牙にもかけていなかった。※※の内定を蹴って、大手に望みをかけた私は現在無職。一方※※は新聞でもお馴染みになりつつある。
Aはぴたりと私に視線を合わせた。
「、、そうだよ。ぼくは、いわゆる未来からきたんだ」
私はAがまさかこんな冗談に乗ってくるとは思っていなかった。しかし、酒の席の余興とでも考えることにした。
「なるほど、じゃあこの先私がどういう人生を過ごすのかもすべてお見通しな訳だ」
「一人一人がどうなるのかまでは分からないが、歴史に名を残すような人物のことなら分かる。例えば次の首相は△△だ、とかね」
もっともなことだ。私だって歴代アメリカの大統領の名前ならわかるが、一般人がどうなったかなんて知らない。しりようがない。
Aは淡々と語り始めた。
「なにも心配することはない。この先、この国は、いや、この世界は素晴らしい発展を遂げる。国も、宗教も、すべての隔たりを越えて世界はひとつになる。全人類が餓えも、戦争も、貧しさもない幸福な人生を過ごす未来がくるんだよ」
私は笑った。馬鹿馬鹿しいとは思わない。Aが、いや、未来から来たひとがそう言ってるんだ。Aが語ったことは事実なんだろう。
「きみの言う未来を楽しみに待つことにするよ。、、だけど、A、ならばきみはどうしてそんな素晴らしい未来からこんな過去にやって来たんだい?タイムマシンの故障かい?それとも旅行かい?」
「両方ともはずれだ。正確に言うと、僕は未来から過去に遡ってきたわけではない。順当に、川が上流から下流に流れるように、過去から未来に向かって進んでいるのさ」
「つまり、私の言う未来はきみにとっては過去になるわけか」
「そう。そして過去とは、僕にとっての未来になる」
「そうなるとA、きみは未来人と言うよりはパラレルワールドから、私の世界に迷い混んできた、迷子、という方が近いのかもしれないね」
Aは笑った。私の笑いとは異なり、乾いた空虚な声だった。
「そうだね。なんの因果か、僕はこの先の未来を知ってしまった。あと100年もしないうちに人が人を殺し合う時代が来ることしってしまった。よしんばその時代を僕が生き残っても、僕の子孫は人権すらなかったような時代を生きることになることをしってしまった」
私は黙りこんでしまった。確かに、つい70年前にはそういう時代だった。私にとっては過去のことだ。だが、Aにとってはそれは未来に当たるのだ。
Aと私はその後会うことはなかった。あの日、Aの語ったことは本当のことだったのだろうか。繁栄の未来を予言されながらも、私は素直に喜べない。




