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魚の煮付け、及び彼女について

 ○○国の南には温暖な気候と透き通るような海を有する、屈指の観光地が島という形で点在している。

長期の休養をとり、私はその島々の一つに滞在していた。

 日も傾き、私は地元で評判の居酒屋に足を踏み入れた。

 賑やかな店内、美味しそうな地元の魚料理たちの匂いに思わずごくりとつばをのんだ。

カウンター席に通され、さっそくメニューを手に取る。さて、まずは何からいこうか。

 メニューを眺めていると、ふと隣の席の女性が目に入った。狭い店内だ。距離も近い。

 年は20代前半といったところか。しかし若さの中に成熟した落ち着きと真珠のような控えめな美しさを兼ね備えていた。アーモンド型の瞳はなにか憂いを帯びており、それがまた一層男心をくすぐった。

 彼女も1人で観光に来たのだろうか。それにしてはひどく傷ついた様子だ。傷心旅行だろうか。

 声をかけてみようか。こんなに妙に惹かれる女性は久々だ。


 いや、だが待て。その前に彼女が今食べている魚はなんだ。金目鯛だろうか。にくにくしい程の赤い外見に反し、身は洗いたてのタオルのようにふわふわで白い。彼女が気だるげに箸を差し入れるたびにほろほろと身が崩れ、ほわっとゆげがあがる。実に美味しそうだ。


 いや、それはそれとしておいておこう。今は彼女のことだ。よく躾けられたお嬢様なのだろうか。箸使いは洗練されており、優雅そのもの。魚の煮物を少量ずつふっくらとした唇に運ぶ。うん、実に色っぽいじゃないか。そして一旦箸を置き、コップに入った透明な酒をちびり、となめた。


 おい、ちょっと待て。彼女の前に置かれているボトルは地元でも滅多に手に入らないと言われる銘酒じゃないのか。確か、メニューにも載っていなかったはず。・・・まさか裏メニュー。なんてにくい真似を。実は私はお酒には目がないのだ。今回の旅行先だってこの銘酒を飲むためといっても過言でない。


 おい、ちょっと待て。酒はいい。今は彼女のことだ。服装は白を基調にしており清楚な雰囲気を際立たせている。髪はよく手入れされているのか艶めいている。おそらくどういう身なりがより一層自身をキレイに見せるのかをよくわかっているのだろう。白い服と黒い髪の対比が彼女の美しさに拍車をかけていた。


 ん。あれは、まさか、この島でも珍魚中の珍魚として名高いやつではないか。それを贅沢にも刺身にしている。銀色の皮のそのしたからそぞく赤みが食欲をそそる。ぜひ食べたい。と、いうより彼女の選択はまさに私好みのベストチョイス。これはもう運命だ。


「あの、すみません」

「はい?」

「煮付けと、○○酒、それから△の刺身ください」

「はいよ、少々お待ち」店員さんの威勢のいい声が響く。


 完璧だ。同じ料理を食べ、それをきっかけに話しかける。

ふと、隣をみると彼女はいなくなっていた。レジに向かう後ろ姿が微かに視界にうつる。

 出てきた料理はやはりどれも絶品だった。まぁ、それでよしとしよう。


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