お化けの正体柳にみたり
近くの公園でパチンパチンと妙な音がする。怖いから確かめてきて。そう弟に言われた。かりにも女である姉に言うかと小突いてやった。ラーメンおごると言われた。承知した。
△公園は外灯もたくさんあり、近くには民家もある。正直言えばちょろいもんだ。ただ念のため弟と電話を繋いだ状態で探索することにした。
しばらく歩いているとパチンパチンと音が聞こえてきた。無機質な、ムチで打っているような感じだ。なんかあまり見てはいけないものを見てしまいそうな気がしてきた。そっち系の趣味とか。
「なに、なんで急に黙ったの」
弟が電話越しにあせりを見せる。
「いや、帰ろうかと」
「だめだって。おれ、その公園ランニングコースにしてるんだから」
「あんたの足腰のために私の目が汚されるのはいや」さぁ帰ろう。
引き返そうとしたとき音の正体がわかった。なんてことはなかった。台の方ではない、パチンコの音だった。
「これ、パチンコじゃないよ。ゴム弓」
おない年くらいだろうか。さっぱり短めの髪、色白で細身。弟の100倍爽やかな人だった。
彼が持っていたのは、そして私の弟をビビらせていた正体はゴム弓と呼ばれる弓道の練習道具だったのだ。見た目はパチンコそっくりだが、プラスチックの持ち手に付いているのは、平べったいゴムひもがついており、それを引っ張って矢を射るフォームを練習する道具だ。
「なんでこんな夜遅くに、こんな場所で」
びよんびよんとゴムを弄びながら尋ねる。彼は苦笑した。
「家の中でやってたら結構これ、音がするからさ。誰にも迷惑にならないように△公園を選んだんだけど」
確かにゴム弓はなかなか大きな音がする。神経質になる程ではないにしろ、夜更けにしてほしくはないだろう。
「練習じゃましてごめん、あ、これおわび」
「ありがとう」
ポケットに入ってた20円のチョコを受け取った彼はちょっとはにかんで笑った。
電話が切れて心配していたと、我が弟は言う。事の顛末を語って聞かすとなーんだとゲームに戻ってしまった。しっかりステージクリアしてた。しかも2面。ふざけんなと背中に氷を入れてやった。
「あ、でも」Tシャツを着替えながら弟が言う。
「うちの学校に弓道部なんてあったっけ?」
そういえばそうだ。じゃああの子は。
氷を入れられたわけではないのに、背筋がぞっとした。
しかし聞いてみればなんてことはなかった。
翌日、再び△公園に足を運ぶと果たして彼はそこにいた。足もあれば、街灯のしたには影もある。
「近くに市営の道場があるんだよ。うちの高校には弓道部ないしね。そこで練習してる」
同じ高校の同じ学年、クラスは違うが彼はちゃんと人間だった。幽霊の正体みたりだ。
「あぁ、でもお化けじゃないけど」言いにくそうに彼は口をつぐんだ。
「なに?」緊張がとけた私はぽりぽりと菓子をつまむ。太る?知るか、そんなんもん。気にしたら負けだ。
「カップルがいたね。このまえ。僕よりちょい下くらいかな。ジャージ姿でランニング途中で待ち合わせしてたんだと思う。しばらくいちゃついてから、そのまま2人で走っていっちゃたよ」
ぼりっと。口の中で菓子が音を立てて砕ける。そういうことかあのやろう。
「お願いがあるんだけど」その時の私はちょっと悪い顔してたと思う。
「なに」
「このことしばらく黙っててもらえる、幽霊のままでいてもらえる」
幽霊の正体なんてこんなもんだ。柳かもしれないし、もしかしたらどっかの誰か、具体的に言うと意地の悪い姉が弟を懲らしめるために勝手に植えたのかもしれない。




