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わたしの家にはドアがある

 わたしの家にはドアがある。

 玄関から入って廊下に足を踏み入れる。廊下を進んで右手には居間に通じるドアがあり、左手にはトイレと物置のドアがひとつづつ、そして2階へと続く階段がある。ちなみに2階には両親とわたしの寝室がある。

 では、廊下をまっすぐ進んだ先にはなにがあるのか。

 そこにはドアがある。


 幼い頃、物心ついたその時からわたしは家のなかでは台風のように暴れまわっていた。壁に落書きをし、ものをひっくり返し、やりたい放題だった。しかし、両親は元気なのはいいことだ、他所さまに迷惑をかけなければいい、とキツくは叱らなかった。

味を占めたわたしはますます調子に乗り、例のドアの前にクレヨンを手に仁王立ちしていた。

 ドアにクレヨンを伸ばした瞬間、背後から両脇を抱えあげれた。

「ダメよ。そのドアだけは」

熱のこもっていない平坦な口調で母はいった。母のすぐ後ろには父もいた。のっぺりとした無表情でわたしを見ていた。

 ドン。

 突然の音にわたしは思わずドアの方を見た。まるで内側からだれかがドアを叩いたかのような音だ。

 ドン。ドン。ドン。

 音が、激しさを増していく。ドアの前に立つわたしと両親に訴えかけるように。

 ドン!ドン!ドン!ドン!

 わたしは恐怖で固まり、母にしがみついた。

 母は、まるで人形のように無機質極まる顔でドアを見ていた。

 ンー!ドンドンドン!ンー!ンー!ドン、ドン!ドンドン!ンーーーーー!ンーーーーーーーーーー!ンーーーーーーーーーーーー!

 なにか、誰か、がいる。

 幼いわたしはそこで泣き出してしまった。その音を、声を振り払うかのように。

 それ以来、わたしはドアに近づくことはなくなった。

 そしてドアのことが家族間で話題にあがることは、一切なかっま。まるでドアなどないかのように。

 大学進学とともにわたしは家を出た。そして別の地で暮らし、そこで結婚し、実家には、そのドアのある両親のすむ家には決して近寄らなかった。

 だが、今現在わたしは実家にいる。そして例のドアの前にたっている。

「開けていいよ、あのドア」

 父に先立たれた母はかつての面影をほとんど留めていないほど、痩せ衰えていた。そんな母が、病室を訪れたわたしに唐突にそう告げた。

 そしてわたしは実家に戻ったのだ。あのドアを、開けるために。

 

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し、開く。そこには、、、、













 なにも、ない。

 ドアの向こうは、大人ひとりが立って入るのが精一杯なほどのスペースの空間が広がっていた。

 そこに、なにかが、ましてや誰かがいたような痕跡はなかった。わたしはドアを静かに閉じた。かつての恐怖とともに。

 母の死に伴ってわたしはその家を売却した。いまはもう新しい住人が暮らしているという。

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