4. グレイ子爵の館の夜
「メイドが少ないから手が回らなくて、ごめんなさいね」
「気にしないで。それより愚痴が言いたいんじゃないの?」
「……弟も父も、何で私のせいにしたがったのかしら……」
「人は上手くいかない時に、どうしても他責志向になるのよ。自分が悪いんじゃない。あいつが悪いんだ、と言うと気が楽になるから」
「それ、何の解決にもならないでしょ?」
「解決策が無い場合に、誰のせいだと一人が言い出すと、皆がそれに飛びついてしまうのよ。つまり、不満のある所に扇動者と詐欺師が現れるのね」
「……弟が詐欺師だと言うの?」
「そこを見たいから泊まりたかったのよ」
「何かあるの?」
「普通、ネズミは追い込むとどうする?」
「ネズミを虐めて遊んだことはないから分からないわ」
「私もないけど、知識としてさ……」
キャロラインの言葉の途中で、館の外から複数の声が聞こえた。
「これを待ってたのよ。行きましょう」
私達はガウンを羽織って人の声がする方に歩いて行った。
館を囲む外壁の通用門の内側で、下男達がランプで照らす下に、護衛らしき男達に地面に抑えつけられる者達の姿が見えた。
「放せ!俺が何をしたって言うんだ」
ネイサンが喚いている。そのネイサンを抑えつけている男にキャロラインが尋ねた。
「この男は何をしたの?」
「はい。外部の者を手引きして館に入れようとしました」
それを聞いた父が口を開いた。
「この…うちの人間でない者達を引き入れて何をしようとしたんだ、ネイサン?」
「知らねぇよ!俺はそんな事してない!」
「じゃあ、どうしてこいつらと一緒にいるんだ?」
「たまたま出くわしただけだ!」
「じゃあ、誰が閉めておいた通用門を開けたんだ?」
「知らねぇよ!他の奴がやったんじゃねぇのかよ!」
父は溜息を吐いた。
「お前の嘘がバレて責任を取らされそうになった。その日の晩、お前は外部の者を無断で館に入れようとした。普通は証拠隠滅の為に仲間を連れ込んだとしか思えないぞ?」
「父さんが悪いんだぞ!姉さんの友達の言うがままに、今度は俺が全部悪い事にするつもりだろ!逃げ出すしかないじゃないか!」
「お前は家族に迷惑をかけたという自覚も、それを償おうという気持ちもないのか!?」
「こんな貧乏な領地の跡継ぎだから、俺には嫁の成り手がいないんじゃないか!それで領地経営の失敗の責任だけ取らされるなんて、不当だろう!」
ここでキャロラインが口を開いた。
「それじゃあ、あなたが不正をしたのは姉が悪いと言うの?それともお父様?」
「売るだけ売って放っておいている姉さんが悪いに決まってるだろ!」
「購入品の差額は誰が手に入れたの?」
ネイサンは黙った。
「そっちの男達は誰だか子爵はご存じで?」
「見た事がない者です」
「隣のズーシュ子爵領のマフィアの三下ですよ。息子さんはスカーバラ伯爵領の娼婦に唆されて、悪事に手を染めたんです」
「証拠も無しに適当な事を言うな!」
「じゃあ、差額はどこに行ったの?」
ネイサンは黙った。
「お分かりですね。お子さんは娼婦に金をつぎ込んで、罠に嵌った。もうズーシュ子爵やスカーバラ伯爵はいつでも財務省に密告する体制なんです」
「分かりました。明日朝一番に財務省への修正申告を申し入れます」
これについてはモーランド伯爵家の早馬を使わせてくれる事になった。
「購入した物品を置いてある倉庫内の数量も確認した方が良いですね。多分、横流しをして金を手にしているでしょう」
「明朝、確認します」
「それで、今晩、モーランド伯爵家の人間の泊まる家にマフィアが侵入しました。伯爵家としては犯人を捕まえ罪に問わねば威信に関わります。本件、グレイ子爵家が責任を取って犯人達を拘束しますか?それとも、我が家に委任しますか?」
「我が家ではとても隣の子爵領や伯爵領の犯人を捕らえる事は出来ません。委任させていただきます」
「子爵閣下が犯人逮捕に協力してくださった事、また快く委任してくださった事、義父には伝えておきますわ」
「ありがとうございます」
「また、娘さんは王都の商会に戻らせます。貴族籍から外すのは修正申告を纏める前程度にお願いします」
「ちょっと待ってください。もう息子に跡を継がせられません。そうなると娘に継いでもらうしかないのです」
「無理でしょう。あなた方は今回の件で領地の民に娘さんの悪評を振り撒きました。これを撤回するには、息子さんの悪事を全部バラす必用があり、子爵閣下の監督責任を認める必要があります。そんな度胸はありませんよね?」
父は口籠った。
「そもそも、上手くいかない事を娘さん一人が悪い事にして済ませて対策を取らなかった。子爵閣下が対策を検討していればこんな事にはならなかった。帳簿を見て、卸売り価格を下げてくれと娘さんに言えば発覚した事です。今回も心の中ではご自分が悪いとは考えていないのでしょう?悪評をばら撒かれたままの娘さんが跡を継いでも、領民が反感を持つから無理ですね」
「しかし、それでは跡取りをどうすればいいか…」
キャロラインは溜息を吐いてから言った。
「子爵閣下の弟さんはこういう時の為にいるのでしょう?弟さんの息子さんを跡継ぎにするんですよ」
父は項垂れた
父の弟、つまり私の叔父は一つの街の代官をしていた。こういう跡継ぎ問題が発生した時の為に、領主の弟等と言う者は飼い殺しにされているんだ。




