5. 裏側とその後
翌朝、この間通行証を都合してくれたダドリー男爵領に潜んでいたモーランド伯爵の軍勢がズーシュ子爵領に強硬突入した。そして既に潜入していた手勢と共に関係するマフィアを拘束した。そのままスカーバラ伯爵領の検問所に詰め寄ったモーランド伯爵の手勢の指揮官は、関係者の引き渡しを要求した。
モーランド伯爵家の侍従を父の相談係として残し、キャロラインと私は王都に向かった。
「そろそろ話してくれる?」
「何の事?」
「伯爵の跡取りの夫人に過ぎないあなたが、こんなに人を使う事も、情報を集める事も出来ないでしょ」
「ご明察。あなたの家と、私の家は上を辿ると宰相閣下の派閥になるの。だから、これは宰相閣下の派閥の力を削ぎ、宰相の評判を落とすための陰謀だったのよ」
「デイビー伯爵家も同じ派閥だけど…」
「あなたの元旦那の次の結婚相手が、宰相と敵対する派閥の娘なのよ。デイビー伯爵とズーシュ子爵、そしてスカーバラ伯爵は繋がっていて、あなたの弟を嵌めてグレイ子爵家を破滅させようとしたの」
「デイビー伯爵家が私の商会活動はさせておいて、一方社交を禁じて貴族相手には耳を塞いだのはそういう事だったのね」
「下世話な話だけど、あなたの元旦那は本来の結婚相手が適齢期になるまでの間、あなたで遊んでいたのね」
「彼が学院卒業直後、私が3年の時だから、5年もかけた陰謀なのね……」
「……それで、あなたに情報なり指示なりを与えたのは誰?」
「宰相の下の内務大臣ね。財務は敵対派閥の影響があるから、内務が動かざるを得なかった」
「それであなたの利益は何?」
「もちろん、親友を助ける事が出来た事」
「他にあるのでしょ?」
「内務の補助金の増額がもらえるの。街道整備の費用ね」
「やっぱり金なのね…」
「もう一つあるわ。あなたに次の縁談があるの。それをあなたの判断で決めて良い、そういう約束よ」
「……どんな相手?」
「昨年離婚をして相手がいなくなった、某伯爵家の跡取り息子の後妻」
「絶対イヤ!嫁を簡単に離縁する男も、それを許す親も、二度と付き合いたくない相手よ!」
「そう言うと思った。断りたいなら、本件を宰相の手を煩わさずに解決する必用があったのよ。そうすると、あなたが商会の経営に専念できるじゃない?」
「何をさせたいのよ?」
「販路の拡大。今回世話になったダドリー男爵領にも、お安く卸売りして欲しいの」
「それで、男爵領経由で活動させたのね……」
「まあ、世話になったんだから恩返しくらいしましょう。あと、南部の港から輸入品の取り扱いもして欲しいの」
「人使いが荒いわね」
「あなたの能力を信じてるからよ」
「目も耳も頭も働いてなかった実績があるけど?」
「高い授業料を払ったんだから、次は現場をしっかり確認してくれるでしょ?」
「つくづく、人使いが荒いわね」
さて、グレイ子爵領にスカーバラ伯爵等の破壊工作があった事が明らかになった。今から彼等がグレイ子爵の不正会計を告発したところで、逆にそういう陰謀だったのかと騎士団の捜査を呼ぶ事になる。
他家への破壊工作が明らかになれば、国王からの叱責と処分が待っている。だから、スカーバラ伯爵達の派閥の長であるマナーズ侯爵が宰相スタンリー侯爵と落としどころを話し合う事になった。
結果、マナーズ侯爵派閥はグレイ子爵の会計修正に異議を唱えない、モーランド伯の跡取りの夫人の宿泊するグレイ子爵の館を襲おうとしたマフィアは全員、モーランド伯に引き渡す、その二つが決まった。
貴族家としては、貴族に危害を加えようとして平民を許す事は出来ない。だからマフィア達80人余りはモーランド伯の領地境近くの処刑場で次々と吊られた。それは同時に陰謀に関わった平民の口封じでもあり、和解の証でもあった。
二度とこの様な事が起きない様に商会で会計書類と格闘する私を、キャロラインが訪ねて来た。
「ねえ、あなたの元旦那さんの結婚話の顛末は聞いた?」
「平民の商会長にその手の噂話が入る訳ないでしょ。幸せな結末になったの?」
「あのね、内々に婚約の話をしていた相手は、マナーズ侯爵の娘だったのよ」
「あら、派閥の長が娘を出すなんて、デイビー伯爵家の未来は明るいわね」
「ところがね、侯爵家の令嬢が格下の伯爵家に嫁ぐのを内心嫌がっていたらしいのね。だから、貴族学院で仲良くしていた公爵の跡取りに、卒業記念パーティで突撃求婚したのよ」
「あら~……切羽詰まっていたのね」
「だけど、ただデートしただけなのに勘違いするな、ってけんもほろろだったんだって。それでも諦めきれない令嬢が公爵子息に縋りついたのを、子息は振り払ったんだけど、その時令嬢が子息のズボンをずり下してしまったのね。下着ごと」
「あらあら」
私もキャロラインも結婚生活経験者だ。10代の男の子が丸見えしちゃった現場に居合わせたとしても、『あら、可愛い』と笑って済ましていただろう。
「そういう訳で、もう人前には出せなくなった公爵子息は廃嫡。侯爵令嬢も『痴女』と呼ばれる様になってしまったから修道院行き」
「……まあ、道連れに出来て良かったんじゃない?」
「で、あなたの元旦那様は当面結婚相手なし。気が済んだ?」
「もう他人事だからどうでも良いわ」
「おまけがあるの。あなたに縁談が行く筈だった相手って、ケッペル伯爵の跡取りなんだけど、こっちはやはり離婚した女性と再婚して、無事妊娠したの。それで医師の診断を受けたんだけど、どうだったと思う?」
「良いから先を続けて」
「夫人に性病が見つかったのよ。離婚後に遊んでたのか、離縁だ!って旦那が騒いだんだけど、医師が夫も診断すると、むしろ旦那の方が罹患歴が長くて、夫から妻への感染じゃないかって噂になってるの」
「うわ……離婚した人がみんな遊んでると思われないと良いけど……」
「これがあって、現在離婚歴のある人との結婚はこれまで以上に敬遠されてるの。ただ、これにはあなたの実家も無縁じゃない問題があって……」
「いや、縁を切ったから良いけど、何?」
「王国の娼館は一応、組合があって、そこでは定期検査があるから病気は見つかりやすいんだけど、ケッペル伯爵は身バレを避けて、マフィアの営業する岡場所に行ってたから罹患したと言われているの。で、あなたの弟が通っていた娼館は、何かあった時に切れる様に、岡場所だったのよ」
「うわぁ……身内がそういうところで貰って来たら最悪ね。接触しなければうつらないと思うけど……」
「と、言うことで、変な男と結婚しないで済んで良かったし、不味い弟と縁が切れて良かったでしょ?感謝してね?」
「はいはい。感謝感謝」
「じゃあ、感謝の意として商会の買い付けに二人で南部の貿易港まで行きましょうよ。南国の布地とか雑貨、考えただけで楽しそうじゃない?」
「伯爵の跡取りの夫人がそんな旅行に行ける訳ないでしょ?」
「宰相の派閥にも貢献したんだから、そのくらい許されるでしょ。さあ、計画を立てましょ」
「あなたには敵わないわ……」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。次の男に期待するより、活動的な友人の方が確実に頼りになるというお話でした。
本来はこの後、婚約破棄ものを書こうと思ったのですが、構成してみるとどうも本来のテーマから離れてしまったので一時保留としました。猫小説の続きを望む意見があったもので、そちらを書きます。でも、学園編になるから、猫の出番が減ってしまうので止めといたのです……まあ、それっぽくまとめよう。
10月17日くらいにまた、瀬上の名前を、今度はハイファンで見かけたら、ご一読いただければ幸いです。




