2. グレイ子爵領
許可証は早々に出た。だから私達はモーランド伯爵家の馬車で、私の実家のグレイ子爵領の隣のダドリー男爵の領主館に向かった。
キャロライン・モーランドはダドリー男爵に挨拶した。
「男爵閣下のご厚意で早急に話が進みます。感謝いたします」
「いえ、モーランド伯爵家とグレイ子爵家のお役に立てて幸いです」
一泊した後、領地境の街まではダドリー男爵の馬車を借りて進んだ。
「ねえ、検問所から子爵領の近くの街まで1マイルあるけど、あなた大丈夫?」
「モーランドの領地では色々歩いて見て回ってるの。だから歩くのは苦じゃないわ」
「それなら良いけど……」
私とキャロラインは平民の旅装といういで立ちで検問所に向かった。通行許可証に書かれた名前はキャリーとエマという平民の名前になっていた。通行理由は「旅行の途中の観光」となっていた。
「うちの領地に観光する場所なんてないけど……」
「ダドリー男爵領への旅行のついでの物見遊山って事にしてるわ。だから特に期待はないというところ」
「なら良いけど……」
グレイ子爵領の検問の役人にも通行許可証を見せる。特に興味なさそうに見た役人は日付とサインを書いて返してくれた。
「まあ、貧乏領地だけど、朝一番に隣の領に行く人間が一人もいないのはどうかしらね……」
「あちらからこちらに来る人もいないからお相子じゃない?」
山の木々が色づいている中を街を目指して歩く。
「私は子供の頃から見慣れているから、こういう風景を好ましく思うけど、都会の人は違うでしょうね」
「あら、うちも変わらないわ。婚家も似たようなものだし」
「そう言えばデイビー伯爵領には一度も連れて行ってもらえなかったわ」
「ふ~ん。何か前兆があったと言う事ね」
「何の?」
「そんなに親しくないのなら、色々見ておかないといけないって事よ」
「……それなりに愛想は振舞っていたつもりだけど」
「まあ、後々の為に教訓としておく事ね」
「……」
辿り着いた街は、実は私も初めて来る街だったが……街に人影はなかった。
商店の看板が出ている家に入る。キャロラインが店番に声をかける。
「旅の者ですけど、保存用の固焼きパンはあります?」
店番は蓋を被せた籠を指差す。その前に書かれた値段は、王都の五割増しだった。
「何でこんなに高いの?」
「伯爵家に嫁いだご令嬢が悪いんだよ。伯爵家の権力を傘に、何でも高く買わせるんだ」
「だからってパンは高くならないでしょ?」
「伯爵家から買い取るものの対価を払う為に、領主が絡むものの価格も全部高くなってるんだよ」
あまりの事に立ちすくむ私を尻目に、キャロラインは他の物の値段も尋ねた。私が商会から安く卸している筈の物は売っておらず、領地で作った粗雑な手作り品が他の領地より高く売っていた。
「こんな製品を手作りする人手があるの?」
「無いから、農業に関わる時間が減っていて、収穫が毎年下がっているんだ」
何も考えられずに足が重い私の手を取って、キャロラインは道を戻って行く。
「実家があなたを歓迎しない理由が分かった?」
「……何でこんな事に……」
「それを確かめる必要があるでしょ。まずダドリー領に戻る。あなたの領地に商品を卸しているのはうちの伯爵領にある支店よね?そこから過去の帳簿を持って来る様に依頼を書きなさい。私があなたの家に緊急の訪問の手紙を書くから、最短で突撃しましょう」
「そんなに急ぐ事なの?」
「分かってないわね。明らかに誰かが不正をしてるのじゃない。だから隠し様が無い様に急ぐのよ」
「不正……」




