1. 離縁
結婚3年目にして、夫に離縁された。
グレイ子爵家の長子として生まれた私は、1才下に弟が生まれた事から、早々に嫁に出る事が決まっていた。順当に貴族学院在学中に婚約が出来、卒業1年後に結婚式を挙げた。
夫はデイビー伯爵家の嫡男で、当然伯爵家のタウンハウスに嫁入りしたのだが、まだ義母がタウンハウスを取り仕切っていた。だから私は夫と共に社交の場に出るのが主な仕事だった。その隙間時間に貧乏な実家の支援として商会を営み、安価な商品を実家に送り続けた。
一方、1年後には夜の営みが絶えた。理由がどこにあるのかは分からなかった。そして半年後にはタウンハウス以外の茶会・夜会に出る事を禁じられ、結婚2年後にはタウンハウスで行われるイベントへの出席も禁じられた。かくして、3年目には子が出来ないという理由で離縁されたのだ。
実家には連絡をしたけれど、「準備が必用だから」と帰宅を保留させられた。仕方なく実家支援の為に起こした商会「ハーベスト商会」の仮眠室で寝泊りを続けている。
商会の設立に嫁入り持参金を使った事もあり、多少伯爵家の資本も入っているが、離縁の際に慰謝料と共に商会は私のものになった。
離縁の憤懣、離縁で傷付いている私の帰宅も許さない家族に対する不満を誰かに聞いて貰いたくて、貴族学院在学時の友人に手紙を出したけれど、4通出して3通は「都合が悪い」とお断りの返事が返って来た。渡る世間は冷たすぎる。
そうして、1通だけ返って来た返事の相手、キャロライン・モーランド、私同様伯爵家の跡取りの嫁になった友人をモーランド家のタウンハウスに訪ねた。
「ハイ、エミリー。萎れた顔をしてるわね」
「キャロライン……情けも容赦も無いわね」
「付き合いのある商会の商会長が元気が無かったら困るのよ。さあ、世の中の全てに対する恨みを口にする相手が欲しかったんでしょ?思う存分に言いなさい」
そう、モーランド伯の領地にも私の商会から安い商品を納めているんだ。
「その、やっぱり不満なのは、最初の1年以来夜のお勤めがないのに、子供なんて出来る訳ない。それなのにそれを理由に離縁って、酷過ぎるでしょ」
「まあ、男の言い分はまた別でしょうね。嫁に貰ってやったのに愛想が足りないとか」
「そうでしょうね……何て言うか、すごく身勝手な感じなのよ、床の上では。彼って」
「床の外では普通?」
「……最初は愛想が良かったと思うんだけど、いつから愛想が無くなったのか覚えてないくらい前から愛想が無いわ」
「まあ、あまり情熱的でも疲れちゃうけどね」
「あらあら、ご馳走様」
「まあ、相性があるからね。それで、実家はどうなの?」
「準備が必要だからまだ待てって」
「ふふん。1カ月経ってもそれなら、二度と来るなって意味ね」
「何でそこまで……私が実家に何をしたと言うの」
「ふふふ。悪いけど、あなたは現場を知らなさ過ぎるのよ」
「現場?実家の事?」
「何かにつけ、よ。伯爵家でのあなたの扱いはどうだった?」
「1年半前には外の茶会やら夜会の出席を禁じられたわ。1年前にはタウンハウスの社交も禁じられた」
「そうね。一度現場を見た方が良いわ」
「社交の場も?」
「あなたの実家は領地に付きっ切りで、王都での社交はあまりやってないでしょ?」
「全くやってないわ」
「なら、見るべきは実家の方ね」
「そうなの?」
「さて、あなたは実家への帰宅の許可が出ていないわね?」
「うん」
「じゃあ、隣の領主にお願いして許可証を出して貰いましょう」
「そこまでしないと領地にも入れないと思ってるの?」
「いえ、抜き打ち検査っていうのが必要な事があるのよ」
「え―、モーランド伯爵家ではそういう事をやっているの?」
「もちろん、私がやっているのではなくて、人を雇ってやっているのだけれど、今必要なのは、現状をあなたがその目で見る事でしょうよ。だから、二人で行きましょ」
「え―、伯爵の跡取り夫人がそんな軽い事で良いの?」
「もちろん、毎度そんな事をやっていたらそれこそ離縁されちゃうけど、あなたの商会は伯爵家の出入りの商会なのよ。そこの現状確認は誰かがやる必用があるの。今回はあなたという友人の為だから、私が動いても文句は出ないわ。社交と言えない事もないもの」
「さて、そういう訳だから、モーランド家の伝手があるダドリー男爵にお願いするけど、良い?」
「え、もう相手も決めてるの?」
「あなたが決心してくれたら、すぐにでも動こうと思ってたのよ。良い友人がいて良かったわね」
「じゃあ、旦那様にも了解は取ってあるの?」
「もちろんよ。友情も大切だし、領地に出入りする商会の監査も必用だから」
「何か、二つ目の理由で旦那様に許可を取った様に聞こえるけど?」
「そんな事はないわ。じゃあ、許可証が出たら連絡するから、少し待ってね」
「手間をかけさせてごめんなさいね」
「なに、困った時はお互い様よ」
「在学中」→「在学時」 修正しました。




