『死を纏う四枚目』【12】
A「俺――」
A「負けたよ」
風が――
吹く。
A「…………」
A「師匠以外に――」
A「初めて」
墓は――
何も。
答えない。
A「強かったよ」
A「あいつ」
A「俺の一撃を――」
A「何度も」
A「避けて」
A「それでも――」
A「向かってきた」
A「…………」
A「最後は――」
A「俺の剣まで」
A「折られた」
僅かに――
笑う。
A「まさか――」
A「俺が負けるとはな」
A「…………」
その時。
脳裏に――
あの戦いが。
蘇る。
折れた――
自らの剣。
その向こうに――
立つ。
一人の青年。
シオン『これが――』
シオン『俺の真っ直ぐな剣《信念》だ』
A「…………」
シオン『何のために振るうのか』
シオン『何を守るのか』
シオン『何を貫くのか――』
A「…………」
その言葉に――
重なる。
師匠『強い剣と――』
師匠『強い剣士は』
師匠『同じではない』
A「…………!」
そして――
もう一つ。
まだ。
ヴァンだった頃。
ヴァン『父さんと――』
ヴァン『母さんの分まで』
ヴァン『俺が――』
ヴァン『生きるために』
A「…………」
何のために――
剣を振るうのか。
そんなこと――
考えなくなっていた。
強い奴と――
戦いたい。
退屈だから――
斬る。
面白そうだから――
戦う。
いつの間にか。
剣を握った――
最初の理由さえ。
忘れていた。
A「…………」
技は――
磨いた。
身体も――
鍛えた。
それでも。
ずっと――
足りなかったもの。
A「…………」
A「心――」
A「そういうことか」
A「師匠」
A「やっと――」
A「あんたが言ってたこと」
A「分かったよ」
返事は――
ない。
A「…………」
A「俺――」
A「剣を握った理由まで」
A「忘れてた」
A「強い奴と戦えれば――」
A「それでいい」
A「退屈じゃなければ――」
A「それでいい」
A「そんなことばっかり――」
A「考えてた」
A「…………」
A「でも――」
A「もう」
A「やめるよ」
A「退屈だからとか――」
A「面白いからとか」
A「そんな理由で――」
A「人を斬るのは」
A「もう――」
A「やめる」
風が――
吹く。
A「…………」
A「まあ――」
A「強い奴と戦いたいのは」
A「変わらないけどな」
僅かに――
口元が上がる。
A「…………」
A「じゃあな――」
A「師匠」
墓に――
背を向ける。
その時。
A「…………?」
足が――
止まった。
振り返る。
師匠の――
墓。
何かが――
おかしい。
A「…………」
再び――
墓へ近づく。
しゃがみ込み。
地面へ――
手を伸ばす。
土を――
掴む。
まだ――
柔らかい。
A「…………」
墓の前だけ――
土の色が。
僅かに――
違っている。
一度――
掘り返され。
埋め戻されたような――
A「…………」
A「まさか――」
ザッ――!!
土を――
掘る。
ザッ――
ザッ――
ザッ――
やがて――
指先に。
硬いものが――
触れた。
棺。
A「…………」
土を払い――
蓋に。
手をかける。
ギィィ――
ゆっくりと――
開く。
A「…………」
空だった。
眠っているはずの――
師匠の姿が。
どこにも――
ない。
A「…………」
A「誰だ――」
低い声。
墓を荒らし。
死体だけを――
持ち去った。
その時――
一人の男が。
頭に――
浮かぶ。
墓守。
死者を操り。
強い死体を――
集めている男。
同じ――
《凶宴》の。
A「…………No.4」
確証は――
ない。
だが。
もし――
あいつなら。
Aは――
No.4を。
探し始めた。
だが。
《凶宴》の者たちは――
普段。
互いがどこにいるのかすら。
知らない。
分かっているのは――
No.4が。
墓守であること。
それだけ。
どこの墓地なのか――
分からない。
それでも。
Aは――
探した。
各地を――
巡り。
墓地を――
調べ。
噂を――
追った。
そして――
ようやく。
一つの場所へ――
辿り着く。
《ネクロア大墓苑》。
大陸最大の――
墓地。
No.4が――
そこにいる。
それを知ったのは――
つい最近のことだった。
――そして。
現在。
ブォンッ――!!!
振り下ろされる――
Aの剣。
師匠「…………」
師匠の剣が――
僅かに。
傾く。
カッ――!!
触れる。
受けない。
止めない。
力の向きを――
変える。
A「…………」
何度。
見ただろう。
何度。
この剣に――
負けただろう。
昔の俺なら。
ここから――
さらに。
力を込めた。
流されないほど――
強く。
押し切ろうとした。
だが。
A「…………」
今は――
違う。
師匠の剣に――
逆らわない。
流される――
自らの剣。
その流れを。
Aは――
受け入れた。
師匠「…………」
スッ――
Aの身体が――
動く。
それは。
今――
覚えたものではない。
幼い頃から――
何度も。
何度も。
叩き込まれた。
避ける。
流す。
いなす。
相手を――
見る。
あの頃は――
理解できなかった。
それでも。
身体だけは――
覚えていた。
そして――
今。
ようやく。
分かる。
A「…………」
力は――
ぶつけるだけじゃない。
流れに――
逆らわず。
相手の力を――
利用する。
師匠の剣が――
流れる。
同時に。
Aの剣も――
流れる。
二つの剣が――
交差し。
師匠の身体が――
僅かに。
傾いた。
ほんの――
僅か。
だが。
Aにとっては――
それで。
十分だった。
A「師匠――」
初めて。
見えた。
何度挑んでも――
作ることのできなかった。
師匠の――
隙。
A「…………」
ここから先は――
俺の剣だ。
流れていた剣を――
握る。
足を――
踏み込む。
腰を――
回す。
全身の力を――
ただ。
一つへ。
柔から――
剛へ。
ドンッ――!!!
A「――ッ!!」
一閃。
師匠「…………」
剣が――
止まる。
静寂。
A「…………」
師匠の身体が――
ゆっくりと。
崩れる。
ドサッ――
A「…………」
一撃。
ただ――
一撃。
何度。
挑んでも。
届かなかった。
その背中を。
今――
初めて。
超えた。
A「…………」
倒れた師を――
見つめる。
師匠から――
教わった。
《柔》。
自らが――
選んだ。
《剛》。
そして。
あの青年に――
気づかされた。
《心》。
そのすべてが――
たった。
一振りに。
A「…………」
剣を――
下ろす。
A「師匠」
A「…………」
A「安らかに――」
A「眠ってくれ」




