『死を纏う四枚目』【11】
村を――
出た。
ヴァンは。
ただひたすらに――
剣を振った。
山を越え。
国を渡り。
強いと聞けば――
その者を訪ねた。
剣士。
傭兵。
騎士。
戦い。
勝ち。
また――
次の強者を探す。
その繰り返し。
そして。
ヴァンの剣は――
少しずつ。
変わっていった。
受ける必要はない。
流す必要もない。
相手が――
剣を振るうより先に。
一撃で――
終わらせる。
やがて。
ヴァンは――
村へ戻った。
師匠「…………」
ヴァン「師匠」
師匠「久しぶりだな」
ヴァン「勝負――」
ヴァン「してください」
師匠「…………」
師匠「いいだろう」
ダッ――!!
ヴァンが――
踏み込む。
以前とは――
違う。
速さ。
重さ。
そして――
迷いのない。
一撃。
ブォンッ――!!!
だが。
カッ――
ヴァン「――!」
剣を――
添えられ。
僅かに。
軌道を――
変えられる。
ブンッ――!!
ヴァンの剣が――
空を斬る。
その瞬間。
トンッ――
ヴァン「――っ」
首元に――
止められた。
師匠の剣。
ヴァン「…………」
師匠「終わりだ」
ヴァン「…………」
また――
負けた。
ヴァン「…………まだだ」
師匠「?」
ヴァン「俺の一撃が――」
ヴァン「まだ」
ヴァン「弱いだけだ」
師匠「…………」
ヴァン「次は――」
ヴァン「もっと強くなって」
ヴァン「戻ってきます」
師匠「そうか」
ヴァン「はい」
再び――
ヴァンは。
村を――
出た。
――それから。
さらに――
時が流れた。
以前より――
速く。
以前より――
重く。
以前より――
鋭く。
ヴァンの剣は。
ただ一つ。
一撃で――
相手を倒すことだけを。
追い求めていった。
ドンッ――!!!
一振り。
それだけで――
目の前の男が。
地面へ――
崩れ落ちる。
男「ま、参った……」
ヴァン「…………」
また――
一撃。
強いと――
呼ばれる者たちが。
次々と。
一振りで――
沈んでいく。
いつしか――
二撃目を。
振るうことすら――
なくなった。
ヴァン「…………」
これなら――
勝てる。
そして。
再び――
師匠のもとへ。
ヴァン「師匠」
師匠「…………」
ヴァン「勝負――」
ヴァン「してください」
師匠「いいだろう」
向かい合う――
二人。
ヴァン「…………」
今度こそ。
この一撃で――
超える。
ドンッ――!!!
大地を――
蹴る。
ヴァン「はぁっ!!」
振り抜かれる――
必殺の。
一撃。
だが――
スッ――
ヴァン「――!」
また。
同じだった。
師匠は――
受けない。
力の向きを――
僅かに変える。
ヴァンの――
全力。
そのすべてが。
師匠の横を――
通り過ぎる。
ガッ――!!
ヴァン「――っ!!」
体勢を――
崩された。
その喉元へ。
ピタッ――
再び。
師匠の剣。
ヴァン「…………」
師匠「終わりだ」
ヴァン「…………っ」
強くなった。
それは――
間違いなかった。
以前の自分とは――
比べものにならない。
なのに。
ヴァン「…………なんでだ」
師匠「…………」
ヴァン「なんで――」
ヴァン「あんたには」
ヴァン「届かない……」
師匠「…………」
師匠「ヴァン」
ヴァン「?」
師匠「お前の剣は――」
師匠「強くなった」
ヴァン「…………!」
師匠「だが――」
師匠「まだ」
師匠「足りない」
ヴァン「…………」
ヴァン「何が――」
師匠「…………」
ヴァン「俺に」
ヴァン「何が足りないんですか」
師匠「…………」
だが。
師匠は――
答えなかった。
ヴァン「…………」
なら――
もっと。
強くなればいい。
流すことすら――
できないほど。
もっと速く。
もっと重く。
もっと――
強い。
一撃を。
ヴァン「…………」
ヴァン「また――」
ヴァン「来ます」
師匠「ああ」
ヴァン「次こそ――」
ヴァン「勝ちます」
師匠「…………」
師匠「待っている」
そして――
ヴァンは。
三度。
旅へ出た。
どれほど――
経っただろう。
再び。
故郷へ――
戻ってきた。
以前より。
さらに――
強くなった。
今度こそ。
今度こそ――
あの人を。
超える。
ヴァン「…………?」
だが。
村へ入った――
ヴァンは。
違和感に――
気づく。
いつもなら。
剣を振るう音が――
聞こえてくるはずの場所。
そこが。
妙に――
静かだった。
ヴァン「…………」
歩く。
かつて――
初めて。
師匠の剣を見た。
あの場所へ。
ヴァン「…………師匠?」
返事は――
ない。
そして。
ヴァンが――
目にしたものは。
一つの――
新しい墓だった。
ヴァン「…………」
次こそ――
勝つつもりだった。
もっと強くなって。
今度こそ――
あの剣を。
超えるつもりだった。
だが。
もう――
その機会は。
永遠に――
訪れない。
ヴァン「…………」
結局。
一度も――
勝てなかった。
そして――
何が。
足りなかったのか。
その答えも――
聞けないまま。
ヴァン「…………」
再び。
ヴァンは――
旅に出た。
強者を探し。
剣を振るい。
一撃を――
磨き続ける。
ただ。
以前と違ったのは――
その先に。
帰る場所が――
なくなったこと。
そんな――
ある日。
ヴァン「…………?」
目の前に――
一通の。
手紙。
差出人は――
ない。
ヴァン「…………」
封を――
開く。
そこに。
記されていたのは――
一つの。
誘い。
《凶宴-CARD》。
そして――
その下に。
一文字。
《A》
ヴァン「…………」
手紙には――
自らの頬に。
その印を――
刻めと。
記されていた。
ヴァン「…………」
強い者を探し。
戦い。
勝つ。
ただ――
それだけの日々。
ヴァン「…………」
ヴァン「面白そうだな」
そして。
ヴァンは――
自らの頬に。
《A》の印を――
刻んだ。
この日。
ヴァンは――
《A》に。
なった。
それから――
幾度となく。
手紙は――
届いた。
そこに記されている――
仕事を。
こなす。
戦場。
街。
王国。
時には――
滅ぼし。
時には――
救う。
理由など――
どうでもよかった。
退屈でなければ――
それでいい。
そして。
いつしか――
ヴァンという名を。
呼ぶ者は――
いなくなった。
《A》。
それが――
彼の名になった。
そして――
あの日。
炎が――
空を染めていた。
崩れ落ちる――
王城。
響き渡る――
悲鳴。
アルヴェリア王国。
十三枚のカードが――
一つの国を。
滅ぼした日。
A「…………」
燃え上がる――
王都を。
歩く。
その時。
ふと――
視線を。
感じた。
A「…………?」
振り向く。
炎の向こう。
一人の――
青年。
シオン「…………」
A「…………」
ほんの――
一瞬。
二人の視線が――
交わった。
その時は――
それだけだった。
まさか。
あの青年が――
いつか。
自分の前に。
立つことになるとは。
そして――
時は流れ。
ガキィィィン――!!!
A「――っ!!」
折れた――
剣。
A「…………」
目の前に――
立つ。
あの日。
炎の向こうにいた――
青年。
シオン「…………」
A「…………」
負けた。
師匠以外に――
初めて。
あれほど――
追い求めた。
一撃。
速さ。
重さ。
鋭さ。
そのすべてを――
磨いてきた。
それでも――
届かなかった。
A「…………」
だが。
不思議だった。
師匠に――
負けた時とは。
何かが――
違った。
強さ。
それだけを――
追い続けてきた。
強い者と――
戦う。
勝つ。
もっと――
強い者を探す。
退屈なら――
斬る。
面白ければ――
戦う。
いつから――
そうなった。
A「…………」
そして――
Aは。
ある場所へ――
向かった。
かつて。
何度も――
帰ってきた。
故郷。
その――
墓地。
並んだ――
二つの墓。
A「…………」
その前に――
静かに。
立つ。
A「父さん」
A「母さん」
風が――
草木を揺らす。
A「…………」
A「久しぶり」
しばらく――
二つの墓を。
見つめる。
幼い頃。
この二人の――
分まで。
生きるために。
強くなりたいと――
そう。
願った。
A「…………」
いつから――
忘れていたんだろう。
生きるために――
強くなりたかった。
それだけだった――
はずなのに。
A「…………」
A「また来るよ」
二つの墓に――
背を向ける。
そして。
少し離れた――
もう一つの墓へ。
A「…………」
その前に――
立つ。
A「師匠」
返事は――
ない。
風が――
吹く。
A「…………」
墓を――
見つめる。
そして。
A「俺――」
A「負けたよ」




