『二枚目の裏側』【2】
シオン「そいつは――」
シオン「どっちへ行った?」
男「……あっちだ」
男が、
廃村の外を指差す。
男「何も言わずに……」
男「一人で歩いていった」
シオン「…………」
シオンは、
その方角へ目を向ける。
どこまでも続く、
荒れ果てた大地。
シオン「……分かった」
剣を握り直し――
歩き出す。
――――――――――
乾いた風が、
荒野を吹き抜ける。
シオン「…………」
足跡は、
ところどころ砂に消されている。
それでも――
進む方向は分かる。
そして、
しばらく歩いた頃。
シオン「…………!」
遠くに――
人影。
荒野に突き出した、
大きな岩。
その麓に、
一人の男が座っている。
シオン「…………」
ゆっくりと、
距離を詰める。
男は――
動かない。
こちらに気づいていないのか。
いや。
シオン「…………」
違う。
気づいている。
それでも、
こちらを見ようともしない。
男は、
静かに水を口へ運ぶ。
シオン「…………」
さらに近づく。
そして――
見えた。
男の頬。
そこに刻まれた――
“2”。
シオン「…………!」
間違いない。
シオンの手が、
剣の柄へ伸びる。
その瞬間――
No.2「……何だ」
シオン「……!」
No.2は、
振り返らない。
No.2「さっきから――」
No.2「殺気がうるさい」
シオン「…………」
静かな声。
怒気もない。
威圧感すら、
ほとんど感じない。
シオン「お前が……No.2か」
No.2「…………」
水筒の蓋を閉める。
No.2「そう呼ばれてる」
シオン「…………」
ゆっくりと――
No.2が立ち上がる。
そして、
初めてシオンを見る。
シオン「…………」
静かな目。
廃村の男が言っていた通りだった。
あの惨状を作った人間とは、
とても思えない。
シオン「……さっきの廃村」
No.2「…………」
シオン「あそこにいた盗賊は――」
シオン「お前がやったのか」
No.2「ああ」
シオン「十数人いた」
No.2「ああ」
シオン「……全員殺したのか」
No.2「ああ」
淡々と――
答える。
まるで、
大したことではないかのように。
シオン「…………」
シオン「なぜ殺した」
No.2「邪魔だった」
シオン「……何?」
No.2「あいつらは――」
No.2「この土地で好き勝手やってた」
シオン「…………」
No.2「人を攫って」
No.2「奪って」
No.2「殺して」
No.2「ここを自分たちの場所みたいに使ってた」
シオン「…………」
No.2「だから斬った」
シオン「…………」
シオンは、
No.2を見つめる。
シオン「……人質を助けるためか?」
No.2「違う」
シオン「……?」
No.2「盗賊を斬ったのは――」
No.2「邪魔だったからだ」
シオン「…………」
No.2「捕まってた奴らは」
No.2「俺には関係ない」
シオン「だったら、なぜ縄を切った」
No.2「…………」
No.2は、
僅かに首を傾ける。
No.2「殺す理由がなかった」
シオン「…………」
No.2「それだけだ」
シオン「…………」
盗賊は殺した。
だが――
捕らわれていた人々には、
傷一つつけなかった。
善人だから、
助けたわけではない。
悪人だから、
殺したわけでもない。
ただ――
自分の中にある何かだけで、
行動している。
シオン「…………」
やはり――
妙な男だ。
シオン「……お前」
No.2「?」
シオン「凶宴の一員なんだな」
No.2「ああ」
否定する様子すらない。
シオン「…………」
No.2「それがどうした」
シオン「俺は――」
シオンの目が、
鋭くなる。
シオン「凶宴を追ってる」
No.2「…………」
初めて――
No.2の表情が、
僅かに変わった。
シオン「お前たちを――」
シオン「一人ずつ追ってる」
No.2「…………」
シオン「そして――」
シオン「凶宴を終わらせる!」
No.2「…………」
沈黙。
風が、
二人の間を吹き抜ける。
だが――
No.2は、
剣に手を伸ばさない。
怒りもしない。
ただ――
少しだけ興味深そうに、
シオンを見ている。
No.2「……そうか」
シオン「…………」
No.2「面白いことをする奴もいるんだな」
シオン「……遊びじゃない」
No.2「…………」
シオン「俺には――」
シオン「お前たちを追う理由がある」
No.2「理由?」
シオン「ああ」
一瞬――
シオンの脳裏に、
炎が蘇る。
燃え上がる街。
崩れ落ちる王城。
倒れていく人々。
そして――
父。
シオン「……アルヴェリア」
No.2「…………」
シオン「覚えてるか」
No.2「…………」
僅かな沈黙。
そして――
No.2「ああ」
シオン「…………!」
No.2「覚えてる」
シオンの手が、
強く握られる。
シオン「だったら――」
シオン「聞かせてもらう」
No.2「…………」
シオンは、
真っ直ぐNo.2を見据える。
シオン「お前たちは――」
風が止む。
シオン「何のために――」
シオン「世界中で、あんなことを繰り返してる」
No.2「…………」
しばらくの沈黙。
やがて――
No.2が、
静かに口を開いた。
No.2「……種だ」
シオン「…………?」
No.2「俺たちは――」
静かな目が、
シオンを捉える。
No.2「世界中に、種を蒔いてる」
シオン「……種?」
No.2「ああ」
乾いた風が――
再び、
二人の間を吹き抜けた。




