『二枚目の裏側』【1】
乾いた風が、
砂埃を巻き上げる。
見渡す限り――
荒れ果てた大地。
草木はほとんどなく、
ひび割れた地面が、
どこまでも続いている。
その中を――
一人の男が歩いていた。
シオン「…………」
照りつける陽射し。
吹きつける砂。
そして――
シオン「……何もないな」
人の気配すら、
ほとんどない。
道と呼べるものもなく、
時折見えるのは――
崩れかけた家。
朽ちた荷車。
誰のものかも分からない、
錆びついた武器。
シオン「…………」
ここへ来るまでにも、
いくつかの小さな集落を通った。
だが――
どこも似たようなものだった。
貧しい。
荒れている。
そして何より――
人々の目が、
異様なほど冷たい。
誰も他人を信用していない。
目が合えば逸らす。
近づけば警戒する。
子供ですら――
腰に小さな刃物を携えていた。
シオン「……本当に、こんな場所にいるのか」
その言葉と共に――
シオンの脳裏に、
あの男の声が蘇る。
――――――――――
No.A『No.2なら、心当たりがある』
シオン『No.2……?』
No.A『ああ』
No.A『あいつは基本――』
No.A『自分が生まれた国から、そう遠くへは離れない』
シオン『……なぜだ?』
No.A『知らん』
シオン『…………』
No.A『本人に聞け』
シオン『……お前、本当に仲間に興味ないんだな』
No.A『仲間?』
シオン『……?』
No.A『ははっ』
No.A『たぶん、みんなそんなもんだぞ』
シオン『……何?』
No.A『俺たちは十三人で《凶宴-CARD》を名乗ってる』
No.A『だが――』
No.A『別に仲良し十三人組じゃない』
シオン『…………』
No.A『普段は好きな場所で、好きなように生きてる』
No.A『互いがどこにいるのかも』
No.A『何をしてるのかも知らない』
No.A『知ろうとも思わない』
シオン『…………』
No.A『仕事が来れば十三枚が揃う』
No.A『終われば、また散る』
No.A『それが凶宴だ』
シオン『……よくそれで組織として成り立ってるな』
No.A『だから面白いんだろ』
シオン『…………』
No.A『十三人全員、好き勝手に生きてる』
No.A『誰かのために凶宴にいる奴なんて――』
No.A『たぶん、一人もいない』
シオン『…………』
No.A『それで――場所だったな』
シオン『ああ』
No.A『――ヴァルガ』
シオン『ヴァルガ……?』
No.A『大陸の西端にある小国だ』
No.A『国なんて呼ばれてるが――』
No.A『実際は、そんな立派なもんじゃない』
シオン『…………』
No.A『土地は痩せてる』
No.A『まともな作物も育たない』
No.A『国の目もほとんど届いてない』
No.A『奪う奴がいて』
No.A『奪われる奴がいる』
No.A『それだけの場所だ』
シオン『…………』
No.A『あいつが今どこにいるかまでは知らない』
No.A『だが――』
No.A『探すなら、まずヴァルガへ行け』
シオン『ヴァルガ……』
No.A『運が良けりゃ、その辺にいるだろ』
シオン『……随分適当だな』
No.A『居場所まで知るかよ』
シオン『…………』
No.A『言っただろ』
No.A『俺たちは、そんな仲良し集団じゃない』
シオン『……分かった』
No.A『じゃあな、DEALER』
シオン『その呼び方はやめろ』
No.A『ははっ』
――――――――――
シオン「…………」
荒れ果てた大地を、
改めて見渡す。
シオン「ヴァルガ……か」
No.Aの言葉通り――
国と呼ぶには、
あまりにも荒れている。
そして――
このどこかにいる。
二枚目。
No.2。
シオン「…………」
そのまま、
しばらく歩き続ける。
やがて――
シオン「……?」
遠くに、
いくつもの建物が見えてきた。
数軒。
いや――
もう少しある。
だが、
人が暮らしているようには見えない。
屋根は崩れ、
壁はひび割れ、
ところどころ、
建物そのものが砂に埋もれている。
シオン「……廃村か」
かつては、
小さな集落だったのだろう。
だが今は――
人の営みなど、
どこにも残っていない。
シオン「…………」
それでも――
微かに、
人の気配がする。
シオンは、
剣の柄へ手をかけた。
そして――
廃村へ足を踏み入れる。
シオン「…………」
妙に静かだ。
乾いた風が、
壊れた扉を揺らす。
ギィ……
ギィ……
シオン「…………」
その時――
鼻を突く、
鉄の匂い。
シオン「……!」
シオンは、
匂いのする方へ進む。
そして――
シオン「…………!」
開けた場所に、
無数の男たちが倒れていた。
一人。
二人。
そんな数ではない。
十数人。
全員――
盗賊らしき男たち。
シオン「…………」
壁。
地面。
柱。
至るところに――
無数の剣傷が刻まれている。
深く抉られたもの。
地面まで達しているもの。
何度も斬りつけられたようなもの。
まるで――
この場所そのものへ、
手当たり次第に刃を叩きつけたかのような惨状。
シオン「…………」
だが――
シオンは、
足元に倒れた盗賊を見る。
シオン「……?」
首。
胸。
腹。
致命傷となった傷は――
一つ。
シオン「…………」
別の死体を見る。
同じだ。
その隣も。
さらに――
その隣も。
周囲には、
これだけ無数の剣傷が残っている。
それなのに――
シオン「全員……急所を一撃か」
あまりにも、
正確な太刀筋。
シオン「…………」
荒れ狂ったような、
周囲の惨状。
それとは対照的に――
盗賊たちは、
全員が急所への一撃で絶命している。
シオン「……何があった」
その時――
「……たすけ……」
シオン「!」
微かな声。
シオンが、
声のする方へ駆ける。
一軒の廃屋。
扉を開ける。
そこには――
数人の男女。
そして、
子供たちがいた。
シオン「……!」
全員、
生きている。
身体にも、
目立った傷はない。
シオン「大丈夫か!」
男「…………」
シオン「何があった」
男「……俺たちは」
男「盗賊に捕まってた……」
シオン「盗賊に?」
男「ああ……」
男「近くの集落や、街道から攫われて……」
男「ここへ連れてこられた……」
シオン「…………」
男「殺されると思ってた」
シオン「…………」
男「でも――」
男が、
足元へ目を向ける。
シオンも、
その視線を追う。
そこには――
切断された縄。
シオン「…………!」
男「突然……外が騒がしくなって……」
男「盗賊たちの悲鳴が聞こえた」
シオン「…………」
男「それから――」
男「何も聞こえなくなった」
シオンは、
足元の縄を拾い上げる。
切断面は――
綺麗だった。
一太刀。
縛られていた人間を、
傷つけることなく――
縄だけを、
正確に斬っている。
シオン「…………」
外の惨状とは、
まるで違う。
シオン「……誰がやった」
男「分からない……」
シオン「見てないのか?」
男「最後だけ……」
シオン「……?」
男「俺たちの縄を切りに来た」
シオン「どんな奴だった」
男「…………」
男は、
しばらく黙っていた。
そして――
男「静かな奴だった」
シオン「…………」
男「あんなことをした奴とは……」
男「とても思えないくらい――」
男は、
外に広がる惨状へ目を向ける。
男「静かな目をしてた」
シオン「…………」
男「それに……」
シオン「?」
男「信じられないかもしれないが――」
男の身体が、
僅かに震える。
男「一人だった」
シオン「……一人?」
男「ああ」
男「盗賊を殺したのも」
男「俺たちの縄を切ったのも――」
男「全部、そいつ一人だ」
シオン「…………」
男「それと……」
シオン「……?」
男「頬に、妙な印があった」
シオン「……印?」
男「ああ」
男は、
自分の頬を指差す。
男「ここに――」
一瞬、
シオンの目が鋭くなる。
男「“2”って印をつけた男だった」
シオン「…………!」
周囲に刻まれた――
無数の剣傷。
それなのに、
盗賊たちは全員――
急所を一撃。
人質は、
誰一人傷ついていない。
そして――
頬に刻まれた、
“2”。
シオン「…………」
間違いない。
シオン「No.2……」
二枚目は――
すぐそこにいる。




